特集 人工皮革/独自の価値に評価高まる/東レ/クラレ/帝人コードレ
2022年11月30日 (水曜日)
人工皮革の採用がさまざまな用途で拡大している。天然皮革の代替だけでなく、軽量性や環境負荷低減など独自の価値への評価が高まってきた。このため人工皮革を製造販売する合繊メーカー各社とも原料や製造プロセスの革新などを加速させ、新たな需要を取り込むことに積極的に取り組む。
〈EV内装向け好調/環境配慮原料への転換進める/東レ〉
東レの人工皮革「ウルトラスエード」は2022年度(23年3月期)も好調な販売が続いている。特に電気自動車(EV)の内装材向けが拡大した。旺盛な需要を取り込むために今後は環境配慮型原料への転換を加速させる。
ウルトラスエードは近年、EVのインパネ・ドア回りや天井材などで採用が拡大している。EVは内装デザインが内燃機関自動車とは一新され、内装材には高い質感が求められる。さらに軽量性も欠かせないことから、人工皮革を採用するケースが増えた。
インテリア用途も北米市場を中心に堅調。ウルトラスエードのブランド力が高く評価されている。衣料用途は新興デザイナーブランドで採用が増えた。販売子会社の東レ・ウルトラスエードマーケティングが備蓄販売していることも衣料用途では強みとなる。
コンシューマエレクトロニクス用途は新型コロナウイルス禍による巣ごもり需要が続く。「エクセーヌ」ブランドで販売する工業資材も安定している。このため19年に増設した分も含めて21年からフル生産が続く。次の増設に向けた検討も始まった。
環境配慮型原料への転換も進める。現在、ウルトラスエードの原料は70~80%が再生ポリエステルと部分バイオ原料ポリエステルとなっているが、30年ごろまでには完全バイオ由来ポリエステル導入を目指す。
これに先立ち、このほど銀面調人工皮革「ウルトラスエードヌー」で100%植物由来ポリエステルによる新タイプを開発し、全日本空輸(ANA)の特別塗装機ANAグリーンジェットのヘッドレストカバーに採用された。ウレタンも水系化に向けた開発を進める。
現在は米国、中国、ドイツに販売拠点があるが、東レインターナショナルとも連携しながらグローバルサプライチェーンの増強に取り組む。
〈製造プロセスも環境配慮/カーシート採用拡大/クラレ〉
クラレの人工皮革「クラリーノ」は、主力のシューズ用途に加えて電気自動車(EV)のシート地でも採用が拡大している。原料だけでなく製造プロセスまで含めた環境配慮の特性への評価は高い。
2022年度(12月期)は主力のスポーツシューズ用途が欧米向けで前半好調だった。リサイクルポリエステルやリサイクルナイロン使いが環境配慮の観点から採用の拡大が続く。ただ、需要家が調達を前倒ししていた影響で8月以降は荷動きがやや鈍化している。
中国市場もゼロコロナ政策の影響で内需が減退しており低調。このため中国合弁の禾欣可楽麗超繊皮〈嘉興〉(ヘーシンクラレ)も若干苦戦している。それでもクラリーノ事業全体としては21年度を上回る業績となる見通しだ。
一方、カーシート向けは好調。EVで採用が拡大している。EVの内装材は高級感と軽量性を両立する必要があり、人工皮革の強みが生きる。そのほか、ハイブランド宝飾品の店頭ディスプレーボックスや什器(じゅうき)といったユニークな用途でもクラリーノの採用が拡大した。最近のゴルフブームを背景にスポーツ手袋向けも拡大した。
今後は引き続き環境配慮原料と環境配慮型製造プロセスへの転換を加速させる。特に製造プロセスは新方式「CATS」が従来製法と比較して温室効果ガス(GHG)35%減、水使用量70%減となり、水系ウレタンを使用するため有機溶剤の使用量も99・9%減となり、事実上ゼロとなる。こうした特性を生かし、CATSで生産する商品ラインアップの拡充を進める。また、バイオ原料使いの開発にも取り組む。
サプライチェーン全体でGHG削減も大きなテーマ。そのためには加工地の近くでの生産の拡大も今後のテーマとなる。
〈スポーツシューズに重点/加工技術生かし開発推進/帝人コードレ〉
帝人フロンティアの人工皮革製造子会社、帝人コードレ(大阪市北区)は2023年3月期、売上高で前期比40%増を見込む。同社の人工皮革「コードレ」はスポーツシューズが主力用途だが、競技用以外のシューズやボール向けなどの販売が拡大する。輸出比率が70~80%と高いため、為替相場の円安も追い風になっている。
スポーツシューズ市場は動物愛護やビーガン(完全菜食主義者)への対応として、天然皮革から人工皮革への切り替えが進む。その動きが競技用以外にも広がり、販売増につながったとみる。ボール用では採用が増え、シェアが高まった。販売量の拡大に対して供給能力(公称で年間600万㍍)が不足したため、ベトナムの協力加工場での委託生産も今春から始めた。ベトナムでは転写プリントやグラビア印刷などを現地企業に委託する。
コードレはペットボトル再生繊維を使った不織布を基布とし、リサイクル表示基準の「RCS」認証も取得する。こうした強みも販売量の拡大に結び付いた。
今後もスポーツシューズやボールなどスポーツ関連に重点を置いた商品開発に注力するが、特に環境対応に力を入れ、無溶剤による水系ウレタン含侵タイプを強化する。また、CO2削減に向け、重油からLNGへのボイラー転換や現在、20%の再生エネルギーによる電力使用量の引き上げも検討する。将来的な事業安定化のため、産業資材用途の開拓にもに取り組む。その一つが特許を取得する光透過フィルムになる。
24年3月期からはグループの新中期経営計画がスタートするが、同社は久々の「売上高100億円乗せを狙う」(浅田和重社長)。その一環として水系ウレタン含侵専用機の導入やベトナム協力加工場の拡大なども視野に入れる。