特集 アジアの繊維産業(4)/東レグループ/日清紡グループ/TYSMインドネシア/東洋紡グループ/東海染工のTTI/メルテックス
2022年09月28日 (水曜日)
日本の繊維メーカーがインドネシアに進出して半世紀が経つ。経営環境は大きく変わり、日系企業が汎用的な商材を供給する時代は終わった。これからはいかに現地で付加価値の高いものを作れるかが事業の盛衰を握る。
〈GDPは再び成長軌道へ〉
インドネシア経済は2020年に、新型コロナウイルス禍の影響で1998年のアジア通貨危機以来初めてGDP成長率がマイナスとなった。しかし21年は3・69%とプラスに転じ、世界銀行の今年6月の発表によれば22年は5・1%、23年は5・3%と再び成長軌道となる見通しだ。
これを裏付けるように、現地の繊維・ファッション産業の商況も着実に好転している。中国、米国、欧州、日本といったそれぞれの市場で新型コロナ対策が浸透し、消費が回復に向かい、間接的にインドネシアの日系工場の業績回復につながっている。売り上げや生産量で新型コロナ前と同じ水準、もしくはそれ以上になる日系企業も出てきている。
インドネシアは豊富な生産労働人口や中国に比べて人件費が低いことから汎用的な糸、生地を大量に作る拠点としてこれまで存在感を発揮してきた。
ところが、毎年5%の経済成長に伴い、連動して最低賃金の上昇ペースが上がるため、日系企業にとってはいかに付加価値ある素材を現地で作るかということがこれからの盛衰を決めるポイントになる。
地球環境に対する意識が高い欧米市場を狙って、環境認証を取得する工場も相次いでおり、リサイクル素材の開発や生産工程における環境負荷の低減に向けた取り組みも活発になっている。
〈コスト増で値上げ不可避〉
日系企業がインドネシアで作る商材の高付加価値化を急ぐ背景にあるのは、人件費高騰や中国や現地繊維メーカーの価格攻勢だけではない。この1年で製造や物流コストが急上昇し、利益が圧迫されているからだ。改めて日本企業ならではの、あるいは、インドネシアだからできる付加価値を付けることが急務となっている。
〈原料から縫製まで一貫/東レグループ〉
インドネシア東レグループの受注が回復に向かっている。現地グループを統括するトーレ・インダストリーズ・インドネシアの第1四半期(2022年4~6月)の売上収益は前年同期比13%増となった。
一方、利益は厳しい状況が続く。製造原価や物流コストが著しく上昇し続けているためだ。価格転嫁はほぼ一巡したが、業績に反映されるまでは“タイムラグ”があるという。通期で前期比増収、増益を目指す。
値上げに加えて原糸、原綿、生地、縫製品の高付加価値化も急ぐ。同グループは長・短繊維の開発から紡績、織布、染色加工、そして最終の縫製までインドネシア国内に全てのサプライチェーンがあることを強みとしている。
この強みを背景に風合い、多彩な機能、環境に貢献するサステイナビリティーなどさまざまな付加価値をインドネシア国内で付ける。取引先やその先の企業がどのような最終製品をどんな市場に売るかという商流まで見据え、東レグループ一貫生産による高付加価値の商材と生産オペレーションのアピールに力を入れる。
生産の高度化に向けて、アジアの東レグループとの連携も強化する。インドネシアの製造拠点に加え、タイ、マレーシア、日本のグループとも結び付きを強め、これまで以上に高度で取引先のニーズに合った商材を供給する体制を作る。
〈一貫生産で高付加価値化/日清紡グループ〉
日清紡グループは、現地で紡績から織布、加工、縫製まで一貫生産できることを強みに生産工程と生産品の高付加価値化を進める。グループは紡績・織布のニカワテキスタイル、織布・染色加工の日清紡インドネシア、縫製のナイガイシャツインドネシアの3社。
グループでは近年、「GOTS」や「エコテックス」といった国際認証を取得し、環境や安全・安心に配慮した製造工程や生産品を新たな付加価値とする戦略を取る。現在、欧米市場で製品の製造現場に求められる従業員の労働環境や待遇に関する認証「SA8000」の取得に向けて準備を進める。
主力であるシャツ、ユニフォーム関連の商材に次ぐ新たな収益の柱として、カジュアル分野への生地や加工の販路開拓に力を入れる。ニカワテキスタイルで織布の準備工程を効率化するサンプルワーパーを年内に導入し、試織能力を高め、相手先の要望に合った提案を素早くできるようにする。
工場の操業による環境負荷の低減を推進する。年内にも買電を全量地熱由来の電力に切り替える。これにより温室効果ガスの排出量を減らすと同時に、二酸化炭素排出権の取得につなげる。
