特集 差別化ヤーン/糸の重要性が高まる

2022年09月05日 (月曜日)

 依然として新型コロナウイルス禍は収束の兆しを見せていないが、ワクチン接種の普及もあって経済活動の正常化が急速に進む。繊維産業も生産が回復基調にある。一方、中国はゼロコロナ政策によって生産の不安定化がささやかれている。このため糸の需給バランスは比較的タイトな状況が続く。物流の混乱もあって、海外からの糸供給が不安定化する中、日本の紡績や商社が供給する糸の重要性が一段と高まった。繊維製品にとって糸は差別化の原点だけに、競争力のある糸の確保は最優先となる。有力紡績、商社、糸メーカーにとって最も重要な季節に入ったといえる。

〈除菌機能糸を重点提案/サステイナブル原料も活用/東洋紡せんい〉

 東洋紡せんいは、除菌機能繊維「アグリーザ」を重点提案している。高い除菌性能への注目度は高く、衣料品以外の用途でも採用が広がりつつある。純綿糸はサステイナブル原料を積極的に活用し、紡績技術による機能化を打ち出す。

 アグリーザは、銀イオンによる高い除菌性能が特徴。後加工ではないため、機能の耐久性も極めて高い。ここに来て衣料用途だけでなく、自動車用品など産業資材用途でも採用が拡大している。こうした実績も生かし、引き続き用途開拓に取り組む。

 一方、純綿糸では特殊紡績技術によって吸汗速乾性や清涼感などを付与した「爽快コット」の評価が高い。綿100%でありながら機能性を実現していることが高い評価を得た。原綿にオーガニックコットンを採用したバージョンも用意した。

 同社は長年にわたってインドの大手紡績との取り組み実績があり、信頼できるサプライヤーからオーガニックコットンを調達している。コットンによるサステイナビリティーやSDGs(持続可能な開発目標)への貢献に加えて、機能性を打ち出すことで販売の拡大を目指す。

 海外オペレーションも拡充する。現在、海外からの糸の調達は中国やインドが中心だが、今後はマレーシア紡織子会社の東洋紡テキスタイル〈マレーシア〉での開発も強化し、海外での差別化糸の生産拡大に取り組む。

〈差別化原綿で2層構造糸/純綿糸はベトナム生産を活用/シキボウ〉

 シキボウは「ツーエース」「クイックドライコットン」など芯にポリエステル短繊維、鞘に綿を配した2層構造糸の提案に力を入れる。差別化原綿を使用することで機能性を高める取り組みが進む。一方、純綿糸はベトナム協力工場での生産を活用する。

 現在、同社の2層構造糸は堅調な販売となっている。綿の肌触りにポリエステル短繊維の形態安定性や速乾性を併せ持つことへの評価が高く、アパレルによる採用が拡大した。

 使用する原綿にも工夫した。綿にオーガニックコットンを採用したものや、ポリエステルは再生ポリエステルや異形断面タイプを使用したものなどバリエーションを拡充。

 今後は、燃焼時に発生する二酸化炭素が少ない特殊ポリエステル「オフコナノ」や、生分解性ポリエステル「ビオグランデ」を使ったバリエーションも充実させる。

 一方、純綿糸は国内の富山工場のほかベトナムの協力工場での生産も活用する。現在、ベトナム協力工場はシキボウが原綿を供給し、強撚糸など高付加価値糸の生産も可能になった。ベトナムの立地を生かし、ASEAN域内への販売など三国間貿易の拡大にも取り組む。

 近年、世界的にサステイナブルな糸の需要が高まっている。このため子会社である新内外綿と協力し、反毛によるアップサイクルシステム「彩生」にシキボウとしても取り組む。新内外綿が色糸の生産・販売を担当するのに対してシキボウは生成り糸を担当する。そのほか、豊田通商、信友と連携して普及を進めるフェアトレードコットン使い綿糸「コットン∞」(コットンエイト)も注目度が高い。

〈「彩生」で生産力増強/今期中にも設備投資/新内外綿〉

 新内外綿が2020年からスタートした、廃棄繊維を糸にアップサイクルするシステム「彩生(さいせい)」。取引先への提案を始めて2年で、ファッション産業における環境意識の高まりを追い風に、受注件数が着実に増えている。

