特集 事業戦略(2)/クラボウ/事業モデルの転換進む/長期ビジョンに向け基盤作る/取締役兼専務執行役員 繊維事業部長 北畠 篤 氏
2023年02月24日 (金曜日)
クラボウの繊維事業は今期(2023年3月期)に入ってから、第3四半期まで黒字を維持している。北畠篤取締役兼専務執行役員は、18年から「事業モデルの転換を図ってきたことで、構造改革の成果が出てきた」と話す。「長期ビジョン2030」の目標達成が可能な利益水準にまで押し上げ、成長へと軌道に乗せていくためにも、今年は「基盤を作る重要な年」と位置付ける。
――第3四半期決算では売上高が前年同期比37・8%増の433億円、営業利益が6億9200万円と黒字化しています。
昨年から衣料消費が少しずつ回復してきましたが、原材料高など想定外のことも多く大変でした。それでも利益を残せたのは2018年に安城工場(愛知県安城市)にテキスタイルイノベーションセンター(TIC)を立ち上げ、独自技術によるサステイナブルや社会的な課題の解決につながる商品開発を強化してきたことがあります。事業モデルの転換を図ってきたことで、構造改革の成果が出てきました。
糸では原綿改質による機能糸「ネイテック」や、裁断くずを原料に再利用する「ループラス」など、差別化糸というより他社がマネできない糸の販売が増えています。
生地ではユニフォーム向けに「バンジーコットン」「バンジーテック」といったストレッチを中心に独自生地の採用が進みました。
昨年4月から現場作業リスク管理システム「スマートフィット」の部署をユニフォーム部に移管しました。スマートフォンがなくても活用でき、取り扱いのしやすいウォッチタイプの販売も本格化しています。ユニフォーム業界のサプライチェーンに乗せて販路を広げていければと思っています。さらにサポーター一体型ウエア「CBW」も含め、働く人の快適性や安全を提供するようなアイテムの販売にも力を入れています。
大和紡績さんと一緒に展開している後加工難燃「プロバン」は徳島工場(徳島県阿南市)に加工設備を設置し、4月から本生産に乗り出します。これまで展開してきた素材難燃「ブレバノ」が不得手としていた耐スパッタ(火の粉)性能の高さを生かした分野への販路開拓が期待できます。
製品ではカジュアル向けが増えています。顧客から依頼されたものを試作する体制から、自分たちで考えて開発し、新しい客先を開拓していこうという考え方に変わりつつあります。カジュアル部では昨年11月に初めて展示会を開き、今年5月にも展示会の開催を予定しています。これまで当社は厚地の織物メーカーというイメージでしたが、薄地の開発も増やしつつあります。
――来期以降をどうみておられますか。
原燃料などさまざまなコストアップは来上半期まで続きそうです。電気代が上がり、為替や原綿価格もどう動くか全く分からない。
ただ、環境配慮、SDGs(持続可能な開発目標)といったニーズはより高まっていくものとみています。特にループラスはタオルへのアップサイクルを中心に、中長期的に増えてきました。最終製品が何になるか見えやすく、ユーザーにも訴求しやすい点があります。さまざまな動きを捉えながら、ループラスをプラットフォームとして、もっと大きいビジネスでの着地点を描いていきます。
インナー用途で販路が広がっているネイテックは、消臭、発熱、吸放湿、保湿といった機能を付与した素材をラインアップしています。TICを中心に開発を進め、来期には新たな機能を持ったネイテックを上市します。知財戦略もしっかり進めながら、アウター向けの素材開発にも着手していければと考えています。
羽毛代替となる中わた材「エアーフレイク」は、アニマルフリー(動物性の素材を使用していない製品)の需要拡大から販路を広げています。羽毛を採用したいが、機能は落としたくないというアパレルメーカーから好評です。課題となるわたの充填(じゅうてん)では、ミシンメーカーと協力しながら技術開発を進めています。輸出も増え、そのルートを通じたネイテックの輸出も狙っていきます。
――来期は中期経営計画の2年目に入ります。
中計は、イノベーションと高収益を生み出す強い企業グループを目指す「長期ビジョン2030」の第2ステージに当たります。成長事業と高収益事業のベクトルを合致させ、最終年度の25年3月期には体制をしっかり作っておく必要があります。繊維事業が成長しないとなれば優秀な人材も入ってきません。30年に向け繊維事業をどんどん成長していくポジションへ持っていく。その基盤を作る上で、23年は重要な年になってきます。
ESG(環境・社会・企業統治)経営やD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)への取り組みを進め、エンゲージメント(自発的貢献意欲)の高い職場作りも進めていきます。変化が激しい時だからこそ、一人一人が適時に判断しないと間に合わないケースがこれからは増えていきます。多様な人材も集めなければいけません。そうでないとイノベーションが起こりませんからね。いろいろと意見を言い合える職場になってきましたが、もっと盛んに言い合えるようにしていきます。