特集 アジアの繊維産業(5)/自動車軟調も回復傾向続く タイ編/東レグループ/タイ旭化成スパンデックス/旭化成アドバンス〈タイランド〉/タイ蝶理/旭化成スパンボンド〈タイ〉/タイ東海

2022年09月28日 (水曜日)

 “ウイズコロナ”へとかじを切ったタイ。新型コロナウイルス感染者は依然として発生しているが、経済活動は正常化しつつある。経済の復調に合わせて繊維産業も回復へと向かう。

 タイ国家社会経済開発委員会によると、タイの2022年の実質GDP成長率は2・7~3・2%と予想される。新型コロナに対する政府の規制が緩和されたことで個人消費が回復。ホテル、レストラン、娯楽・文化などサービス支出が大きく伸びている。

 回復が進むタイ経済だが、一方で逆風もある。主要産業の一つである自動車は世界的な半導体不足に加え、中国からの部品調達がロックダウン(都市封鎖)の影響で停滞するなどで生産が減少した。タイ工業連盟によると22年の自動車生産台数は約180万台と予想される。14~19年までは200万台前後で推移していただけに、完全復活への道半ばにある。

 こうした状況は日系繊維企業の業況にも表れている。例えば、合繊糸・わた製造のテイジン・ポリエステル〈タイランド〉(TPL)とテイジン〈タイランド〉(TJT)は自動車関連用途で一部受注が鈍っているが、主力の生活資材用途や産業資材用途は堅調に推移。このためフル操業を維持している。

 紡織のタイ・クラボウと染色加工のタイ・テキスタイル・デベロップメント・アンド・フィニッシング(TTDF)もフル操業となっている。カジュアル衣料の需要が回復した。

 ただ、課題もある。原燃料高騰で利益率が圧迫されており、価格転嫁の重要性が高まる。中国からASEAN地域に生産をシフトさせる動きが強まっているが、ベトナムなど他のASEAN諸国との競争も激化した。タイは人口や人件費の面で生産拠点としての競争力が劣るため、生産品種を高付加価値品に転換することや、新規用途を開拓することなどが課題となっている。

〈商品、用途転換が加速/東レグループ〉

 東レグループは、合繊長繊維製造のタイ・トーレ・シンセティクス(TTS)と紡織加工のトーレ・テキスタイルズ〈タイランド〉(TTT)ともに2022年度上半期は業績が回復傾向にある。商品や用途の転換によって新規市場の開拓で成果が出ている。

 21年度は苦戦したTTTは、課題だった短繊維織物事業の改善を進めた。ポリエステル・綿混シャツ地は市場縮小が続いているため、生産規模を適正化して高級ブランド向けに特化した。中東民族衣装用ポリエステル短繊維織物も低採算品を縮小し、高級ゾーンへのシフトを進めている。インドの民族衣装用織物への参入も進めた。

 長繊維織物事業も市場縮小が続く裏地を減らし、表地のウエートを増やしている。メガスポーツブランドへの販売が拡大した。ニット生地も好調が続いており、自家生産の丸編み地だけでなく協力工場で生産する経編み地も商品に加える。タイ国内でプリント加工や縫製することで短納期対応力を高める。

 エアバッグ基布事業は原料高騰が続く中、ようやく価格転嫁が追い付き、利益も回復傾向にある。こちらもインド市場への参入を進めている。基布製造の技術を生かしてゴム資材用コード織物も新規採用を獲得した。

 TTSはナイロン長繊維が衣料用と一部の産業用で低迷しているが、衣料用ポリエステル長繊維は仮撚り加工糸(DTY)が有力アパレルとの取り組み成功で好調が続く。特に再生ポリエステル「&+」(アンドプラス)が販売をリードする。エアバッグ原糸を応用し、靴の縫製糸など新規用途開拓にも成功した。

 在タイ国東レ代表の松村正英執行役員トーレ・インダストリーズ〈タイランド〉社長は下半期に向けて「タイは人口減少で内需も縮小傾向。売り先の拡大が不可欠になる」として、特にインド市場の開拓に力を入れる。その上で、サステイナビリティーやカーボンニュートラルに向けた取り組みや、人権・労働環境を重視した事業運営を進め、引き続き事業内容の高度化を加速させる。

