2022年秋季総合特集Ⅳ(2)/トップインタビュー/豊島/繊維からライフスタイル提案へ/社長 豊島 半七 氏/society5.0実現に向け前進

2022年10月27日 (木曜日)

 豊島の豊島半七社長は自社が進む方向性として、ライフスタイル提案商社を掲げる。新型コロナウイルス禍前から目指している目標ではあるが、直近では成果も出つつあり「少しずつだが目標に近づいている」と語る。今後さらに加速していくためにデジタル技術で企業を変革するDXの推進やSDGs(持続可能な開発目標)を見据えた素材の開発、提案に引き続き注力していく。日本が掲げる未来社会像「society5.0」の実現に向けて着実に歩みを進める。

  ――今後の繊維業界あるいは御社が進むべき方向性をどう考えますか。

 以前から言っていることですが、当社としては繊維商社からライフスタイル商社に変化していくことです。少子高齢化による人口減少はもちろんですが、店頭での販売アイテムの変化や消費者の多様化の流れが進んでいます。既存の商材にとどまらず生活全般を見据えた幅広いアイテムを提案することで、そうした変化や流れに対応していくことが重要であると考えています。実際、衣料品以外の売り上げは増えていますし、これまで全く付き合いがなかった異業種との取り組みも増していますので、ライフスタイル商社の道に少しずつ近づいている印象です。

  ――前期(2022年6月期)を振り返ると。

 長引く新型コロナ禍によって消費者の生活・行動様式が変化していることに加えて、物流費の大幅な上昇、そして急激な円安の進行と原材料費の高騰に歯止めがかからない状況でした。上半期は日を追うごとに悪化していくような状況で不振が続きました。特に綿花相場は高騰、暴落と大きく乱高下し先行きが読めない状態となりました。製品についても価格転嫁が進まず苦戦を余儀なくされました。

  ――部門別の状況を踏まえ全体の業績は。

 繊維素材部門の綿花は年明け以降の相場高騰があり増収ながらも大幅な減益でした。原糸は相場高騰に加えて、羊毛市場における国内需要の回復、北陸市場向けの合繊長繊維糸の拡販、さらに東南アジアやメキシコ向けの三国間輸出の増加があり増収増益でした。生機・加工反は中東や米国の市場回復とともに円安が後押し材料となり、加工反輸出が好調に推移しました。リネンサプライ業界への販売も増加しましたが、切り売り分野では昨年までの巣ごもり特需の反動から需要が落ち込み、売り上げは前期並みでしたが減益となりました。そのため素材部門全体では増収大幅減益でした。

 繊維製品部門はスポーツカジュアルや生活雑貨を取り扱う小売店向けへの販売は堅調に推移したものの、主力とするカジュアルSPA型の小売店向けは苦戦し、前期までの医療関係の需要がなくなったこともあり減収となりました。さらに、物流費の上昇、円安の進行、原材料費の高騰によるコストアップを売価に転嫁することができなかったほか、生産国でのロックダウン(都市封鎖)の影響で納期遅延もあり大幅な減収となりました。

 全体では3期ぶりの増収となったものの、営業、経常利益ともに大幅な減益となりました。

  ――機能性素材の打ち出しを強化していますが手応えはいかがでしょうか。

 徐々にではありますが販売が好調な素材も増え始めています。親水性ナイロン冷却糸「オプティマクール」や、繊維原料に極小セラミックの粉末を配合した蓄熱機能素材「セルフレイム」、体の動きに合わせたストレッチ性をもたらす「ハイパーヘリックス」などが堅調です。

 今後も新しい機能素材を展開していきますが、エコ素材と複合させるなどして、新しい価値を見つけていけたらと考えています。機能という言葉を一つとっても、昨今その範囲は広がっており、例えば電動ファン付きウエアも広い意味では機能と言えます。もちろん価格という側面も踏まえながら顧客のニーズに対応していきます。

  ――DXの取り組みを進めていますが、目指す将来を教えてください。

 当社は「価値創造」と「生産管理」の二つの軸でDXを推し進めています。生産管理の見える化や3DCGによる商品の開発・提案、販売データの解析などの合理化を図っていくことで、商談・訪問時間の削減や省人化に加えて、納期の短縮やサンプルの削減などが可能となります。特にこれまで費やしていた人員や時間に余裕が生まれることで、新しい仕事や新しい価値創造の取り組みに充てられます。こうした好循環を作り出すことで、ひいてはIoTなどのデジタル革新によって経済発展と同時に社会課題の解決を目指すsociety5・0に向かっていければと考えています。もちろん、カーボンニュートラルの実現も重要な位置付けとしています。

  ――今後の方針についてはいかがですか。

 DXの推進や素材開発はもちろんですが、素材、製品ともに輸出に力を入れたいです。当社は輸入型企業のため、今回のような急激な円安になると業績への影響はどうしても避けられない。リスクヘッジという意味合いも兼ねて輸出に真剣に取り組んでいきます。当社のサステイナブル素材や機能素材だけでなく、国内外のネットワークを駆使した生地、原料を含めたモノ作りの背景を生かし、中国や欧米、中東向けなどを狙っていきます。

  ――テレワークの普及や海外出張ができないなど新型コロナで働き方は大きく変わりました。

 確かにそうですね。ただ、今では中国を除いて基本的には出張ができるようになりました。ここ数年、入社した若い社員は海外出張ができない環境が続いていましたので、これからはどんどん外に出て現場での折衝の仕方を学んでほしいですね。

〈秋と言えば/人生のもの悲しさ感じる〉

 「この時期は日が短くなり、どことなく人生のもの悲しさを感じる」と話す豊島さん。季節の中でも秋は好みではない。さんさんと降り注いでいた夏の日差しはいつの間にか収まり、「夕方の4時半ごろには暗くなってしまう」と感慨深げ。秋は紅葉が風物詩だが見に行くことはあまりない。ただ、紅葉の名所である香嵐渓(豊田市)へは春先に訪問済み。「新緑のモミジから見える木漏れ日がとても奇麗だった」。紅葉シーズンとは異なり観光客はほとんどおらず十分に堪能できたようだ。

〈略歴〉

とよしま・はんしち 1985年豊島入社、90年取締役。常務、専務を経て、2002年から現職。