特集 アジアの繊維産業(9)/独自の技術やノウハウで勝負/わが社のアジア戦略/クラボウインターナショナル/一村産業/双日/ブラザー工業/QTEC
2023年03月10日 (金曜日)
〈多様なスキームが強み/最適生産地の見極め追求/クラボウインターナショナル〉
クラボウインターナショナルは日本、中国、バングラデシュ、インドネシア、ベトナム、ミャンマー、カンボジアなどを生産国に、縫製品OEM/ODMビジネスを進めている。それぞれの国の特性を生かして、小口から大口、価格訴求型商品から高付加価値商品まで対応できるのが強みだ。今後は素材の現地調達比率を高めて地産地消や納期短縮のニーズに対応するとともに、CSRポリシーに基づいた安心・安全なモノ作り体制を構築していく。
中国はQRや小ロットに対応でき、生地・副資材の調達の幅広さが特徴だと位置付ける。バングラデシュは価格訴求型商品を中心に、最近は生地や資材の調達比率も高まってきた。インドネシアはユニフォームなどのリピート品が軸で、ここでも日系や現地の生地メーカーとの連携が進んでいる。ベトナムはストレッチ素材使いやデニムといった付加価値商品が中心。その他、必要性とニーズに応じて、ミャンマーやカンボジアも采配する。加えて今後はインドやパキスタンにも縫製地としての可能性を見いだす。
また顧客の要望に応じて、オール中国やオール日本にも対応する。日本国内に2カ所、自社縫製工場を持つことが強みになる。
素材の開発や調達については、クラボウグループとの連携を強めつつ、グループ以外にも広範な調達先を持つことも強みにする「さまざまなスキームがある」ことをアピールしていく。
大量廃棄問題も背景に、今後は期中での追加が盛んになるとみられる。その際には「素材に精通していることが強みになってくるはず」と自信を見せる。
CSRポリシーに基づき、調達構造のアップデートも進める。リモートを駆使した遠隔の生産管理がその一つだ。バングラデシュ事務所からインド、パキスタンの工場の品質管理をしたり、中国の協力工場が第三国に進出した際に、上海技術センターのスタッフがその対応に当たる、などを考えている。
〈グローバルコンバーティングを深化/短納期化とコスト削減実現/一村産業〉
生地商社であり北陸産元でもある一村産業(大阪市北区)の強みは、日本の北陸含むアジア5極の生産地を有機的につなげてコスト削減、納期短縮を実現できる体制にある。この取り組みが顧客からの評価につながり、新型コロナウイルス禍は除いて近年の業績も安定拡大しており、繊維事業の今期(2023年3月期)は前期比25%増収、事業利益7%増を見込む。
同社は生地生産を日本(北陸)、中国、インドネシア、ベトナム、インドの5極で行っている。糸生産、製織、染色加工という各工程を分解して最適地を見極める体制が軌道に乗っている。
23年3月期の糸・生地生産(金額)は前期比50%増になる見込み。北陸での生産も増えたが、とりわけ日本以外のアジアが約2倍と大きく増えた。
国別で見ると、今期から生産をスタートしたインドは除いて、インドネシアが35%増、ベトナムが約2倍となり、元々それほど多くなかった中国が、非衣料用途を同国生産にシフトさせたことが影響して3・5倍に拡大した。海外生産が拡大したことで結果としてコスト削減にもつながったが、依然、原料高の影響のほうが大きいため、今後も価格転嫁を進める。
アジア生産の拡大には品質の向上も影響している。例えばポリエステル短繊維織物を生産するベトナムでは、省力化と品質向上に向けて、全自動梱包(こんぽう)機や全自動調色機を導入。また同織物をウオータージェット織機で織る取り組みも進めており、コスト削減につながっている。品質向上に向けては日本人技術者の長期派遣も昨年から開始。「欠点やトラブルを未然に防ぐなど成果が出ている」として、4月から3回目の派遣をすることも決めた。
来期もアジア生産全体を拡大する戦略で、今期比40%増の計画を立てる。同時に、ストレッチの「ラクストリーマ」、高通気の「アミド」、環境配慮の「イマエコ」など高付加価値商品の拡販と、これらに続く新たな高付加価値商品の投入を予定する。
