技術の眼/YKK/帝人フロンティア/東レ/小松マテーレ/グンゼメディカル/ウィルテックス

2023年01月11日 (水曜日)

 「技術の眼~NEW WAVE GENERATING TECHNOLOGY~」では将来的にニューウェーブを巻き起こしうる重要な技術にスポットを当て、紹介する。

〈YKK/挿入補助スライダー〉

 ファスナーを閉じる際の挿入作業は、加齢による視力低下などで徐々に困難になってくる。YKKはこうした細かい作業を楽にできるようにするため、「挿入補助パーツ」を開発し、2014年から販売している。

 さらにコンパクトさを追求して開発した「挿入補助スライダー」には、蝶棒をスライダーの下面に添えて入れることができる挿入補助機能を加えた。従来品よりスライダーの下面を大きく広げることで、さまざまな角度からでも容易に蝶棒を差し込めるようにした。挿入口も拡大したため、上からの視線でも挿入の位置を確かめやすいのも、使用者にとって大きなメリットになる。

 コイルファスナーNo.3用として展開しており、優れた機能性を生かして多様なアイテムに向けた提案を続けている。

〈帝人フロンティア/環境対応型スエード調生地〉

 帝人フロンティアは、環境対応型スエード調生地「ポリリズムSD」を開発した。異収縮2層構造糸をベースに、編み地設計や適正な染色加工を組み合わせて立毛風合いを実現した。再生ポリエステルを使うほか、非起毛のためマイクロプラスチックの発生を抑える。

 沸水収縮率が50%以上というカチオン可染高収縮糸を芯部に、細繊度の超ハイマルチ非捲縮(けんしゅく)糸を鞘部に配した糸を開発した。この糸を使ってハイゲージ(36、46、60ゲージ)丸編み機で高密度に生地を編成し、適正な条件下で熱処理(染色加工)を加えることでスエード調の風合いを付与した。

 起毛を施したようなレーヨンライクなソフト触感のほか、超高密度による織物調の高級な質感を持つ。芯部のカチオン可染と鞘部の通常ポリエステルとの異色性によるシャンブレー調や深色外観も特徴。速乾性、抗ピリング性、抗スナッギング性、防風性、撥水(はっすい)性も兼ね備える。

〈東レ/業界初の漁網to漁網リサイクル〉

 東レは、日東製網とマルハニチログループの大洋エーアンドエフとの共創・協働で業界初の漁網to漁網リサイクルに取り組む。漁網製造時に発生する端材やくずを原料の一部に使用したナイロン原糸を東レが開発し、その原糸を使って日東製網が漁網を製造、大洋エーアンドエフが運航する漁船に試験導入する。

 漁網製造時の工程くずは産業廃棄物として処理され、東レによると漁網to漁網リサイクルシステムの構築は世界的にも主だった前例がないと言う。日東製網は糸くずや網くずのリサイクルに取り組んでいるが、強度や耐久性が低下するため成形品などの使用にとどまっていた。

 今回、東レの独自技術によって再生ナイロン樹脂を原料の一部に使いながら、バージン材料100%と遜色ない物性の漁網用原糸の開発に成功した。この原糸を用いることで、通常の漁網と同等の品質を実現した業界初の漁網to漁網リサイクルを実現した。

〈小松マテーレ/ポリ100%の形状記憶生地〉

 小松マテーレは、高い形状記憶性と独特のハリ・コシを付与した生地「テクノビンテージKK」を開発した。従来はポリエステル・ナイロン複合で展開してきたが、生地設計や加工などの工夫でポリエステル100%での提案を可能にした。

 テクノビンテージKKは、糸使いと織り・編み設計、加工工程の組み合わせの最適化で高い形状記憶性などの付与に成功した。特に加工工程がポイントとし、「通常、合繊ではやらない加工を施している」と言う。追加で使用する化学薬品などはなく、化学的負荷は増えない。

 特殊改質加工「マーバス」を用いてさまざまな加工と組み合わせることが可能。撥水(はっすい)や帯電防止、吸水速乾、抗菌防臭、制菌などの要望に応じられる。同社は昨年4月以降に海外での営業活動を再開しており、欧州や北米の主要取引先に対して新商品の先行ワークを開始したところ好評を博した。

〈グンゼメディカル/頭蓋形状矯正ヘルメット〉

 グンゼの連結子会社、グンゼメディカルは、乳幼児向けの頭蓋形状矯正ヘルメット「ReMO baby」(リモベビー)を発売した。グンゼメディカルが持つデータとグンゼが保有するメディカル材料の加工技術を組み合わせて開発した。医療機関を通じて患者に届け、変形性斜頭などの治療をサポートする。

 ヘルメット治療は、頭の片側だけが平坦化する変形性斜頭や後頭部が平坦化する変形性短頭などに対して行われる。リモベビーは、主に全国の形成外科や脳神経外科で治療が必要と診断された場合に、医療機関での3Dスキャンによる頭部データを基に一人一人の頭の形に合わせて製作する。

 日本の高温多湿の気候を考慮して通気孔を貫通させ、快適に装着できる工夫を施している。チョウチョウ柄や星柄、キャラクター柄など、15種類のバリエーションを用意した。国内での生産体制の構築によって、海外製ヘルメットと比べて安定した納期を実現している。

〈ウィルテックス/布製ヒーターバッグ〉

 繊維、電化製品製造販売のウィルテックス(横浜市)は、布製ヒーティングシステム採用のポータブルレンジバッグ「ウィルクック ホオン」を開発した。

 肩掛けバッグ型で、中央部に専用バッテリーを使用する布製ヒーターを配置。5分間で80℃まで発熱し、レトルト食品の加熱や温かいペットボトルの保温に活用できる。おにぎりや焼き鳥缶詰なら20分、パックご飯は40分で温められる。

 核となる技術は、三機コンシス(東京都江戸川区)が開発した布製ヒーター「ホットピア」。導電繊維を独自の技術で編み込む特許技術と伸縮電線で、通常の布と同じ柔軟性、軽量性を持ちながら、素早く均一な温かさを実現。断熱綿と遮熱性の高いアルミフィルム効果で夏季には保冷機能も活用できる。

 カジュアルやアウトドアの装いになじむよう表地はツイルとし、裏地には耐久撥水(はっすい)、撥油、防汚効果のあるテフロン加工を施した高機能生地を採用した。