特集 アジアの繊維産業(7)/脱・中国の主役として存在感/ベトナム/コロナ禍からの復調鮮明/豊島ベトナム/STXベトナム・蝶理ベトナム/島田商事ベトナム

2023年03月10日 (金曜日)

 ベトナムは新型コロナウイルス禍から完全に脱したと言える。一昨年は厳戒なロックダウン(都市封鎖)が敷かれ、繊維関連工場の多くもストップ。在ベトナム日系繊維企業の業績にも大きな影響を与えたが、2022年度は各社が業績を戻し、過去最高売上高を更新した島田商事ベトナムのような例もある。チャイナ・プラスワンの受け皿としてベトナム繊維産業の成長はこれからも約束されているが、足元では人員確保の難度の高まり、欧米ブランドからの大幅発注減、コストアップなどの諸課題もある。在ベトナム日系繊維企業の動きを追う。

〈日系各社の業績は堅調〉

 ベトナムの22年の実質GDP成長率(推計値)は前年比8・02%だった。1997年以来となる8%超えで近年最も高い成長率となった。23年の目標は6・5と定められている。日本の22年のアパレル輸入でベトナムは中国に次ぐ2位だった。重量ベースで前年比を割った1位中国とは対照的に、ベトナムは金額が前年比39・1%増、重量も14・7%増と順調に生産が回復している状況が表れた。

 日系繊維企業からも、「中国からの生産地シフトの流れを強く感じる」という声が相次いでいる。この流れを受け、各社の業績も回復、拡大している。

 伊藤忠商事グループのプロミネント〈ベトナム〉の23年3月期は、売り上げ、利益ともに前期比を上回ることが確実だ。STXベトナムの22年12月期の売上高と利益は前期比、計画比ともクリアした。蝶理ベトナムも前期比増。ヤギ・ベトナムでは既存のスポーツやメンズ関連が微減だったものの、ユニフォームや糸の仕入れなどが大きく拡大した。

 豊島ベトナムは、年前半はロックダウンの影響が残ってやや苦戦したが、後半は大幅に伸ばした。トーレ・インターナショナル・ベトナムも前期比増益を果たした。

 多くが一昨年のロックダウン下からの回復であり、「手放しで喜べるような業績ではない」と釘を刺す商社もあるが、前期比増収増益が全体傾向であることは間違いない。島田商事ベトナムに至っては、22年12月期が前期比大幅増収となり、過去最高売上高を更新した。

 各社が強調するのは、中国からベトナムへのシフト。欧米ブランドで脱・中国の流れが加速していることが、ベトナムへのシフトを加速させている。加えて、短納期化やコスト低減を目的に、地産地消の流れが強まっていることもベトナム繊維産業には追い風だ。周辺縫製国と比べて糸や生地、副資材の調達難度が圧倒的に低いからだ。島田商事ベトナムの好業績が、この追い風を生かした好例と言える。

〈内販、第三国向け拡大が課題〉

 日系各社が課題に上げるのが、内販と第三国向けの拡大だ。STXベトナムは7年前から韓国系ニッター経由の欧米向け原料販売を行っており、今後も伸ばす。ヤギ・ベトナムは対日がほとんどを占めるが、「内販と海外向けの拡大が課題」としてさまざまなチャレンジを試みている。

 内販で一歩先を行くのがプロミネント〈ベトナム〉だ。現地の有力SPAコーウィルとの提携がその原動力になっている。今後はコーウィル以外の連携先探しを急ぐとともに、欧米向けも、資本提携するベトナム繊維公団(ビナテックス)との連携を強化しながら拡大を狙う。

 コストアップへの対応と安定生産体制の構築も各社共通のテーマ。ホーチミン近郊や南部だけでなく、中部や北部で協力工場を探す動きが活発化している。東レインターナショナルは中部で独資の縫製工場を立ち上げ、STXベトナムはホーチミンの独資縫製工場を、人出不足解消とコスト低減を狙ってロンアン省に移設する。

