特集 安心・安全(5)/防火難燃/国内外で需要高まる/クラボウ/ダイワボウレーヨン/カネカ/大和紡績/ユニチカトレーディング/QTEC
2022年08月10日 (水曜日)
〈用途開拓進む「ブレバノ」/クラボウ〉
クラボウは防炎生地「ブレバノ」シリーズの用途開拓を強めている。主力用途である作業服で堅調な販売が続いていることを生かし、アウトドアやホームテキスタイルでもブレバノの需要創出に取り組む。
ブレバノシリーズは、綿に難燃性の高いモダクリル繊維を混紡した生地で、綿の肌触りや吸湿性と難燃性を兼ね備えた生地として難燃作業服用途で高い評価を得ている。企業の安全意識の高まりから作業服の難燃化進める動きが加速しており、ブレバノも販売数量が毎年10%のペースで拡大する。
最近では電動ファン付きワークウエア向けでも採用が始まった。レギュラー品である「ブレバノプラス」のほか、未利用綿(落ち綿)を採用した環境配慮タイプ「ブレバノエコ」もサステイナブル素材として注目された。
作業服以外の用途開拓にも力を入れる。アウトドア分野で採用実績ができ始めたほか、カーテンや寝装・寝具などホームテキスタイルへの提案にも取り組む。一部で綿カーテン再評価の動きがあり、綿混素材であるブレバノが注目された。
ブレバノプラス、ブレバノエコに加えて、アラミド繊維も複合することで防炎・難燃作業服の米国規格や国際規格にも対応した「ブレバノネクスト」の拡販も進める。円安の追い風を生かして輸出拡大を目指す。
〈海外市場で好調続く/ダイワボウレーヨン〉
ダイワボウレーヨンは、シリカ系防炎剤練り込みレーヨン短繊維「FRコロナ」シリーズ、リン系難燃剤練り込みレーヨン短繊維「DFG」をラインアップに持つ。いずれも海外市場で好調な販売が続いている。
FRコロナは練り込んだシリカ系防炎剤が骨格となり燃焼時に穴が開かないため、炎に対する高いバリア性を持つ。米国を中心にベッドマットのウレタンを包む防炎材として豊富な実績を持ち、現在は紡績可能な「FRL」が主力。
2021年は活発な米国経済の追い風もありFRコロナの販売も絶好調だった。しかし、22年に入ると米国は金利上昇の影響で住宅着工が減少し、ベッドマット向けの需要も鈍化した。ただ、同国ではアンチモン規制が強化されており、アンチモンを含む防炎剤を使った防炎素材からシリカ系防炎剤を使うFRLへの切り替え需要は今後も増加する公算が大きい。
DFGは海外の官需を中心に好調が続いている。欧州メーカーの難燃レーヨンと競合関係にあるが、アジア地域の需要家が調達を複線化する傾向を強めており、その需要を取り込むことに成功した。民需もアジア地域で安全意識の高まりから難燃作業服向けの需要が拡大している。
引き続き防炎・難燃レーヨンで輸出の拡大に取り組む。国内市場に対して、海外で紡績した糸を持ち帰り、連携する大和紡績の製品・テキスタイル事業本部を通じてアウトドア向けなどで市場開拓にも取り組む。
〈高難燃グレードを展開/カネカ〉
カネカが販売している「カネカロン」は、自己消火性の難燃性モダクリル繊維で、しなやかな触感や染色性に優れている。高難燃グレードの「プロテックス」は、さまざまな天然繊維や合成繊維と組み合わせて使用することができ、難燃作業服や自動車・産業資材、ホームテキスタイル分野などで使用されている。
プロテックスは、繊維樹脂そのものが難燃性を持つ素材難燃繊維のため、洗濯などによって難燃性が衰えたり、失われたりすることがないのが特徴。燃えると溶融せずに炭化する炭化型難燃繊維であり、炭化部分が延焼を防ぎ、溶け落ちて皮膚に付着することもない。燃えやすい繊維と組み合わせても消火難燃効果を発揮する。
成長市場と捉える難燃作業服用途を軸に事業の拡大を進める。同時にモダクリル繊維のグローバルリーディングカンパニーとして環境に配慮したグレードや高機能性グレードの拡大を進める。
また、拡大する需要への対応の一環として、既存設備のボトルネック改善や増設などで生産能力の強化を図っていく方針である。
