2022年夏季総合特集(6)/新時代に向けたわが社の素材・取り組み/東洋紡せんい/大和紡績/日清紡テキスタイル/新内外綿/ダイワボウレーヨン/ブラザー工業
2022年07月26日 (火曜日)
〈5事業の収益力高める/筋肉質な事業体を目指す/東洋紡せんい〉
東洋紡は2022年度(23年3月期)から「2025中期経営計画」をスタートした。最終年度の25年度に連結売上高4500億円(21年度3757億円)、連結営業利益350億円(同284億円)を計画する。衣料繊維事業は21年度に数億円の営業赤字を強いられたが、今後は売り上げ拡大を追求せず、中身を変えることで、25年度には数億円の黒字浮上を計画する。
衣料繊維事業を担うのは、今年4月に東洋紡STCの繊維事業と東洋紡ユニプロダクツを統合し発足した東洋紡せんいだ。輸出織物とスクール、スポーツ、ユニフォーム、マテリアルの5事業それぞれで収益力を高め、筋肉質な事業体を目指す。
輸出織物の主力である中東民族衣装向けトーブ地では得意の頂点ゾーンをターゲットに引き続き強化を図る。スクールでは2社統合による総合力を生かす。
スポーツは生地販売の拡大と自社生地の強みを生かした縫製品に注力する。ユニフォームは強みであるポリエステル長繊維使いの織・編み物を活用した新商品を積極的に投入するとともに、素材から縫製品、物流までの総合サービス力の強みを生かす。
マテリアルは原糸やインナー素材、寝装生地の強化に加え、非衣料の開拓にも取り組む。その一つとして綿糸や綿製品の裁断くずをプラスチック強化材として利用する提案を始めた。生分解性樹脂との組み合わせや、廃棄繊維のアップサイクルなどにも取り組む。
〈ESG、SDGs重視/拡充するサステイナブル商材/大和紡績〉
大和紡績は、ESG(環境、社会、ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)への貢献を重視し、サステイナブル商材の拡充に取り組む。
同社のサステイナブル商材で注目が高まっているのが2層構造紡績糸「ツインレット」。芯に再生ポリエステル、鞘に米綿を配した。サステイナブルな科学的農法で栽培された米綿の印である「コットンUSA」マークも認定されている。サステイナビリティーと吸汗速乾性など機能が融合する。米綿使いの糸では「テキサス7」も根強い人気がある。
天然由来加工も充実させた。グレープフルーツ種子エキスによる抗菌防臭加工「シトラスガード」、シルク成分による保湿加工「アミノモイスト」は、いずれも非可食材料の有効活用につながる。
衣料繊維だけでなく合繊事業や産業資材事業でもラインアップが拡大する。バイオマス認証と森林認証(FSC)取得のレーヨンスパンレース「アピタスB」、生分解性バインダー繊維「ミラクルファイバーKK―PL」などがある。超軽量合繊帆布「エアフェザー」も労働作業現場の負担軽減などESGやSDGsにつながる商材だろう。
全社横断で環境負荷低減と商品開発に取り組むため、研究開発機能を播磨研究所(兵庫県播磨町)に集約した。
〈形態安定加工を進化/環境・健康・快適が軸/日清紡テキスタイル〉
日清紡テキスタイルは、環境・健康・快適を軸とした商品提案や事業運営を推進する。得意の形態安定加工に他の機能も付与することでさらなる進化を実現する。
シャツ市況が低迷する中、同社の超形態安定加工「アポロコット」は堅調な販売が続くなど社会構造の変化に対応した商品として定着しつつある。これを生かし、涼感機能や防汚機能を付与したタイプも開発するなど形態安定加工の進化が続く。
ビジネスシーンでのウエアリングがカジュアル化している流れを受け、カジュアルシャツにも形態安定加工を提案するなど需要の掘り起こしに努める。女性の社会進出も一段と進むことから、レディースのシャツ・ブラウスでも綿100%形態安定加工の市場開拓に取り組む。
次世代に向けた切り口として、特に重要になるのが環境。同社では無糊製織の実用化や無水染色の研究開発など環境負荷低減につながる製造プロセス革新を続けている。
