2023年春季総合特集(10)/Topインタビュー/大和紡績/社長 有地 邦彦 氏/意味ある価値を訴求/横串の開発で成長市場へ切り込む

2023年04月24日 (月曜日)

 大和紡績は2021年に合繊、産業資材、製品・テキスタイルの3事業本部の研究開発機能を播磨研究所(兵庫県播磨町)に一本化した。そこで生まれた独自性のある原料や素材が、これからの成長戦略の切り札として芽吹き始める。前期(23年3月期)はさまざまなコストアップに翻弄(ほんろう)され利益面で苦戦したものの、有地邦彦社長は「底を打ったと考えている」と話し、今期から攻勢に転じる。今月にはマーケティンググループを立ち上げ、アジアや北米に向け不織布や建材などの販路開拓に着手。コスメティックやメディカルのメーカーへ製品で供給するといった新たなビジネスモデルの構築にも乗り出す。

――インフレを好機とするには何が必要でしょうか。

 日本では長らくデフレの時代が続き、物価上昇に慣れていません。まずは物価が上がった分、ある程度、賃金が上がっていかなくてはいけない。インフレはどうしてもネガティブなイメージがあります。その分、順回転していく経済成長も必要だと感じます。

 もう一つは企業としてインフレをどう捉えるかになりますが、単純に価値を上げるだけで本当にその商品が売れるかどうかです。アイフォンが良い例で音が良い、電話ができるだけでは誰も買わない。アプリが充実し利便性があるから価格が高くても売れているのだと思います。

 当社では景気の影響もありますが、機能性を付与した産業資材やフィルターなどが売れています。植物由来の熱接着性複合繊維「ミラクルファイバーKK―PL」や、リサイクルポリエステルを米綿で包んだ2層構造糸「ツインレット」なども販売が堅調です。商品自体は以前からある技術を使ったもので高付加価値化しているわけではありませんが、環境配慮やサステイナビリティーの側面から売れています。

 単純に高付加価値だけでは売れない。ユーザーが求める機能と、当社の繊維の機能を合致させ、意味のある価値を訴求していく必要があります。

――前期を振り返ると。

 原燃料高や急激な為替の変化などさまざまなコストアップによって全てが限界値を超えて上がった1年でした。売上高は価格転嫁も含め営業部門が健闘し、それなりの結果を出せましたが、利益面は計画通りにいきませんでした。

 合繊事業では、新型コロナウイルス禍の収束でコスメやメディカル関係が回復しました。電池セパレーター、建材、フィルター用途などは活発に動きました。あとはまだら模様でしたが、新規の用途開拓なども進みました。

 サステイナブルなレーヨンの販売も堅調でした。海水中生分解性を確認した「エコロナ」や、廃棄デニムなどをパルプ原料に利用したリサイクルレーヨン「リコビス」などの採用も増えています。国内唯一のレーヨンメーカーという立ち位置で、他社にない商品ラインアップがそろってきました。

 産業資材事業は、21年に出雲工場(島根県出雲市)に設備を集約し、原料から製品までの一貫生産体制を構築した成果を出しつつあります。首都圏を中心に建築需要が旺盛なことを受け、建築現場で使われる軽量防音シートの販売が堅調でした。

 製品・テキスタイル事業は、為替の影響を大きく受けました。カジュアル製品ならシーズンが変われば価格帯を上げやすいですが、当社はインナーが中心。価格を上げると消費者が付いてこないという恐怖感を持たれている取引先が多く、その点でものすごく苦労しました。

――今期は3カ年中期経営計画の最終年度です。

 利益面は前期で底を打ったと考えています。価格転嫁も進んでいます。足元の顧客の消費行動がどこまで回復するかにかかっています。繊維の消費財は物によってまだら模様で、産業財も需要の回復が秋までかかるという声もあります。産業財と消費財の回復でタイムラグがあり、その回復スピードの差が収益に影響を及ぼすかもしれない。顧客のニーズを拾い上げ、開発して成果を出すまでの時間管理をしっかり念頭に置きながら、計画に近づけていきます。

 合繊事業ではサステイナブル素材を軸に強化しており、電池セパレーターや水処理のRO(逆浸透膜)、包装材料などいろいろな用途開拓を進めています。レーヨンも機能レーヨンが認知されつつあり、SDGs(持続可能な開発目標)や社会問題の解決につながるような商品開発を増やしつつあります。

 今月、国際販売開発室を立ち上げて改めて海外へ販路拡大をしていきます。現状の合繊・レーヨンでの輸出比率は20%程度ですが、インドネシアなど生産拠点を通じてアジアや北米へ不織布や建材などの輸出をもっと増やしていきます。既にコスメ用途で中国や台湾へ輸出しています。アジアは衛材の成長市場でもあり、食い込んでいこうと考えています。

 また、コスメやメディカルのメーカーに向けて製品で供給する組み立ても考えていきます。製品・テキスタイル事業の製品OEMのビジネスモデルを合繊事業でも実践していきます。

 産業資材事業もカートリッジフィルターでアジア向けの輸出を強めています。電子部品だけでなく食品や化学、塗料などさまざまな用途を開拓するほか、フィルターの高性能化も図っています。高性能フィルターは海外メーカーが高いシェアを持つだけに、供給面やアフターフォローの面からも切り込んでいければと考えています。

 製品・テキスタイル事業では、信州大学と羽毛中わたで抗菌防臭・消臭加工の開発に取り組むなど、商品価値の向上を目指します。

 21年に合繊、産業資材、製品・テキスタイルの3事業本部の研究開発機能を播磨研究所に一本化しました。研究開発の分野・対象に横串を通したことで、幅広い視点からの研究開発が進んでおり、その成果が着実に出てきました。

 各事業部門がどのような商品軸で、どういったマーケットに成長性を見いだしていくかを見極めながら次期中計での戦略を描いていきます。

〈インフレを実感するとき/女性はすごい〉

 時々奥さんと一緒に買い物に行くという有地さん。食料品を買いに行った際、奥さんの行動から「女性ってすごい」と感心したという。「この卵はこの値段だから、今日は買わない」「値段が上がっているからヨーグルトの銘柄を変えた」とか。それでもホタルイカや菜の花など「季節を感じる食事をちゃんと用意してくれる」。そういう意味では「女性はインフレをマネージしてくれている」と。「絶対に無駄な買い物はしない。こういう人たちを相手に物を売っていると思うと大変やな」(笑)

【略歴】

 ありち・くにひこ 1987年大和紡績(現・ダイワボウホールディングス)入社。2017年ダイワボウホールディングス執行役員経営企画室長兼大和紡績取締役、18年ダイワボウホールディングス取締役兼常務執行役員、19年ダイワボウホールディングス専務兼大和紡績監査役、21年4月から大和紡績社長