〈綿100%の強み生かす/大和紡績〉
大和紡績は、難燃加工「プロバン」を施した綿100%難燃衣料品「ボディバリア」で、主力の作業服や保護具に加えてアウトドアなど新規用途への提案を進める。綿100%の強みを打ち出すことも切り口の一つとなる。
ボディバリアに採用されているプロバン加工はノンハロゲンの難燃加工のため燃焼時や焼却処分時の有害物質の発生を抑えることができる。綿100%生地への後加工のため綿の風合いや吸湿性への評価も高い。
このため綿100%難燃生地を求める需要家の間で根強い人気がある。作業服のほか、火花が発生する作業現場で着用する工業用エプロン・前掛けなど保護具での評価が高い。綿は公定水分率が高いため、火花が生地に当たった際に多素材よりも素早く滑落するためだ。
企業の安全意識の高まりから需要増加が続く難燃作業服や保護具での採用拡大を目指す。ここに来てアウトドア用途からの引き合いも増えていることから、作業服以外の用途開拓に取り組む。
ボディバリアは同社の産業資材事業本部で扱っているが、カジュアル衣料などを扱う製品・テキスタイル事業本部とも連携することで、これまで接点のなかったアパレルなどへの提案に取り組む。
〈用途開拓を加速/ユニチカトレーディング〉
ユニチカトレーディングは、安心・安全を切り口にした高機能差別化素材「プロテクサ」シリーズの用途開拓を加速させる。知る人ぞ知る特殊なユニフォーム用途が主体だったが、時代に合わせた用途開拓で安心・安全の提案を強化する。
溶接現場の作業服などに用いられる難燃性素材「プロテクサ―FR」は、後染め可能な点や柔らかな風合いといった特性も生かし、ユニフォーム分野を深掘りする。企業のイメージカラーを生かしたデザイン性、着心地の良さなどを訴求する。近年盛んなキャンプなど火を扱うアウトドア向けにも広げる考え。スポーツ部隊と連携し推進する。
感染防護衣素材「プロテクサ―PS」はリユースによる経済性の高さを生かし、手術衣といった既存の特殊用途に加え、飲食店向けなど幅広く提案する。高視認性素材「プロテクサ―HV」は、海上で使われるアイテムにも採用される見通しだ。
暑熱対策ユニフォームで好評の太陽光遮蔽性クーリング素材「サラクール」は、使用済みペットボトル原料使いに一新。サステイナビリティーを追求しつつ、従来の風合い、性能を損なわないSDGs素材として市場への浸透を進める。
グループ会社との連携も重視。特にユニチカガーメンテックとは、同社の人工気候室や発汗マネキンなどで測定したデータを活用し、着用時の効果を分かりやすく伝えるように工夫している。
〈カーテンなどの安全に寄与/QTEC〉
日本繊維製品品質技術センター(QTEC)の東日本事業所福井試験センターは、さまざまな燃焼性試験に対応している。特にカーテン(地)に関する防炎試験の依頼が多いが、北陸がカーテン(地)の製造が盛んな産地であるためだ。安心・安全への関心は高く、アウトドアウエアなどの試験も増えている。
ホテルをはじめとする不特定多数の人が出入りする施設・建築物のカーテンなどは、消防法に定められた防炎性能基準の条件を満たす「防炎物品」の使用が義務付けられている。QTECは、防炎物品とその材料の防炎性能を確認する機関として消防庁に登録されている。
カーテンの防炎試験機を2台(その他の燃焼試験機を含めると8台)保有し、納期は約1週間。2011年の東日本大震災以降防災への意識が高まり、最近は新型コロナウイルス禍によるイエナカ時間の増加で需要が拡大した。巣ごもり需要は一巡したが、安心・安全への意識は引き続き高い。
顧客に対して「より丁寧な対応を行うなど、コミュニケーションの取りやすさ」がQTECの強み。また、防炎ラベルの裏面に試験番号を掲載するなど、独自のトレーサビリティーを確立している。じゅうたんや自動車関連、アウトドアウエアにも広がりを見せる。アウトドアウエアでは防融試験も提案している。