使用済みの綿100%シャツを回収し、イオン溶液法で溶解・紡糸して再生セルロース繊維にアップサイクルする「シャツ再生プロジェクト」も進行中。2022年中には吉野川事業所(徳島県吉野川市)にテストプラントを立ち上げ、量産に向けた研究開発に取り組む。
〈紡績工場で生産性改革/フル生産の今を支える/新内外綿〉
新内外綿は紡績子会社のナイガイテキスタイル(岐阜県海津市)で2018年秋ごろから20年2月にかけて工場の大規模な生産性改革を行った。機械の配置を見直し、工場西側から綿花などの繊維原料が入り、東側から糸として出荷するレイアウトに変えた。
これにより人の動きがスムーズになり、不要な人や物の移動が少なくなり従業員への負荷が減った。安全性の向上や業務の改善の観点から工場内に監視カメラ16台を設置し、事務所のパソコンなど特定のデバイスで全てのモニターが見られるようにした。これにより管理者が遠隔地からも従業員の安全や効率的な業務を確認できる。
ナイガイテキスタイルは新型コロナウイルス禍で20年は生産量が激減したが、21年から需要が回復に向かい状況は一変、フル稼働状態が今も続く。今年10月末まで生産スペースが全て埋まる状況が続くとみられる。長期にわたる繁忙期を先般の生産性改革が支える。
ナイガイテキスタイルの紡機は現在、2万552錘。最盛期の1998年10月には2万8千錘あった。生産量全体の2割程度が定番のグレー杢糸。30番手のカジュアルな衣料品に使われる糸を得意とする。フル稼働が続いているため、人員の補強を計画する。
〈原料にこだわり差別化/再生セルロースの可能性追求/ダイワボウレーヨン〉
ダイワボウレーヨンは、環境配慮素材としての強みを持つ再生セルロース繊維の可能性を追求し、原料からこだわった差別化のモノ作りを強化する。
同社はこれまでレーヨンへの練り込み技術によってさまざまな機能レーヨンを実現してきた。近年は環境配慮への要請が一段と強まる中、さまざまなセルロース素材を溶解・紡糸して繊維として利用できる再生セルロース繊維は、リサイクル技術の側面からも注目が高まった。
同社は既に廃棄された綿製品を原料とするリサイクルレーヨン「リコビス」を実用化している。こうした実績を生かし、今後は未利用のセルロース原料を活用した再生セルロース繊維への取り組みを強化する。
そのためにはパルプなど原料が重要な役割を担うことから、パルプメーカーとの連携を強める。廃棄された綿製品を原料として再利用したパルプ「サーキュロース」を製造するスウェーデンのリニューセル社と提携し、リコビスの量産が可能になった。さらに日本を含む他のパルプメーカーとの取り組みを推進する。
さまざまなセルロース原料を繊維化するために、製造プロセスの改良にも取り組む。機能だけでなく、サステイナビリティーの面でも再生セルロース繊維の可能性を広げる。
〈コロナ後のニーズを見据え/ミシンで自動化や省力化提案/ブラザー工業〉
ブラザー工業は工業用ミシンで自動化や省力化などの提案を進める。新型コロナウイルス禍を経て生産現場での自動化ニーズは高まっている。同社のミシンはネットワーク化しており、工場全体の見える化や省人化、生産性向上に貢献することができる。
新型コロナの感染拡大によって、海外ではロックダウン(都市封鎖)の措置が取られ、縫製工場の稼働が停止するなどサプライチェーンは大きく混乱。縫製工場での省人化や自動化への要望はこれまで以上に高まっており、同社は主力ミシンである「ネクシオ」シリーズの拡販を進めることで、省人化などのニーズに応える。
ネクシオは手間のかかる生産ラインのデータ収集作業を自動化・デジタル化できる。それによって、リアルタイムでの進捗(しんちょく)・納期管理や分析が可能となり、生産性向上にもつながる。現在はアジアを中心にIoT対応ミシンとして顧客からは高い評価を得ており販売も堅調に推移する。
用途などによって複数の機種をそろえている。近年は大型縫製エリアを搭載しながらも、省スペース性を実現する独自の門型構造を採用した「BAS」シリーズの提案を強化している。これまでの衣料向けだけでなく、エアバッグなどの自動車向けや靴向けなどの厚物にも対応しており用途開拓を図る。