特集 アジアの繊維産業(8)/社会と顧客のニーズに応える/帝人フロンティア
2023年03月10日 (金曜日)
新型コロナウイルス禍による混乱と回復を契機として、グローバルサプライチェーンの再構築が各地で模索されている。帝人フロンティアはASEAN地域に衣料、産業資材など幅広い分野で、合繊糸・わたから織・編み物、染色加工、縫製まで一貫の開発・生産・販売体制を持つ。これを生かし、サプライチェーンを通じて繊維製品の品質、機能、そして環境配慮といった社会と顧客のニーズに応えることを目指す。
〈TPLとTJT/差別化に特化した合繊企業〉
ポリエステル長・短繊維の基幹工場であるテイジン・ポリエステル〈タイランド〉(TPL)とテイジン〈タイランド〉(TJT)は、東南アジア地域でも数少ない差別化に特化した多品種生産型合繊企業としての特徴をさらに強める。
2022年度は、堅調なタイ内需とバーツ安による輸出好調が追い風となり、計画を上回る業績となった。ただ、下半期に入ると欧米の景気減速やエネルギー高騰の影響で海外の市況に変調が現れるなど先行きに不透明感が増している。
このため23年度は輸出減少を補うために内需の取り込みに力を入れ、生産品種の高付加価値化も一段と進める。そのための投資や施策も前倒しで実施する。
サプライチェーンの再編や世界的なインフレなどモノ作りの前提が変化する中、差別化に特化した多品種生産型合繊企業として、二酸化炭素排出量削減にも取り組み、品質・機能・環境負荷低減など、“社会ニーズ”に適合した製品の製造に特化する。
〈テイジン・フロンティア〈タイランド〉/内需・輸出の機会とらえ〉
テイジン・フロンティア〈タイランド〉は、タイのサプライチェーンをベースに内需・輸出共に販売機会を捉え、コロナ禍を契機に強まった脱中国の動きを生かす。
22年度は、上半期に自動車や産業機器向け資材繊維が直接輸出、間接輸出ともに好調に推移し、前年同期比10%の増収増益となった。ただ、下半期から景気後退と流通在庫過多のため輸出を中心に影響が出始めた。原燃料高騰による採算圧迫も続く。
23年度はサプライチェーンの連携強化、安定調達・生産体制による効率化を推進し、付加価値品の拡販や開発を強化する。世界的なインフレ高進でモノ作りの前提が変わる中、顧客ニーズを満たす製品サービスの強化とサプライチェーンの効率化に取り組む。
〈タイ・ナムシリ・インターテックス/環境配慮のシンボル企業に〉
ポリエステル長繊維織物製造のタイ・ナムシリ・インターテックスは、環境配慮型素材の拡充を進めている。ESG(環境、社会、ガバナンス)経営とSDGs(持続可能な開発目標)を掲げ、ASEAN地域における環境配慮型シンボル企業となることを目指す。
22年度は堅調な販売が続き、前年度比大幅増収増益で推移している。23年度に向けても引き続き原燃料高騰への対応と環境配慮型素材や環境配慮型製造設備の導入といった取り組みを推進する。ASEAN地域における帝人フロンティアグループのテキスタイル生産拠点の中核として確固たる地位を目指す。
コロナ禍を契機としたサプライチェーンの混乱や世界的なインフレ高進などビジネス環境が大きく変化する中、自社だけでなくASEAN域内でのサプライチェーンアライアンスを構築し、確固たる素材供給体制の構築を進める。
〈テイジン・コード〈タイランド〉/コストダウンと新規開発〉
ゴム資材向けシングルエンドコード加工のテイジン・コード〈タイランド〉は、原材料・エネルギー高騰への対応を進め、コストダウンと新規開発による販売量拡大と稼働率向上に取り組む。
22年度は、コロナ禍からの回復が進んだが、半導体不足やロシアによるウクライナ侵攻など不安定要素も多く、コロナ禍前の水準までには回復していない。同社の業績も前年度比90%程度で推移している。
このため23年度は引き続き原材料・エネルギー高騰への対応としてコストダウンに取り組み、新規開発にも注力することで販売量の拡大と工場の稼働率向上に取り組む。
〈テイジン・フロンティア〈ベトナム〉/優良スペース確保〉
縫製品の生産管理と糸・生地販売、産業資材販売を行うテイジン・フロンティア〈ベトナム〉の23年3月期は、前期比、計画比とも増収増益となる見込みだ。欧米向けが特に上半期、けん引役となった。来期は欧米向けの市況に不透明感が増しているが、対日含め新規のオーダーも入ってきており、改めてスペース確保を進める。
対日縫製品は「チャイナ・プラスワンの流れを強く感じる」と、商談が活発化している。この流れをしっかり捉えていくことが同社のテーマ。ホーチミン近郊では人手不足が顕在化しているため、中部や北部で優良な協力工場を探すとともに、集約化、占有率の向上を進め、安定生産体制を構築していく。
産業資材販売も課題の一つ。そのため日本人の専任スタッフも配した。衣料品とは異なり、「時間はかかる」が合成皮革などで拡販への手応えを得ている。
〈テイジンFRAタイヤコード〈タイランド〉/多様化でリスク分散〉
タイヤコード製造販売のテイジンFRAタイヤコード〈タイランド〉は、素材・用途・出荷先の多様化によるリスク分散を進めながら販売数量の拡大と安定化を目指す。
22年度は上半期が好調に推移したが、下半期に入って受注がやや鈍化している。欧米の景気減速や物流正常化による一時的な流通在庫増加で調整局面となった。また、ウクライナ危機を契機とした原燃料高騰による収益への影響も大きい。
こうした状況下で販売数量拡大と安定化に向けて23年度は素材・用途・出荷先の多様化とリスク分散に取り組む。顧客やサプライヤーとの連携を強め、ニーズに迅速に対応することに取り組む。環境負荷低減につながる素材・加工技術の開発にも力を入れる。