特集 尾州産地総合(3)/在名4商社 尾州との取り組み/タキヒヨー/瀧定名古屋/豊島/モリリン

2023年03月29日 (水曜日)

〈タキヒヨー/執行役員 素材開発/国内販売グループマネジャー 中嶋 正樹 氏/製販で相互工夫重ねる〉

――尾州や国内産地との取り組みに変化を感じていますか。

 高級ゾーン向けの取り組みが主体で減少傾向でしたが、市況の回復に伴い協業の機会が増える機運が感じられます。奇麗な配色や柄使いによる“装い”向けへの注目度が戻りつつあります。ファンシーツイードなど意匠性を持つ生地以外にも、コート地や外装衣向けのオファーも増える可能性があります。

――その機運に対応するために大事なのは。

 尾州は生産工程を分業しながら、少量多品種生産をかなえる機動力と俊敏性が魅力です。新たな需要に応えるために、相互で工夫を重ねながら、いかに独自の生産経路を構築することができるかが大事だと考えます。尾州の“モノ作りの力”と、当社の“創造力”を結集する機会が到来しつつあります。

――一宮工場(愛知県一宮市)も生かす。

 2014年に操業を始めて、国内でも希少な英式梳毛紡績機500錘を持ち、関連する各種機器とションヘル式織機も保有しています。生地や糸、セーターの生産依頼も増え、販売先も当社のモノ作りに共感してもらい、製品にストーリーを添えて丁寧に販売をしています。今後、生産工程の中で撚糸が持つ役割の重要性が高まると考えます。

〈瀧定名古屋/取締役婦人服地部門担当 瀧 浩之 氏/自家生産で関係づくり深化〉

――改めて婦人服地部の概要を教えてください。

 全体では7課体制で、そのうちのウール織物を中心とする32課が尾州との取り組みを深めています。特に同課は自家生産で尾州の織布工場や染色整理工場と共同でモノ作りをしています。

――同部の商況は。

 コスト高で苦労した面もありますが、新型コロナウイルス禍の外出制限が解けたことで堅調でした。特に32課の自家生産品の売上高は過去最高でした。2014年から本格スタートしましたが、尾州との関係づくりを深化できたことが貢献しました。

――尾州の現況をどのように捉えていますか。

 生産スペースがタイトになっています。コロナ禍と高齢化によって廃業が進んだことが要因です。サプライチェーンを維持していくためにも、当社の自家生産の役割は重要と考えています。

――尾州の強みを含めて今後の展望は。

 合繊長繊維から天然繊維まで幅広い素材を加工できるのが強みです。しかし、産地の規模縮小は避けられないでしょう。当社としては後継者が在籍しているなど取り組み強化ができる企業としっかり手を携え、関係を継続させていくことが必要でしょう。

〈豊島/一宮本店 一部部長 酒井 良将 氏/企画力と加工技術強みに海外へ〉

――尾州産地の現況をどのように捉えていますか。

 紡績、撚糸、織布、整理といった工程で生産キャパシティーが埋まっています。尾州では新型コロナウイルス禍に加え、高齢化によって廃業が進みました。こういった状況にある中で受注が増えてきたため、尾州でのモノ作りがタイトになっています。

――改めて一宮本店の事業内容を教えてください。

 梳毛糸をはじめとした糸売りが中心ですが、原料や生地、製品も扱っています。生地は尾州からも調達しており、売り買い両方あります。冒頭のように尾州で生産のタイト化が進行していますので、糸の注文があってもスムーズに流れていくかが不安です。

――尾州の強みや特徴を踏まえ、今後の取り組みを教えて下さい。

 強みは企画力と後加工の技術の高さです。海外も品質は向上していますが、尾州と同じ生地ができるかと言うと難しいでしょう。当社としては、そうした差別化した尾州の生地などを輸出する手伝いができたらと考えています。輸出が増えていけば尾州の閑散期対策にもなりますからね。円安の状況を好機と捉え取り組んでいきます。

〈モリリン/マテリアルグループ 素材1部 部長代理 林 伸太郎 氏/高付加価値のモノ作り追求〉

――尾州や国内産地との取り組みで課題は何でしょう。

 原料や糸の流通量と生産スペースがタイトになった上に、製織や編み立ての担い手の廃業なども耳にします。生産背景が確実に失われてきており、独自性の高いモノ作りへの対応力に限界を生じつつあります。新商品の開発が難しい中で“現地現物”の生産経路による商品が流通している例もあり、差別化が難しいです。

――その中でどのように活路を見いだすか。

 原糸・原料の販売にとどまらず、製販双方で情報を共有しながら、付加価値の高いモノ作りを究めることが鍵になると思います。モノ作りに付帯するストーリーに付加価値が生まれる可能性が高いです。ファッション向けだけでなく、非衣料向けにも販路と需要があるはずなので、これまでの常識にとらわれないことが大事になります。

――海外拠点との連携も生かす。

 中国向けは、主に上海の自社拠点を通じて尾州生地の内販に注力しています。需要の変化が大きく的を絞るのが難しいですが、多品種少量生産を含めた対応力を生かすことが可能です。この仕組みを東南アジアの拠点に広げ、当社の差別化した糸・素材が供給できるように注力を図ります。