2022年秋季総合特集Ⅱ(9)/トップインタビュー/大和紡績/サステにつながる素材開発盛り上げる/社長 有地 邦彦 氏/SDGs解決に貢献する商品増やす

2022年10月25日 (火曜日)

 繊維業界では素材、商品開発でサステイナビリティーが外せない要素になりつつある。大和紡績の有地邦彦社長は、素材メーカーとして環境問題をはじめ、「社会問題を解決するアクションを取っていかなければならない」と話す。今後、環境問題に関心が高い1990年代中盤から2010年代序盤生まれのZ世代がファッションの先端を担っていく。商品やサービスが持つ社会的・文化的な価値を重視した消費行動の“イミ消費”を捉え、Z世代へも響く“ストーリー性を持った商品開発”へと軸足を移す。

  ――繊維産業が進むべき道についてどうお考えですか。

 無駄を減らす、衣料廃棄をなくす、素材からの環境配慮といった、サステイナビリティーから派生するテーマが外せなくなってきました。これまで環境配慮といえばリサイクルでしたが、そこから深みのあるテーマが増えてきたように思えます。サステイナビリティーに沿った素材開発を繊維業界がリードしながら、社会問題を解決するアクションを取っていかなくてはいけません。

 デジタル技術で企業を変革するDXやSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)といった言葉が聞かれるようになってきました。そういったデジタルの力を使い、サステイナビリティーにつながる素材開発を盛り上げていくことが大事だと思います。

  ――サステイナビリティーへの関心が高まっている理由は何でしょうか。

 学校教育で環境問題への関心が高まり、ファッションを支えるZ世代の消費行動に反映されていると思われます。“コト消費”から“イミ消費”へと変化し、素材についてもストーリー性がなければ今後買われなくなってしまう可能性があります。消費者の意識が劇的に変わってきたと思います。

 ダイワボウホールディングスではグループ全体で2030年度までに13年度比でCO2排出総量の30%削減を目指しています。ただ、繊維業界はいろいろとエネルギーを使う。重油の代わりに天然ガスを使うにしても、今は天然ガスの方が値上がりしています。以前は投資すればリターンを見込めましたが、今は単純に見込めません。それでも環境負荷への低減には取り組んでいかなければならない。国際情勢が大きく変化してきている中で、正しい判断の積み重ねをしていく必要があります。

  ――上半期(4~9月)を振り返ると。

 一部で新型コロナウイルス禍による特需の反動があったものの、産業資材や合繊・レーヨン事業を中心に需要が回復し、全体では売り上げを伸ばしています。ただ、原燃料高の影響が大きく、利益を増やせていません。

 産業資材部門は電子製品メーカー向けのカートリッジフィルターの販売を伸ばしています。合繊・レーヨン部門は衛材用原綿などで特需の反動を受けながらも海外向けの防炎・難燃レーヨンの輸出などが好調でした。

 製品・テキスタイル事業は原材料高に加え、円安が、国内の小売りでの需要回復の時期と重なり、値上げをお願いするのがしんどい状況でした。

  ――10月からの下半期はどうみていますか。

 原油価格は補助金の影響などもあって、天井を過ぎたように思えます。ナフサの価格も、欧米の景気悪化で消費量が下がっているという懸念すべき背景はありますが、下落基調にあります。価格転嫁も進んでいることから、下半期は上半期のようにはしんどくならないと考えています。

 合繊・レーヨン事業では取引先との連携を強め、子供向けから大人向けまで衛材の開発を進めていきます。生分解性バインダー繊維「ミラクルファイバーKK―PL」や、サステイナブル不織布「アピタスB」といった環境配慮型の素材も充実させています。

 コンクリートのひび割れを自己治癒させるコンクリート・モルタル強化材用特殊ポリプロピレン(PP)短繊維「マーキュリーC」も販売を強化し、24年には現状の10倍の生産量を計画しています。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業にも参画しており、CO2を吸着・固定化するコンクリート材料の開発によって、社会貢献にもつなげていきます。

 産業資材事業では、例えばフィルターに薬剤を付与し、耐久性を持たせるなど、高機能化を図っていきます。帆布関係は超軽量合繊帆布「エアフェザー」といった軽量化した商品開発を強めています。グループ会社のカンボウプラスには、3事業の研究開発機能を備える播磨研究所(兵庫県播磨町)へ人材を派遣してもらい、連携による開発を始めています。SDGsや社会問題の解決につながるような商品開発をもっと増やします。

 製品・テキスタイル事業では、綿・ポリエステル複合の2層構造糸は「セルピー」の技術をベースに、原料を変更して開発した「ツインレット」など、サステイナビリティーを訴求できる差別化素材の投入を強めています。アウトドアブームを受け、難燃セルロール混素材の販売にも力を入れています。

 インドネシアで生産するインナー製品の対米輸出は、米国での景気後退を受け、調整に入ってきました。ただ、20年以上継続しており、徹底した品質管理によって、他国に生産地を変えた取引先がまた当社へ戻ってくるケースもあります。ロックダウン(都市封鎖)や米中対立などリスクが高まる中、中国からインドネシアに戻ってくる可能性はあります。

 中国子会社の蘇州大和針織服装と大和紡工業〈蘇州〉では高級品の生産に特化しつつあり、欧米向けを手掛けてきたことから、第三者監査にも対応できる体制になっています。

 下半期も予断は許さないですが、明るい雰囲気は出てきたように思います。前向きにさまざまな課題に取り組んでいきます。

〈秋と言えば/御堂筋のイチョウ並木〉

 秋といえば「御堂筋のイチョウ並木をまず思い浮かべます」と有地さん。「入社した時からこの風景でした」。銀杏の独特なにおいとともに、自宅の前に咲くキンモクセイの香りもまた「季節を感じるにおい」だとか。「銀杏に掛けるわけではないが、食欲の秋でもある」。有地さんが好きな食べ物は果物で、ブドウや梨、桃を挙げる。これからはサンマも美味しい季節だが、以前より値上がりし「ちょっと寂しい」。いろいろと秋の風物詩を思い浮かべつつ、「1年がたったなあと一番感じる季節が秋ですね」。

〈略歴〉

 ありち・くにひこ 1987年大和紡績(現・ダイワボウホールディングス)入社。2017年ダイワボウホールディングス執行役員経営企画室長兼大和紡績取締役、18年ダイワボウホールディングス取締役兼常務執行役員、19年ダイワボウホールディングス専務兼大和紡績監査役、21年4月から大和紡績社長。