〈事業の独自性追求/メーカー商社へ成長めざす/双日〉
双日の繊維事業は、モノ作りやビジネスモデルの新しい形を絶えず追求しており、各事業会社もその方針に沿った取り組みに力を注ぐ。
第一紡績は、糸の開発から衣料や日用品の製造まで手掛けられる強みを持つ。2021年の組織改革で、一部の大口顧客とのビジネス以外のOEMを同社に移管した。その紡績・染色技術を駆使した国内外生産による素材軸での商品提案に、双日の営業力を融合させることで、〝メーカー商社〟としての機能性を高めていく。
双日ファッションは、独自に企画開発した生地を在庫して注文に応じて短納期で出荷するというビジネスが好調に推移している。
中国子会社も同様のビジネスを展開し、業績を大きく伸ばした。中国でも高品質の生地が求められる状況に合わせた営業活動が奏功したためで、さらに攻勢を強める構想も描く。
双日インフィニティは、自社で商品の企画・開発から小売りまで一貫して担う事業を展開する。主力は米国発ブランド「マックレガー」で、日本を含むアジアを中心とした19カ国で製造・販売するライセンスを持つ。今後に向けて、店舗展開をはじめとしたブランド戦略の再構築を進める。
〈非衣料向けの提案加速/新規開拓や成功例など手応えも/ブラザー工業〉
ブラザー工業は中期戦略に基づき、工業用ミシン事業で非衣料向け市場の開拓を進めている。今期(2023年3月期)は新規開拓や成功事例ができるなど手応えをつかんだ。今後も独自ミシンを武器に拡販を目指す。
策定した中期戦略「CS B2024」では産業用領域の飛躍など四つの戦略を掲げる。工業用ミシン分野では、自動車のエアバッグやシートベルト、カーシートのほか、スポーツシューズなど非衣料の開拓に向けて提案を進めてきた。
工業用ミシン事業の今第3四半期は、為替の影響で増収だったが販売状況は苦戦。中国はゼロコロナ政策によって縫製工場の稼働が進まず厳しい状況が続いた。南アジアも昨年9月までは堅調だったが、バングラデシュやパキスタンの外貨不足で設備投資への需要が減退した。
非衣料向けでは想定以上の伸びはなかったものの、一部で新規顧客の開拓が進むなど成果が見られた。さらに、成功例として提案ノウハウの蓄積などのプラス面もあった。提案や営業で臨機応変な対応ができるようになった。
非衣料向けで主力とするのはブリッジ型プログラム式電子ミシンの「BAS」シリーズだ。縫製の前後工程を見据えた自由な組み合わせやカスタマイズが可能。同シリーズの特徴を生かし非衣料向けの提案を加速する。
〈経営安定化で海外継続成長/バングラデシュに合弁会社設立/QTEC〉
3カ年中期経営計画を進行中の日本繊維製品品質技術センター(QTEC)。初年度である今期(2023年3月期)の海外事業は、中国・上海で新型コロナウイルス禍による都市封鎖(ロックダウン)の影響はあったが、全体としては前年並みの売り上げを維持している。経営の安定化に取り組み、来期以降も継続成長を図る。
今期の中国は、上海可泰検験でロックダウンの影響を受けたが、南通、無錫、青島、深センの各拠点がカバーした。春節(旧正月)後は順調な動きを見せている。バングラデシュは春夏物の動きが少し遅れたものの、前年並みを維持。ベトナムについても前年並みで推移している。
経営安定化策の一つとして、無錫試験センターを分公司化。上海可泰検験の支店として、「上海可泰検験有限公司・無錫分公司」を設立した。無錫分公司は、QTECの中国試験センターで唯一羽毛試験が可能で、羽毛のほこり混入率試験開始など可能試験の拡大も順調な動きを見せる。今後もこうした特徴を生かす。
中国では、現在は日本に送っている試験もあり、納期短縮などの観点から、内製化を順次進める。顧客のニーズを見極めた上で、設備投資などを行うとしている。
バングラデシュでは、首都ダッカに繊維製品などに関する試験、検査を行う新会社「QTEC Dhaka Laboratory」を設立した。バングラデシュ企業のPacific Quality Control Centre(PQC)との合弁で、日本人駐在員2人、ナショナルスタッフ40人弱の体制。