 同社の紡績子会社、ナイガイテキスタイル(岐阜県海津市)の彩生に使う生産設備の稼働率は上限に近い状態が続いているため、来年3月までに“彩生”糸を増産する設備を新たに導入する。これにより現状の2倍ほどの生産量になる。ナイガイテキスタイルの生産数量に占めるアップサイクル糸の比率は来年には今の5%から10%程度まで増える見込み。

 今年からは彩生の仕組みを新内外綿子会社のタイ繊維商社、JPボスコの協力工場でも応用し、国内よりも大きいロットに対応する。

 アップサイクル糸の需要は今後も伸びるとみて、今年から新内外綿の親会社、シキボウの富山工場でも彩生糸の生産を始める。新内外綿は杢(もく)の彩生糸を手掛け、シキボウでは生成りの彩生糸を作ることで差異化する。

 現在、ナイガイテキスタイルの生産数量の50%が定番杢糸、30%が顧客からの別注糸、残り20%は賃紡となっており、生産ラインは今年11月以降もタイトな状況が続きそうだ。

〈全商品が“取り組み型”/資材用途での拡販も/泉工業〉

 ラメ糸製造卸の泉工業(京都府城陽市)は、ラメ糸に関するユーザーの細かな要望や悩みに応える“相談できるラメ糸メーカー”として存在感を高めてきた。こうした強みを生かしてラメ糸の市場開拓に取り組む。衣料用途だけでなく資材用途での拡販にも力を入れる。

 一般的なラメ糸は見本帳による備蓄販売が主流だが、同社は既存ラインアップをベースに、ユーザーからの細かな要望に応えるカスタマイズしたラメ糸販売に取り組んできた。このため新たな商品開発に取り組む織布企業やアパレルからの信頼は強い。

 新型コロナウイルス禍からの経済正常化の流れを受けて7月からは受注も回復傾向となり、用途もインナー、デニム、帆布など幅広い。いずれもユーザーからの細かな要望に応えるカスタマイズを施したラメ糸を販売している。

 世界的にサステイナビリティーへの要求が高まる中、同社はセルロースフィルムを使った生分解性ラメ糸、再生ポリエステルフィルムを使ったラメ糸、そしてバイオ原料ナイロンフィルムを使ったラメ糸も用意する。

 カーシートやカーテン、カーペットなど資材向けでも実績がある。現在、資材用途の拡大を目指しており、そのために導電性や高強力、耐摩擦性、高耐侯性などを追求した高機能ラメ糸の開発にも取り組む。

 資材用途は、ラメ糸があまり使われていない用途だけに、市場開拓の可能性は大きいとみている。

〈豊島/サステ商材の認知度向上/近年は機能性提案も強化〉

 豊島は天然繊維から合繊まで幅広い原料による差別化糸をそろえており、認知度は年々向上している。サステイナビリティーやトレーサビリティーはもちろんだが、近年では機能性を打ち出した商品の販売にも力を入れ、さらなる差別化を図る。

 トルコ産のトレーサブルオーガニックコットン「トゥルーコットン」は採用例が着実に増えており定着しつつある。最近ではファッション誌「ヴォーグ」の公式アパレルライン「ヴォーグ・コレクション」の新商品に採用されるなど広がりを見せる。

 トゥルーコットンは綿花の生産農場から紡績までの工程を一元管理することでトレーサビリティーを実現しているのが特徴。オーガニック綿100%だけでなく、異素材を混紡するなどラインアップも増やし顧客の要望に応えている。

 廃棄予定の食材を染料に活用する「フードテキスタイル」も認知が広がっている。衣料向けだけでなく、雑貨やインテリア向けにも用途開拓が進んでおり、同社が目標として掲げるライフスタイル商社への道筋をたどっている。

 同社はこのほど、企業ステートメント「マイウィル」に新たなカテゴリーとして、「ファンクショナル」を加え機能性商材の提案も推進。親水性ナイロン冷却糸「オプティマクール」や蓄熱機能素材「セルフレイム」など多彩な商材をそろえる。