特集 商社OEM 2022/サプライチェーン再構築が急務/独自性で再編時代を生き抜く/蝶理/クラボウインターナショナル/豊島

2022年06月28日 (火曜日)

 アパレル商社のOEM/ODM事業は重大な転換期に直面している。2021年はベトナムでのロックダウン(都市封鎖)などでサプライチェーンが混乱を来し、影響を受けた各商社は、その再整備に追われた。原材料費や物流費の高騰も利益を圧迫し、事業運営は厳しさを増すばかり。生き残りのためのM&A(企業による合併・買収)に踏み切った事例もあり、各商社は繊維事業と独自に向き合う必要に迫られている。

 MNインターファッションは1月、日鉄物産の繊維事業と三井物産アイ・ファッションの統合により誕生した。それぞれが持っていたサプライチェーン全体での事業リソース(資源・資産)を活用し、グローバル市場向けの事業拡大を進める。

 旧2社とも、いち早くサステイナビリティー分野での取り組みに力を入れ、エシカル素材「エス」や紙糸で作る「ワクロス」など独自ブランドも豊富にそろう。原料から扱う強みを生かし、新しい商材を投入していく。

 蝶理は21年6月、スミテックス・インターナショナルを子会社化した。同社は22年1月にSTXと名称を変更し、新たなスタートを切った。

 蝶理が合繊を得意とするのに対し、STXは綿の取り扱いで高シェアを握る。こうした両社の特徴を組み合わせて生まれるシナジー効果に大きな期待を寄せる。その可能性を繊維業界に向けて広く発信するため、21年10月と22年4月に開かれた「国際サステナブルファッションEXPO」に合同で出展した。

 STXがベトナムで縫製工場を運営している強みも活用する。蝶理が築き上げた生産背景に加え、STXのベトナム工場も提案の材料にできる効果は大きいと言う。

 豊島は、機能素材の提案を強化する方針を打ち出す。持続可能なライフスタイルの実現に向けた企業ステートメント「MY WILL」(マイウィル)に、新たなカテゴリー「ファンクショナル・マテリアルズ」を設けた。

 マイウィルには、地球環境に配慮した持続可能な素材の開発を推進する「サステイナブル」、スマートウエア商品や3次元(3D)CGを活用したサービスを提供する「テクノロジー」という二つの枠組みを設け、それぞれの事業を展開してきた。ファンクショナル・マテリアルズを加えることで、素材提案の幅を広げる。

 丸紅の繊維事業は、OEM/ODMでサプライチェーンの再構築を進める。商品を適時・適量に供給する体制を確立するため、デジタル技術の導入を促進する。そのため、国内アパレルのOEM/ODMを担う事業会社の丸紅ファッションリンクに、DXを推進する専門の組織を設けた。

 海外での生産リスクの分散化も喫緊の課題とし、世界中に張り巡らせた情報網を駆使して、非常時に備えた供給体制の構築に取り組んでいる。

〈独自素材のグローバル提案推進/STXとのシナジー効果発揮へ/蝶理〉

 蝶理は、2023年3月期を最終年度とする中期経営計画の繊維事業のテーマに「グローバル・ワンストップ・オペレーション・バイ・チョウリ」を掲げ、繊維の総合力の強化に取り組んでいる。

 その指針となるのが「ブルーチェーン」構想だ。ブルーチェーンとは、サプライチェーン全体でサステイナビリティー最適化を目指すためのコンセプトで、繊維産業の川上から川下に至る各段階で行うサステイナビリティーの取り組みを柔軟に掛け合わせていく。

 この方針に基づき、再生ポリエステル糸「エコブルー」や高伸縮機能糸「テックスブリッド」など蝶理独自の素材を〝戦略商材〟に位置付け、グローバル提案とマーケティング力強化を推進する。

 グローバルサプライチェーンマネジメントの拡充も進める。合成繊維を中心とした素材の生産背景を築いてきたが、さらに新しい〝作り場〟を求め、協力工場の開拓に力を注ぐ。生産拠点の増加により、海外生産につきまとうリスクを分散させる狙いもある。

 ただし、工場の選定はESG(環境・社会・ガバナンス)を重視して行うことを徹底する。信用度が高い工場と強固なパートナーシップを結び、安定した供給体制の構築につなげる。

