特集 スポーツ&アウトドア(2)/素材編/サステ需要を捉える技術力

2023年02月17日 (金曜日)

 スポーツ・アウトドアウエア業界では、サステイナビリティーにおいて世界基準の取り組みが求められる。それらを支えていくために、高品質、高感性、高機能な製品開発に強みを持つ国内メーカーが果たす役割が大きい。

〈多彩な環境配慮型原料に強み/東レ〉

 東レのスポーツ素材販売は2022年度(23年3月期)も好調に推移している。特に海外向けが販売をリードしており、環境配慮型原料への評価も高く、同社の強みとなる。

 織物は、ナイロン高密度織物や透湿防水生地「ダーミザクス」などが堅調な販売となった。高通気織物「ドットエア」も人気が高まり、スポーツウエアだけでなく一般衣料のセットアップなどでも採用実績が出ている。

 ニット生地では、ゴルフ向けなどで高ストレッチ・キックバック素材「プライムフレックス」が好調。トップスだけでなくパンツ地としても採用が拡大している。軽量保温・耐摩耗・起毛レスが特徴の「カルイシ」も人気が高まる。

 スポーツ用途では国内、輸出ともにサステイナブル素材の提案が不可欠になっているが、同社はペットボトル再生ポリエステル「&+」(アンドプラス)やバイオ原料ナイロン「エコディア ナイロン」など多彩な環境配慮型原料を積極的に導入していることも強みとなる。

 ただ、ここに来て欧米を中心にスポーツ素材の市況は軟化の兆しを見せる。インフレ高進と金利上昇による景気後退が需要を押し下げ始めた。このため23年度は輸出で北欧や東欧など、まだ拡大余地のある市場へのアプローチを強める。国内は、ゴルフやキャンプなど各アパレルが力を入れるターゲットを明確にし、取り組みを一段と深める。

〈生分解性合繊も活用へ/東洋紡せんい〉

 東洋紡せんいは、スポーツ素材として評価が高まる合繊長繊維織・編み物に加えて、短繊維織・編み物の活用に取り組む。生分解性ポリエステルなどサステイナブル原料の開発も強化し、機能と融合させたスポーツ素材の開発・提案を進める。

 2022年度(23年3月期)は生地販売が堅調に推移した。特に高弾性糸と高捲縮(けんしゅく)糸を組み合わせることで高密度とストレッチ性を実現した編み地「スクラムテック」が好調。ゴルフやアスレジャー分野で採用が拡大した。

 23年度に向けて東洋紡グループが持つ天然繊維を含めた短繊維の強みをスポーツ素材の分野でも発揮することを目指す。天然繊維の改質や特殊紡績技術による機能性付与でスポーツ素材への投入を進める。サステイナブル原料では海水中でも生分解するポリエステル繊維「アースケア」の開発を進めており、これを機能と融合させた商品開発も進む。

 例えば抗ピリング加工ポリエステル生地「アイ・イースパン」は発生した毛羽・毛玉が容易に脱落することでピリングを抑える。これにアースケアを使用することで、脱落した毛羽・毛玉がマイクロプラスチックの原因となるのを防ぐことができる。スクラムテックでも原料を再生ポリエステルに変更したタイプの拡充を進める。

〈環境+圧倒的な差別化/帝人フロンティア〉

 帝人フロンティアは、スポーツ素材で環境配慮型の活用と“圧倒的な差別化”を追求することで、海外市場での新規開拓を強化する。同社のスポーツ素材販売は2022年度(23年3月期)もポリエステル長繊維ニット生地を中心に輸出の好調が続いている。

 主力の高バランスニット生地「デルタ」をベースとした生地が販売をリード。中空タコ足型断面糸を使った「オクタ」はフリース代替として採用が拡大し、特殊4層構造による高感度・かさ高軽量性・高反発性・速乾性に優れる「デルタフリーモ」は合繊スエット素材として綿スエットからシェアを奪いつつある。

 織物は高強力糸を一定間隔に配列することで高耐久軽量性とフラットな生地表面を両立したポリエステル織物「シャドウリップ」がアウトドアシャツ地やアウター表地として徐々に採用され始めた。

 ここに来て欧米の需要が下振れ傾向となる中、23年度は新興アパレルや新ブランドなど新規開拓を強化することで既存取引の落ち込みをカバーする戦略だ。そのために環境配慮と“圧倒的な差別化”を実現する開発・提案に取り組む。

 環境配慮では既に再生ポリエステルの導入を進めており、原糸の主力生産拠点であるタイのテイジン・ポリエステル〈タイランド〉で、タイ国内で回収したペットボトルを原料としたリサイクル糸の生産も始まった。

〈閉める操作を簡単に/YKK〉

 YKKのファスナー「click―TRAK」(クリックトラック)は、閉める操作の簡易性により、多様な分野に用途を広げている。

 開部パーツをボタンのように重ね合わせてスナップすると、開具が自動的に回転・係合し、ファスナーを簡単に閉じることができる仕組みを施した。開具の形状を丸く大きめに設定していることも、操作の簡易性の向上につながっている。

 2019年から販売するクリックトラックは、「誰もがファッションを楽しめるように」という発想から生まれた。高齢や体の障害などで細かい作業が困難なため、開ファスナーの使用に抵抗があるユーザーでも衣服の着脱がしやすいように配慮を施してある。

 スポーツシーンにおいても、限られた時間で衣服を着脱する際に、その機能性が存分に発揮される。着替えも素早くできるようにすることで、集中して競技を楽しみたい人たちをサポートする。