特集 アジアの繊維産業(4)/東レのASEAN戦略/新たなビジネスを創る/アジアの成長力、追い風に

2023年03月10日 (金曜日)

 新型コロナウイルス感染症の経済活動への影響がなくなりつつある今、東レグループの東南アジア各社はポートフォリオの転換や新たな付加価値素材の開発、グループ連携の強化といった取り組みに力を入れる。再び成長へと“リスタート”を切ったアジアの力を追い風にさらなる業容拡大に挑む。

〈テキスタイルで収益向上/インド市場参入強める/タイ〉

 タイ東レグループは、2023年度(24年3月期)の重点戦略として紡織加工のトーレ・テキスタイルズ〈タイランド〉(TTT)のテキスタイル事業の収益向上と、合繊長繊維製造のタイ・トーレ・シンセティクス(TTS)の産業用原糸も含めたインド市場への参入拡大を掲げる。

 22年度はコロナ禍からの回復が進み、グループ6社合計で売上高は前年度比15%増、事業利益は同48%増で推移している。ただ、半導体不足による自動車生産台数減少や原燃料高騰、物流混乱と輸送コスト高騰、中国でのコロナ感染拡大、欧州向けの流通在庫増加など逆風も多い。

 TTSは、エアバッグ原糸が原燃料高騰の影響を受けたが、価格転嫁によって一定の利益は確保した。ただ、数量減少の影響を受けた。産業用原糸は漁網、タイヤコード、シートベルト用の販売が減少し苦戦。衣料用原糸は、ナイロン長繊維がタイでのインバウンド需要減退で苦戦するが、ポリエステル長繊維は複合仮撚り加工糸が有名ブランド向けに採用されたことを中心に好調だった。

 TTTは、短繊維織物事業の再構築を進めている。ポリエステル・綿混、ポリエステル100%ともに不採算品を整理し、価格以外の価値を評価するアパレルとの取り組みに絞り込んだ。ただ、綿花・エネルギー高騰の影響は大きく、利益面の改善は十分ではない。長繊維織・編み物はスポーツメガブランド向けなどが拡大し、業績をリードする。

 エアバッグ基布は自動車生産台数減少の影響に加え、原燃料高騰の中でモジュールメーカーと価格改定期のズレもあり、利益が圧迫された。コードは重点課題としていたブレーキホースが順調に拡大し、欧州有力メーカーにも採用された。

 こうした中、23年度はTTTのテキスタイル事業の収益向上に取り組む。ポリエステル・綿混織物はユニフォーム用途の拡大を進め、ポリエステル100%織物は欧州市場にリサイクル素材、中東市場にハイエンドな風合いの商品、インド市場へのファッショナブル商品など仕向け先別に特徴のある商品を投入する。

 長繊維事業はスポーツメガブランドやSPAとの取り組みを一段と強化する。産業資材分野はエアバッグ基布の増産体制整備とブレーキホースコードのグローバル展開を進める。

 タイの地理的優位性を生かし、インド市場で産業用原糸、民族衣装用織物、ブレーキホースコードの拡販を進める。インド国内に有力サプライヤーが不在なことや、機能・品質の優位性、ASEANとインドの自由貿易協定といった好条件を生かす。

〈強み発揮できる領域開拓/DX推進による高度化実現/マレーシア〉

 マレーシア東レグループは、既存取引先や商流に縛られることなく、グループの技術開発力や素材差別化などの強みを発揮できる領域を開拓し、収益の拡大を目指す。そのためにもデジタルトランスフォーメーションを推進し、人工知能や自動化、ロボティクス、データ統合などによる事業の高度化と効率化を実現する。

 2022年度(23年3月期)は、欧州市場向けを中心にインフレや流通在庫増加の影響で市況が低迷しつつある。また、エネルギーコスト上昇による利益圧迫も続く。

 23年度は省エネなどさらなる推進によるコストダウンに取り組み、温室効果ガス(GHG)削減を進める。また、戦略的な人材育成による現場力の強化、生産性・課題解決力を向上させるとともに、会社理念を浸透させる施策により定着率の向上を図る。

 ポリエステル短繊維製造のペンファイバー(PFR)は縫糸向けの新商品を投入し、販売量の拡大を進める。バッチ紡糸設備を生かし、多様なチップと製糸技術の組み合わせで差別化品の販売拡大に取り組む。中国のロックダウン(都市封鎖)やゼロコロナ政策を契機にサプライチェーンのASEANシフトが再び起こっていることから、マレーシアの立地優位性を生かし、クイックレスポンスに優れた供給体制・販売戦略を構築する。

