特集 全国テキスタイル産地Ⅱ(1)/生地商社編

2022年07月29日 (金曜日)

 生地商社トップからは異口同音に、「供給責任と発注責任を果たしていきたい」という言葉が聞かれる。リスク分散や地産地消ニーズの高まりの中で、生地の海外生産も徐々に増えているが、軸はあくまで国内生産。発注責任を果たすための有効手段は海外市場の開拓と付加価値化。主要生地商社トップに、日本のモノ作りの魅力や課題、エールを聞いた。

〈宇仁繊維/継続発注切らさない/設備投資も余念なく/社長 宇仁 麻美子 氏〉

  ――8月で今期が終了します。

 6月の単月売上高が過去最高になるなど回復してきています。輸出が米国向けを中心に伸びており、国内でもようやく中小規模の受注がコンスタントに入るようになってきました。備蓄機能と、備蓄がなくてもすぐに作れる当社のモノ作りの体制が、小口・短納期を求めるアパレルに改めて評価されたのだとみています。

  ――貴社は商社でもあり、メーカーでもあります。

 自社、協力に限らず、工場は動かし続けないといけない。海外の大規模工場で簡単に作れるものではなく、ジャカードやラッセルレースなど手間のかかる高級品も必要です。ベーシックな生地と高級な生地、工場にとってはこの両方ともが必要なのだと思います。

 当社は産地や染工場への継続発注を切らしません。だからこそ時には無理も聞いてくれる。工場を止めてはいけないのです。

 設備投資も重要です。今期から完全子会社として設立したハクサンケミカル(石川県白山市)では8月に液流染色機を入れ替えます。古くて小さかったものを、最新の大型のものに変え、スピードアップと効率化を図ります。

〈サンウェル/感性と品質磨いて/生地の国産表示を/社長 今泉 治朗 氏〉

  ――上半期(2022年2~7月)の商況は。

 回復基調です。もっとも、新型コロナウイルス禍前までにはまだ戻っていません。備蓄の品種と数量を減らしたこともあり、急回復には至っていないというところです。ただ、元の市場や事業内容に戻るとも考えていません。

  ――コスト高も厳しさを増しています。

 当社は従来から、基本的に年2回生地価格を改定しています。3月と9月です。コスト高を受けて3月にも価格を引き上げていますが、期中でも上げざるをえないような情勢です。当然効率化などの自助努力にも必死で取り組みますが、原材料費や物流費の高騰はそんなレベルではありません。円安は輸出には追い風ですので、拡大していきたいですね。

  ――産地や染工場も同じように受注減とコスト高に苦しんでいます。メッセージを。

 日本の織り、編み、染色加工のスペースを埋めるのはわれわれコンバーターの使命だと認識しています。供給責任と発注責任を果たしていきたい。その上で、感性や品質を磨きつつ、SDGs(持続可能な開発目標)など需要に合わせたモノ作りが必要だと考えています。

 生地のメード・イン・ジャパン表示についてももっと議論を深めていきたいと思います。

〈コッカ/海外市場開拓が急務/発注責任果たすため/社長 岡田 洋幸 氏〉

  ――商況はいかがですか。

 主要販路である切り売り市場がかなり低迷しています。新型コロナウイルス禍ではガーゼなどの特需も生まれましたが、それももう終わり、今は新型コロナ禍前に輪をかけて悪い状況です。量販店の切り売り店舗や大手手芸チェーンに客が来ていないそうです。ライセンスのキャラクター物もヒット商品がなく苦しい。キャラクターに依存しない事業運営を目指してはいますが、まだまだです。

 アパレル向けでは生地備蓄をほとんどやめましたが、切り売り向けでも多くを備蓄することは難しくなっています。

 この流れの中で、当社から染工場への発注量も減っています。悪いスパイラルに陥っています。

  ――プリントなど染色加工のほとんどが国産です。

 日本のプリント技術が海外よりも優れていることは明らかです。価格面でもがんばってくれていると思っていますし、なんとか発注責任を果たしていきたいと考えています。

 そのための方法の一つが、海外市場の開拓です。伸びしろは海外。それによって産地や染工場への発注量が維持拡大できます。

 幸いに米国向けが好調です。4月には現地法人も設立しましたので、どんどん攻めていきたいですね。

〈双日ファッション/共に売れるもの創る/付加価値を高めて/社長 由本 宏二 氏〉

  ――第1四半期(2022年4月~6月)の商況は。

 4月に実施した価格改定の効果もあって売上高で言えば、国内向けは昨年同期並みです。アパレル向けはやや伸びましたが、切り売り向けの苦戦が続いています。輸出も、米国キルト関係の苦戦などにより落ち込みました。全体として新型コロナウイルス禍からの回復効果の発現は今後だとみています。

  ――7月にイタリア開催の「ミラノ・ウニカ」に初出展しました。

 まだ詳細は分析できていませんが、担当者からは当社の機能である小口から即納するというビジネスモデルを訴求し、好感触を得たと報告を受けています。この機能を広くアピールし、輸出拡大を狙っていきます。

  ――その可否も産地や染工場への安定発注に影響してきます。

 当社は基本的に仕入れ先への安定発注を心掛けていますし、そうしてきました。ただ、新型コロナ禍や昨今の厳しいコストアップの中で、取り組めるところとそうでないところで差が生じてきているのも確かです。一緒に売れるものを作っていこう、付加価値を高めていこう、という気概があるところにはおのずと発注量も増えます。

 当社は拡大対象分野にレディース向けを据えています。感度の高いモノ作りや独自の技術を持つところとタッグを組みたいですね。

〈柴屋/一緒に苦境乗り越える/将来は「花形産業」へ/社長 奥野 雅明 氏〉

  ――上半期(2022年2~7月)の業績はいかがですか。

 売上高は前年同期比約10%増と好調です。通期売上高は27億円以上になると見込んでいます。

  ――好調の要因は。

 小口をかき集めるという当社の手法がうまくいっているのだと思います。全体としてアパレル市況はやや戻ってきていますが、小口化や発注の期近・期中化は顕著。多品種を備蓄する当社のビジネスモデルがこの流れに合っているのだと思います。展示会や会員制交流サイト(SNS)発信などで新規顧客も順調に獲得できています。輸出は微増です。

  ――産地や染工場の協力あってこその業績拡大かとも思います。

 その通りです。顧客の拡大とともに、仕入れ先も広がっています。北陸での再生ナイロンの塩縮加工、広島のデニムメーカーとの開発、新潟での先染め織物開発、京都の染工場での液流染色やワッシャー加工、東海でのコール天、尾州でのウールなど新たな取り組みも進展しています。

  ――とはいえ、モノ作り企業は苦境に立っています。

 今が踏ん張りどころだと考えています。生き残ることができれば、将来は「花形産業」にさえなれるのではないでしょうか。国内のモノ作り機能は必ず脚光を浴びていきます。一緒に苦境を乗り越えていきたいですね。