特集 環境(4)/有力繊維企業/環境負荷低減に向け技術とノウハウ結集/旭化成/クラレ

2022年12月05日 (月曜日)

〈弾性糸も環境配慮に/評価高まる「ロイカ」/旭化成〉

 旭化成は、「カーボンニュートラルでサステナブルな世界」「『ニューノーマル』で生き生きとした暮らしの実現」をサステイナブル・ビジョンの中で掲げる。繊維事業ではスパンデックス(ポリウレタン弾性繊維)「ロイカ」でサステイナブル対応型のラインアップを拡充しており、評価が高まってきた。

 近年、繊維分野ではサステイナブル素材への要望が高まっているが、そこで大きな課題となっているのがスパンデックスの存在だ。ポリウレタン繊維の性質上、リサイクルや生分解性の実現が難しかった。一方、スポーツやインナーといった用途ではストレッチ素材は不可欠なだけに、スパンデックスも環境負荷低減につながるタイプを求める声は強い。

 同社は、こうした課題に応える商品ラインアップをそろえる。工場などで発生し、通常は廃棄されていた不使用糸をリサイクルして製造する「ロイカEF」、生分解性を確認した「ロイカV550」をラインアップする。ここに来て世界的に採用が拡大しており、販売も増加している。

 生産体制の拡充も進む。ロイカEFは日本に加えて今年からタイ子会社のタイ旭化成スパンデックスでも生産が始まった。今年12月からは台湾子会社の台塑旭弾性繊維股¥文字(U+4EFD)でも生産を開始した。ロイカV550は旭化成スパンデックスヨーロッパでも生産していたが、今年3月で生産を停止し、日本からの供給に切り替えた。

 グローバルな供給体制が整備されたことで、スポーツメガブランドなどでの採用が拡大するなど、その評価が一段と高まる。特にタイはロイカEFのグローバルな供給拠点としての存在感が高まる。

 今後も環境配慮型スパンデックスの開発と提案に取り組む。リサイクルや生分解性に加えて、温室効果ガス(GHG)排出削減や水使用量の削減につながる製造プロセス、グリーンエネルギーの利用などを導入したロイカの開発を進める。将来的にはライフサイクルアセスメント(LCA)の導入も視野に入れる。さらに、GHG排出削減などにつながる独自性のあるい商品開発も準備している。

 環境配慮型スパンデックスの拡大によって、スポーツやインナーなどストレッチ性による機能や快適性が求められるアイテムでも一段とサステイナビリティーを追求することが可能になる。

〈「クラリーノ」で環境貢献/製造プロセスも環境配慮型に/クラレ〉

 クラレは現中期経営計画の中で「サステイナビリティ中期計画」を盛り込んでいる。温室効果ガス(GHG)排出削減、自然環境・生活環境貢献製品売上高比率、労働災害・保安防災とダイバーシティ&インクルージョンの三つを重点領域として掲げる。このうち繊維事業の自然環境・生活環境貢献製品の一つが人工皮革「クラリーノ」。用途を通じての環境負荷低減に加え、環境配慮型製造プロセスへのシフトが進む。

 クラリーノはスポーツシューズ向けを得意とするが、堅調な需要が続いている。グローバルスポーツブランドはいずれも環境配慮素材の採用を拡大しており、シューアッパーを天然皮革から環境配慮型人工皮革に変更する動きが加速した。このためクラリーノも基材にリサイクルポリエステルやリサイクルナイロンを使用したタイプの販売が増加している。

 電気自動車(EV)のカーシート向けでもクラリーノの販売が拡大した。EVは、ガソリンエンジン車と比べてキャビン内に設置する機械的な操作ツールが減少することから内装デザインが従来とは大きく変わる。高い質感のある素材が求められる。同時に、軽量性が極めて重要になる。高品位な質感と軽量性を併せ持つ素材としてクラリーノが評価された。

 クラリーノは製造プロセスも環境配慮方式が導入されている。新方式「クラリーノ・アドバンスド・テクノロジー・システムズ」(CATS)は原糸の製造工程を短縮したほか、基材となる不織布に含侵する樹脂に水系樹脂を使用することで有機溶剤の使用・回収が不用になった。このため従来プロセスと比較してGHG排出量約35%減、水使用量約70%減、有機溶剤使用量は99・9%減となり、事実上ゼロにすることに成功した。

 引き続きクラリーノはCATSへのシフトを進める。原料もサステイナブル素材の活用を進め、現在のリサイクル原料だけでなくバイオ由来原料の開発も進めている。

 サプライチェーン全体でのGHG排出削減を進める。現在、クラリーノの最終加工地は中国、欧米、韓国、ベトナムなどだが、加工地に近い地域での生産・供給を進めることで輸送段階でのエネルギー消費やGHG排出を削減することを目指す。