 ポリエステル・綿混紡織加工のペンファブリック(PAB)は、徹底的な差別化に取り組む。そのために東レが持つ差別化原糸・原綿の活用を進める。既存の製造プロセスだけでなく、液流染色、プリント、ラミネート、エアータンブラー、各種起毛機など保有する設備を活用した差別化テキスタイルの開発を推進する。

 東南アジア地域にはシャツ・ユニフォームだけでなくファッション・カジュアルやスポーツ・アアウトドアまで幅広い用途に差別化素材をワンストップ供給できる企業は少ない。これを可能とする企業への進化を目指す。そのためにテキスタイルを扱う東レの各事業部や世界中のグループ会社との連携を一段と強化し、共同開発や素材ブランドの共有を進める。

 PFRとPABが協働し、立地するペナン州の環境団体と連携したペットボトルリサイクル活動も推進している。マレーシアで分別・回収したペットボトルを活用し、PFRで再生原綿を製造、PABで生地にして販売するサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現を目指す。

〈上半期は好調も下半期苦戦/グループ連携強め来期へ/インドネシア〉

 インドネシア東レグループの2023年3月期業績は、上半期(22年4~9月)は中東の民族衣装用生地の好調などで前年比、予算比ともに増収増益で推移したが、下半期からは繊維市況の低迷を受け、通期の利益で予算並みを見込む。

 合繊糸・わた製造のインドネシア・トーレ・シンセティクス(ITS)は今期、売上高が前期比9%増も減益となる見込み。上半期は増収だったが、下半期から失速し数量、売上高ともに前年同期の実績を大幅に下回った。原料コスト上昇分の値上げを実施したが、燃料コスト分までは転嫁が追い付かず通期では減益を予想する。来期はASEAN域内での東レグループの拠点を活用した差別化品の開発やサステイナブル素材の開発、販路開拓に力を入れる。

 ポリエステル・レーヨン混紡績・織布・染色加工のインドネシア・シンセティック・テキスタイル・ミルズ(ISTEM)は中東民族衣装生地やアフリカ向け学童制服用途といった強みの生きる売り先への経営資源の選択と集中を進めたことで今期、好調を維持する。アクリル紡績と糸染めのアクリル・テキスタイル・ミルズ(ACTEM)も新たに創出した防寒靴下市場で、差別化品率の向上と価格転嫁が順調に進み今期は好調だ。来期に向けてACTEM、ISTEMともにASEAN域内の東レグループとの連携を強化し新商材の開発を進め、同時に小量、多品種、短納期生産といった自社の強みが生かせる市場で競争力を高めていく。

 ポリエステル・綿混紡績・織布・染色のセンチュリー・テキスタイル・インダストリー(CENTEX)の今期業績は前期比増収増益となる見通し。コスト上昇に伴う値上げを徹底したこと、販売品種の転換、不採算案件の削減、縫製再輸出を含む現地での拡販に取り組み業績を改善した。ただ、今年に入ってから中東を除く輸出ビジネスが急減、来期も数量を追わず、利益重視の方針を取る。輸出の低採算ビジネスの縮小、削減と縫製再輸出を含めた現地での利益率の高い案件の取り込み強化を図る。

 ポリエステル・綿混紡績・織布のイースタンテックス(ETX)の今期業績は計画比で増収減益の見込み。上半期は堅調だったが、下半期に急速に市況が悪化し業績が伸び悩む。来期の課題は数量と売上総利益の維持・拡大、高付加価値化の推進。ここに向けて①成長市場への拡販②設備の高度化と高付加価値品を生産する体制の確立、そして紡織一貫での高付加価値品の拡販③東レグループ連携による顧客と用途開拓④エネルギーコストの削減――4点に取り組む。

 東レインターナショナルインドネシアは今期、下半期からの市況悪化により非繊維分野で予算比大幅減収減益となった。繊維は減収減益の予算で組んだが過達となり、全社では売り上げ、利益ともに予算並みを確保した。来期も生地から縫製まで一貫生産する案件の受注拡大を目指し、インドネシアでの生地開発に力を入れる。縫製事業は衣服に加え寝装分野での拡大を視野に入れ、新たな縫製工場を模索する。