〈生地、製品事業が好調/TYSMインドネシア〉
豊島のインドネシア子会社、TYSMインドネシアの生地輸出と製品OEM事業が好調だ。生機の生産は中東向けを中心に機械の稼働率が高く、現地の織布工場では年内はフル生産で空きがない所も出ている。
アパレル・繊維製品のOEM事業の受注は2019年の水準を取り戻しつつあるが製造コスト高、固定費上昇などで価格、リードタイムにおけるインドネシアでの利点を出すことが難しい状況。
一方、原糸販売事業は低調。顧客の要望する価格と糸を作るのに必要なコストとの差が大きく、発注を様子見する顧客が増えていることや欧米で消費の先行き不透明感が濃いことが影響する。
こうした中、同社は受注への対応、生産、開発、販路開拓の全てで“スピード”を重視する方針だ。インドネシアを“チャイナ+1”の筆頭として捉え、30年まで続く人口ボーナスを成長力にする。
新垣卓也社長は「(インドネシアは)人口の伸びや経済成長の余地に加えRCEP(地域的な包括的経済連携)も批准しており、当社としては貿易で今後も成長の余地が大きい」とコメントする。
〈繊維、化成品ともに堅調/東洋紡グループ〉
インドネシアの東洋紡グループの2022年4~9月期の業績は売り上げ、利益ともに前年同期を上回りそうだ。主要なセグメントの化成品と繊維の両方で前年を超える予想。
化成品事業では現地の日系自動車メーカー向けのパーツの製造・販売を行う。現地の新車販売台数が前年よりも伸びており、パーツ需要の回復が進み、化成品事業を勢いづける。
繊維事業は日本市場向けが主力でシャツ、スポーツ衣料、企業ユニフォーム、学校制服などの分野に編み地や縫製品を供給する。近年、同社ならではの機能性を持つ生地を現地で作り、縫製まで一貫して行う案件の獲得に力を入れる。
ニットシャツは日本市場に加え現地でも実績を重ねている。日本向けではこれまで紳士服チェーンを卸先に長袖で安定的に供給量を増やしてきたが、今期は半袖シャツの需要も取り込んだ。現地アパレルへもシャツ用ニット地の提案を強め、売り先を増やしている。
同グループは事業統括の東洋紡インドネシア(TID)、編み立て・染色加工の東洋紡マニュファクチャリング・インドネシア(TMI)、縫製のSTGガーメント(STG)で構成する。
〈レーヨン加工、新たな柱に/東海染工のTTI〉
東海染工グループのトーカイ・テクスプリント・インドネシア(西ジャワ州ブカシ、TTI)の加工数量が新型コロナウイルス禍以前の水準に回復しつつある。新型コロナ禍以前は月産400~450万ヤードで、9月は430万ヤードとなる見通し。
今年3月時点で2019年比8~9割程度まで生産量が戻っていたが、さらに回復が進んだ。トレンドに需要が浮き沈みするプリントに比べ、無地染めの受注が増加。現地の消費の回復に加え、無地はさまざまな用途に使えるため、在庫リスクが少ないことが堅調な要因の一つとみられる。
売り先では現地の繊維製品卸売市場の生地問屋への売れ行きが低調な一方、デパートなど最終消費者をターゲットとする取引先からの受注が好調。レーヨン100%、綿・レーヨン生地が収益の新たな柱になりつつある。
同社の主力は綿、綿混生地の無地染め、プリント、プリント加工地の販売。20年以降、レーヨン、ポリエステルなど加工できる生地の種類を増やすことに力を入れており、こうした施策が加工量の回復につながった。
〈建屋新設、生産改革へ/メルテックス〉
シキボウのメルテックス(東ジャワ州モジョケルト)が、昨年9月の火災による苦境から立ち直りつつある。上半期(1~6月)の業績は前年同期を上回った。通期でも業績は大きく改善する見込み。
紡績事業は1~3月に減産した。紡績工程で火災からの復旧に時間を要した。新たな設備を入れ操業可能になった後の4~6月に状況は反転し、昨年の上半期を上回る実績となった。火災前の受注残があったため、設備が入り次第、すぐに生産を再開できたことが奏功した。
織布工程も一部で火災の影響があったが、現在、70台強の織機がフル稼働しており、来年1月までこの状況が続く見通し。中東の民族衣装に使われる生地の需要が回復していることが背景にある。
被災した紡績、一部の織布工程の全てで既に生産を再開しているが、紡績はまだ完全復旧ではないという。今期中に紡績の建屋を新しくし、生産性改革を行う。錘数は5万錘と火災前とほぼ同数を維持するが設備や体制を整備し、来期(2023年12月期)を“リスタート”の年と位置付ける。