 総合力の強化策と両輪を成すのが、STXとのシナジー効果発揮だ。

 約1年前に蝶理グループに加わったSTXは、早くからベトナムに進出し、高水準の技術を持つ縫製工場「SGS」を運営してきた。蝶理は既にSGSの生産能力を活用しており、アパレル、ユニフォーム、スポーツ向けの発注を増やしている。蝶理は安定した供給を受けることができ、STXも蝶理からの発注でSGSの閑散期を埋められるという双方のメリットも生まれた。

 蝶理は合繊、STXは綿とそれぞれで高いシェアを誇る2社の協業により、素材から製品までの企画・提案の幅も広がっている。

〈新たな調達体制構築/環境配慮商材が充実/クラボウインターナショナル〉

 クラボウインターナショナルは今期(2023年3月期)の事業方針として、新たな調達構造の構築と、環境配慮商材を軸とした新商品開発、新規販路開拓に取り組む。

 同社は対日縫製品OEM/ODM事業で、日本、中国、ベトナム、インドネシア、バングラデシュなどを生産地としている。国内外に配置する自社、協力工場で「調達構造が大きく再編されていく可能性が高い」との問題意識を持つ。

 その対応策として新しい調達構造の構築が必要だとし、リスク分散と安定生産、効率化を観点に、繁閑差の是正、協力工場との関係強化と選別、生地や資材の仕入れ先の見直し、顧客の選別などに取り組む。小口化や短納期化が進んでいることから、ワークウエアとカジュアルウエアの両方を取り扱う強みを生かして閑散期対策や効率生産につなげるなどの策を講じていく考えだ。

 円安や物流費の高騰などコスト高への対処も課題になる。価格改定を逐次進めるほか、提案商品の付加価値化を推進する。その切り口の一つにSDGs(持続可能な開発目標)を挙げつつ、環境配慮商材ブランドの「エコロジック」や各種自社ブランドの拡販をテーマとする。

 エコロジックは「サステイナブルでエシカルな社会の実現をサポートする」ことをコンセプトに立ち上げた素材ブランド。昨年4月の立ち上げ時には「リサイクル」「オーガニック」、吸湿発熱素材「ルナセル」という三つのカテゴリーで展開を始めたが、「より守備範囲を広げて対応力を高める」として今年2月に「リサイクル」「オーガニック」「生分解性」「森林保護」「動物愛護」「環境配慮」という六つのカテゴリーに再編した。

 ルナセルは生分解性の高さを今後のアピールポイントにする。ブルキナファソ産オーガニックコットンを使用した「ロイヤルデニム」も提案を強め、拡販につなげる。

〈顧客のソリューション解決/DX活用しOSM提案図る/豊島〉

 豊島はデジタル技術で企業を変革するDXの取り組みを生かすことで、顧客の課題解決型の“OSM(オリジナルソリューションマニュファクチャリング)”提案を図っている。これまでのOEM/ODMから踏み込み、販売や生産などの課題に対し顧客と共同して解決に当たることを目指す。

 同社のDXの取り組みは「生産管理」と「価値創造」の二つに分けられる。生産管理のDXは原料から製品までの多様なサプライチェーンの情報を自社開発のプラットフォーム「トヨシマデータジャム」に集約・連携することで可視化。それによって業務の効率化や無駄の削減を図る。

 価値創造のDXは革新的なベンチャー企業への投資を通じて3DCG技術などを活用することで、商品企画や開発のオンライン化を推進する。デザインのCG化やパターン、生地、素材のデータベース化を進め、販売データと連携することで新しい売り方などを構築。消費者にネットで直販するD2C支援なども進めている。

 同社はこれらのDXの技術を活用することで、OSM提案を推し進める。例えば、どのような商品がどのような人にどれだけ売れたかなどのデータを基に、顧客と共同しながら商品の企画や開発、売り方などを考える。実際に顧客と会議を持つ仕組みもできつつあり成果も表れ始めている。

 現状では、OSM提案は価値創造のDXで進めているが、顧客の課題解決を進める中、本生産で生じる課題点などは生産管理のDXで補う。溝口量久執行役員営業企画室室長は「これまでのように商品を納入して終わりではなく、顧客の課題を聞いて、それを商品提案で返すことが当社の役割になる。課題を一緒に解決していきたい」と話す。

 同社は持続可能なライフスタイルの実現に向けた企業ステートメント「マイウィル」に基づき先行してDX化に取り組んできた。5月には経済産業省が定める「DX認定事業者」の認定を取得している。