 コストアップを吸収する策としては、糸・生地からの一貫生産体制の構築や、独自素材の開発、商品の高度化、サステイナブル対応などを各社が進める。

〈豊島ベトナム/商いの付加価値化めざす〉

 豊島のベトナム法人、豊島ベトナムの22年度の商況は、全体として前半戦はコロナ禍の影響もあって苦戦を強いられたが、後半は大幅に伸ばすことに成功。「23年度への良い流れができた」

 製品OEM/ODM事業は、前半は停滞したが、後半は対日の受注が増えて巻き返した。素材販売事業はサプライチェーンの変更もあったものの、大きく伸長した取引もあった。

 足元の受注状況については、「他国との価格競争もあり厳しい局面ではある」が、中国からASEANへの生産地移行の流れは強く、生地から縫製までの一貫生産が可能なベトナムが選ばれるケースが多いという。

 豊島ベトナムとしてはこうした現状を受けて23年度に、素材生産国でもあるベトナム独自の素材を開発することと、その提案強化を重点課題に据える。また縫製品OEM/ODMに関しては、北部や中部での安定した生産背景の構築を課題に上げる。豊島グループとしては、原材料から縫製までが整うベトナムが今後も軸の一つになるが、同国だけにこだわらず、ASEAN全体で生産拡大を狙っていく。

 人件費や物流費、原材料費が高騰する中、その対処法としては、「インフレで上昇するコスト以上に付加価値のある提案・商売を目指す」としている。

〈STXベトナム・蝶理ベトナム/本格的にシナジー発揮へ〉

 STXベトナムは、蝶理とのシナジーを追求する。欧米向け拡大と直接貿易拡大も方針に掲げる。

 STXベトナムの受注状況は、一昨年の同国のロックダウンの影響で22春物は低調だったが、夏物以降は緩やかに復調し、22年12月期は計画比、前期比ともに増収増益となった。ロックダウンで中国に移っていたオーダーが再びベトナムに戻ってきたという。足元も、「価格要求は厳しい」ものの、フル操業が続いている。

 7年前から取り組む欧米向けニッターなどへの原料販売は、昨年夏までは堅調だったが、その後はぴたりと止まった。24春夏からの復調に期待する。

 同社の強みはSGS、SGHという自社工場を保有し、高級品から中級品までを縫製するノウハウを蓄積していること。このブラッシュアップが重点戦略になる。3月中にはファクトリー1という全額出資縫製工場をホーチミン市からロンアン省に移転する。人員の安定確保とコスト削減が狙いだ。

 蝶理とのシナジーでは、蝶理本体や蝶理ベトナムの素材を活用することや、縫製アイテムの多様化を狙う。スポーツやワークウエア、価格訴求商品などがその対象だ。編み地製品への幅出しも進める。ナショナルスタッフの育成・登用、デジタル化による生産性の向上などにも取り組む。

〈島田商事ベトナム/過去最高売上高を更新〉

 島田商事ベトナムの22年12月期は、前期比大幅増収となり、過去最高を更新した。現地系を中心に新規顧客も複数獲得した。伴って利益も伸長した。取り扱う副資材の95%がベトナム製という同社がこれまで推進してきた現地化戦略が、脱・中国の中で地産地消を求める顧客を引き付けている。

 前期は特に、主力のボタン、テープ、生地類がカジュアル用途やスポーツ用途で拡大した。小口中心ながら売り上げの約10%を占める欧米向けも「かなり伸びた」。これまでの営業努力が実ったこととともに、昨年春に出展した同国繊維関連総合見本市「サイゴンテックス」の成果が出た。今年4月5~8日に開かれる同展にも出展する。

 年末には事務所を同じビル内で移転し、内装も一新した。日本からの出張者が急激に増えていることを受けたものだ。「快適に商談できるようにした」。ショールームの設置も計画する。

 今期も拡大戦略で臨む。課題に上げるのは、「体制作りと人材作り」。さらなる安定運営を実現するために、体制を整え、人材育成に努める。徐々に経営や運営を現地スタッフに移譲していく。

 現状の販路は対日、内販、欧米の三つが柱。「それぞれの安定化と(規模の)最適化、効率化を追求する」とし、販路のバランスを整えていく。