2022年秋季総合特集(10)/トップインタビュー/三菱ケミカル/サステ対応に向けたかじ取りを/アドバンストソリューションズビジネスグループ アドバンストマテリアルズ本部繊維事業部長 大坪 正博 氏

2022年10月24日 (月曜日)

 三菱ケミカルグループの繊維事業は、サステイナビリティー対応に軸を置いた展開を図る。トリアセテート長繊維「ソアロン」は、FSC―CoC認証の取得などで環境負荷低減に貢献し、アクリル繊維は工場で出る繊維くずの再利用によって循環型を実現している。三菱ケミカルの大坪正博アドバンストソリューションズビジネスグループアドバンストマテリアルズ本部繊維事業部長は「トリアセテート長繊維、アクリル繊維ともにこれからも生き残る商品にすることが使命」と話し、サステイナブル対応の強化によって素材価値を高める。

――事業環境やビジネス環境は変化しています。変化の中で繊維産業が進むべき道はどこにありますか。

 経済産業省の「2030年に向けた繊維産業の展望(繊維ビジョン)」や日本化学繊維協会による指針などが示されていますが、地球環境負荷低減やサステイナビリティー対応にしっかりとかじを取っていくことが三菱ケミカルグループの繊維事業として進むべき道であると考えています。海洋プラスチックごみ問題や地球温暖化が世界的な課題となる中で、繊維産業やわれわれにもその対応が求められているからです。

――三菱ケミカルグループではそうした取り組みは進展しているのですか。

 ソアロンは、持続可能な形で管理された森林の木材を使用し、森林管理協議会によるFSC―CoC認証を取得しています。それを富山事業所にとどめるだけでなく、染色や製織を含めたサプライチェーンに広げている段階です。認証では「エコテックススタンダード100」や「ブルーサイン」なども取得していますが、同じように重要視しているのが独自の「ソアグリーン プログラム」です。

 ソアロンは元々環境に配慮した素材ですが、環境負荷度を可視化したのがソアグリーン プログラムです。20年9月に立ち上げました。等級で環境負荷度が評価でき、撚糸回数や複合などの使い分けによって顧客が求める等級に対応します。昨年にはバージョンアップを図っており、生地のGHG(温室効果ガス)排出量の想定を可能にし、これによって各工程の負荷や改善効果も定量的に把握できます。

 アクリル繊維でも環境対応を図っています。アクリル工場で出た繊維くずや中間製品を溶解して紡糸するという取り組みを推進しています。これは以前から行ってきましたが、レギュラータイプの提案にとどまってきました。細繊度繊維を作る技術と組み合わせることで極細タイプの生産ができるようになり、今年度中に不織布を中心とする資材用途で販売を始める計画です。染色面で課題は残っているのですが、インナーなどへの展開も視野に入れています。

――ロシアによるウクライナ侵攻など、さまざまなことが起こっています。どのような影響が出ていますか。

 ソアロンの22年度上半期(4~9月)は、米国と中東、日本国内向けが回復基調を見せた一方で、欧州と中国向けは勢いを欠いています。これは世界情勢ともリンクしており、欧州は新型コロナウイルス禍からの回復が見えていた時にロシアによるウクライナ侵攻で減速しました。中国もロックダウン(都市封鎖)で動きが鈍りました。中国向けはソアロンのほか、アクリル繊維の販売にも響いています。

 米国の金利引き上げや円安、エネルギーコスト上昇の影響も出てきました。日本国内の産地も電気料金の高騰に伴うコストアップの懸念が大きくなっています。国・地域で差はありますが、事業を取り巻く環境が厳しくなる可能性は否定できません。ソアロンは、アパレルブランド「age3026」(エイジ・サン・マル・ニー・ロク)を立ち上げるなど、消費者への訴求を強化しています。どのような時代でも消費者に選ばれる素材を目指します。

――厳しい事業環境下で上半期の販売状況は。

 ソアロンは、米国、中東、日本国内向けが復調したこともあって、金額と数量ともに前年同期の実績を上回る水準で推移しています。アクリル繊維は前年と比較すると厳しい状況と言えます。中国市場向けが主力ですので、先ほどお話ししました通り、ロックダウンの影響が直撃した形です。7月からのアンチダンピング課税継続の影響も小さくありません。

 そうした状況下でアクリルは、極細の「XAI」(サイ)の展開を強化しています。サイは、自動車用途を中心に提案していますが、建築関係も増えてきました。新型コロナ禍の下でのリモートワークの浸透で防音や吸音をはじめとする「音」のニーズが高まっているので、チャンスは大きいと思っています。中国ではアリババグループのネット通販サイト「Tモール(天猫)」との協業が一定量を維持しています。11月11日の独身の日に期待しています。

――下半期以降の方針は。

 ソアロンは年間でも前年を上回る計画です。アクリルは中国次第ですが、厳しさが続くかもしれません。その中で原燃料価格の上昇が一番の課題です。中国のロックダウンの動きやロシア・ウクライナ問題、円安にも目を向け、きちんと対応していきます。原燃料価格高などは自助努力によって吸収しますが、自社でできる範囲を超える分については顧客に値上げをお願いしたいと考えています。

――中長期的な方向性も教えてください。

 ソアロン、アクリル繊維ともに、これからも生き残っていく商品にしていくことが重要です。そのためにも環境負荷低減やサステイナビリティー対応を前面に打ち出して新規顧客の開拓を図っていきます。ソアロンに関してはこれまでの高級ゾーンに加えて、中・上級ゾーンへの展開も強化・拡充します。海外市場については数量の拡大は難しい面がありますが、環境対応や高付加価値化で金額ベースでの成長を目指します。

〈秋と言えば/温泉で見る紅葉〉

 「秋と言えば紅葉が思い浮かぶ」と話す大坪さん。トリアセテート長繊維「ソアロン」は木材を原料としているが、「頑張った葉っぱが季節の到来で真っ赤に輝くところがソアロンと重なる」と言葉を続ける。自身は近くの公園の木々を見て変化を楽しんでいるほか、「温泉やスーパー銭湯の湯に漬かりながら紅葉を眺めているのも好きだ」と言う。時間が確保できた週末には温泉に足を向けることも少なくないとし、長野県近辺や大阪府箕面市の温泉・風呂から見た紅葉が特にお薦めだとか。

〈略歴〉

 おおつぼ・まさひろ 1993年三菱レイヨン入社。2017年三菱ケミカル豊橋事業所溶融繊維製造部長、20年高機能成形材料部門繊維本部繊維事業部長、21年フィルムズ&モールディングマテリアルズドメインモールディングマテリアルズディビジョンアルミナ・繊維セクター繊維ユニット長、22年7月からアドバンストソリューションズビジネスグループアドバンストマテリアルズ本部繊維事業部長。