緊急企画 円安を生かせ!――輸出拡大の好機を逃すな――/Muto Planning 代表 武藤 和芳 氏/「本気」「勇気」「根気」

2022年08月05日 (金曜日)

 円安進行で原材料や縫製品のコストが著しく上昇する一方、生地を中心にいま一度輸出の振興をという機運が高まっている。瀧定大阪で生地の輸出入に長年従事し、退社後は日本貿易振興機構(ジェトロ)や日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)の海外販路開拓事業などに携わってきたMuto Planning代表の武藤和芳氏に課題を聞いた。

  ――新型コロナウイルス禍で生地輸出も停滞しました。この間の流れを振り返ってください。

 大手は別として、産地の織布工場など中小零細規模事業者が新型コロナ禍前にコツコツ築いてきた実績やノウハウは元の状態にほぼ戻ってしまいました。非常に残念です。欧米などの海外市場は回復してきていますし、今回の円安は、なぜ実績やノウハウ、機運が途絶えてしまったのか、これまでの仕組みに問題があったのかなどを検証する良い機会かもしれません。

 私なりに分析すると、外因としては、新型コロナで海外市場が大混乱し、市場規模自体が大幅に縮小したこと、海外への出張が制限されたことによる販売活動のストップ、「プルミエール・ヴィジョン・パリ」や「ミラノ・ウニカ」といった海外見本市の休止がありました。内因として挙げられるのは、経済産業省繊維課の廃止、JETROによる欧米アパレル招致事業の中止などです。

  ――産地企業側が抱える問題は。

 10年近く頑張って実績も積んでいた中で、課題の抽出と反省の不足があると思います。現地ブランドとの人間関係の構築もさほど深まらず、売り買いだけの薄い関係だったのかもしれません。輸出に向けた人材の確保・育成、仕組み作りもあまり進まなかったし、国や県などの補助金に頼り切って真剣さが足りなかったとも言えます。海外市場で何が求められているかを敏感に察知するべきなのですが、それもおろそかになりがちですし、商品のマンネリ化も見られました。デジタル化への対応が遅れていることも否めません。

  ――ただ、産地の中小企業には資金力や人材の面で限界があります。

 その通りです。現在の混乱した状況では特に難しい。マーケティング、現地ブランドとの関係性構築、スタッフの育成、クレーム処理のノウハウの蓄積などには時間も必要です。

 良いものを作る力はあるが、これらは1社単独では難しい。となると必要なのは、輸出に力を入れている商社との協業ということになります。

 受け身やお任せのスタンスではなく、商社が持つ知識、経験、機動力を積極的に学び取ることが重要。商社のスタッフになった気持ちで共に行動し、商談現場にも必ず立ち合い、自分(自社)の能力を高めていくしか道はありません。

 輸出拡大を成し遂げるには、「本気」「勇気」「根気」という「3気」が必要不可欠。精神論になってしまいますが、この大前提を理解、実践することなしに輸出拡大は成りません。

(おわり)