〈サステイナビリティー軸に/タイ旭化成スパンデックス〉

 スパンデックス製造販売のタイ旭化成スパンデックスは、サステイナビリティーを軸にした事業戦略を推進する。

 2022年度上半期は、原料価格こそ正常化しつつあるものの、スパンデックスの需要が減退傾向となり、需給バランスがやや緩んでいる。このためフル操業を維持しているものの業績の本格回復は下半期からを見込む。

 こうした中、同社ではサステイナビリティーを軸に置いた事業戦略を推進する。具体的には、国際認証の取得に加えて、生産活動での廃棄物削減、二酸化炭素排出量削減のための環境対策を継続的に実施していく。CSR活動も重視しており、従業員の意識も高めながら地域社会への貢献を重視する。

 同社は原材料価格の変動によって業績が左右される傾向が強い。このため原材料価格が変動しても付加価値を確保できる高付加価値商品への転換に取り組む。

〈新規ビジネス探索/旭化成アドバンス〈タイランド〉〉

 旭化成アドバンスのタイ子会社である旭化成アドバンス〈タイランド〉は、エアバッグ包材やカーシート向け撚糸など資材用途、カバーリング糸やテキスタイルコンバーティングなどアパレル用途に続く新規ビジネスの探索に取り組む。

 2022年度上半期は衣料用途でカバーリング糸が好調に推移したが、テキスタイルコンバーティングが苦戦した。日本向けが中心のため原燃料高騰による価格上昇で成約しづらい状況となっている。

 カーシート向け撚糸やエアバッグ包材など自動車向け資材はいずれもタイの自動車生産台数減少の影響で受注量の変動が大きくなっており、収益が安定しない。

 下半期に入って自動車関連は回復を見込むが、テキスタイルコンバーティングは引き続き厳しい環境が続く。このため、これまでも続けてきたメディカル用途など新規ビジネスの探索を進める。

 電気料金の上昇が続いていることから、ソーラー発電の導入なども積極的に実施する。

〈天然繊維、短繊維を強化/タイ蝶理〉

 タイ蝶理は衣料用原料販売で主力の合繊長繊維に加えて、天然繊維や短繊維の取り扱い拡大を進める。カーシート原糸は輸出拡大に取り組む。

 経済正常化の流れを受けて、2022年度上半期は売上高、利益ともに大幅に増加した。テキスタイル事業は中東民族衣装用織物の輸出が現地経済の改善や流通在庫減少によって回復した。

 原料販売はカーシート原糸が北中米向けで一部低迷するもタイ内販は順調に回復した。衣料用はナイロン長繊維の販売が増えている。中国から調達をシフトする動きが強まっている。資材向けでは衛材向け不織布原料やカーシート部材用生地が堅調だった。

 原料販売は、STXが蝶理グループに加わったことを生かし、衣料用でSTXが得意とする天然繊維や短繊維の取り扱い拡大を進める。カーシート原糸は内販が国内の自動車生産台数に左右されることから輸出の強化に取り組む。資材向けは衛材関連用途で販売拡大を進める。

〈3号機が商業生産開始/旭化成スパンボンド〈タイ〉〉

 ポリプロピレンスパンボンド不織布(SB)製造の旭化成スパンボンド〈タイ〉は2022年度上半期も比較的安定した需要に支えられ、フル操業を維持した。新設した3号機も稼働が本格化している。

 既存設備は、主力用途である衛材などの需要が安定していたことでフル操業を維持できている。新設した3号機も6月から商業生産を開始した。

 ただ、原料価格の高止まりや慢性化しつつあるバーツ高の影響で利益面が圧迫されており、今期業績は計画に対して若干下振れする見通しとなった。今後は、新設備の稼働を徐々に高めていき、既存設備と合わせた最適なプロダクトミックスを完成することが重点方針となる。

 原材料だけでなく、あらゆるコストが上昇していることから、全方位でのコストダウン施策に取り組む。

〈徹底して“無駄”削減/タイ東海〉

 東海染工グループの染工場であるトーカイ・ダイイング(タイランド)(タイ東海)は、原燃料高騰など事業環境が悪化する中、改めて“無駄”を徹底して削減することで利益率の維持に努める。

 2022年度上半期は経済正常化の流れを受けて内需向け、輸出向けともに受注が徐々に回復した。現在はフル操業を維持している。ただ、原材料やエネルギー価格の高騰が採算を圧迫しており、利益は引き続き厳しい状況が続く。

 コスト上昇が続く中、改めて品質管理体制の強化、生産性向上・効率化の取り組みを進める。徹底して“無駄”を削減することで可能な限りコストを吸収し、採算の維持に努める。