環境特集(3)/東レグループ/サステナビリティ・ビジョンを推進

2022年06月27日 (月曜日)

〈東レ/50年にカーボンニュートラル/GR事業を30年度で13年度比4倍に〉

 東レは「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」に沿った取り組みに力を入れている。国内ではGHG(温室効果ガス)排出量を30年度で産業界が目安とする38%以上削減し、グループ全体で50年度にカーボンニュートラル達成を目指す。また、同ビジョンを通じ、グリーンイノベーション(GR)事業の売上高を2013年度の4631億円から30年度には4倍に、ライフイノベーション(LI)事業の売上高を13年度の1196億円から30年度には6倍に引き上げるとの目標を掲げている。これらの目標達成を目指し、環境配慮型のさまざまな取り組みが強化されている。

 東レは18年7月に同ビジョンを発表。東レグループが取り組むべき課題として、①気候変動対策を加速させる②持続可能な循環型の資源利用と生産③安全な水・空気を届ける④医療の充実と公衆衛生の普及・促進に貢献する――を掲げる。

 GR事業、LI事業で拡大戦略に取り組むとともに、13年度で0・4億トンだったCO2削減貢献量を30年度には8倍に、水処理貢献量2723万トン(日産)を30年度には3倍に引き上げる。

 生産活動によるGHG排出量の売上高・売上収益原単位を13年度の337トン(1億円当たり)から30年度には30%削減。生産活動による用水使用量の売上高・売上収益原単位を1万5200トン(1億円当たり)から30%削減する。

 50年でカーボンニュートラルを実現するために、GR事業では「&+」のようなペット再生ポリエステル、風力発電翼用炭素繊維、水素タンク用炭素繊維、リチウムイオン電池用セパレータフィルム、CO2分離膜などの拡販・市場浸透に重点的に取り組む。

 例えば、航空機の場合、従来型航空機がライフサイクル全体で39万5千トンのCO2を発生させていたのを、CFRP(炭素繊維複合時量)による航空機に替えれば36万8千トンに削減できるという。

 海水淡水化においては、従来の蒸発法がライフサイクル全体で33万6千トンのCO2を発生させていたのを、RO膜法に切り替えることで5万3千トンに削減できる。

 繊維事業では、植物由来原料繊維とリサイクル繊維に注力している。

 今年1月には、100%植物由来の原料から生産するバイオナイロン「エコディア」N510を上市。従来から販売している、原料の一部を植物由来にしたナイロン610や部分バイオポリエステル「エコディア」PETも含めてラインアップの拡充とグローバルな販促活動に力を入れている。

 今年は、東レが協賛する「東京マラソン2021」で大会とタイアップし環境配慮型の取り組みを実施。ランナーに提供した給水用のペットボトルを「&+」にリサイクルし、24年の大会ボランティア用ウエアとして生まれ変わらせるプロジェクトをスタートさせた。

 また、来るべき水素社会の実現に向け、水電解向け電解質膜の開発にも注力している。21年9月には、シーメンス・エナジー社とのパートナーシップに合意し、両社の水素関連技術・事業およびグローバルネットワークを生かして再生エネ由来グリーン水素の導入を推進している。

 22年2月に山梨県などと国内初のP2G事業会社「やまなしハイドロジェンカンパニー」を設立し実証の成果を事業化した。

 独自の炭化水素系電解質膜など主要材料の研究・技術開発を通じてCO2フリーの水素エネルギー社会の構築に貢献する。

〈東レ スポーツ・衣料資材事業部長 大塚 潤 氏/「エコディア」N510を前面に/アウトドア向けが先行〉

  ――バイオ原料100%で開発したナイロン「エコディア」N510の販売に力を入れています。

 私がスポーツ・衣料資材事業部に来たのが2年半前で当時、「エコディア」N510の開発が進められていましたから、少なくとも完成までに3年はかかっていると思います。ナイロンのバイオ原料は過去から存在し、バイオ由来ナイロンを作りやすい原料と作りにくい原料があります。当社は海外のパートナー企業から原料を調達しています。トウモロコシとヒマから作るバイオ原料です。

  ――ナイロン510の特徴は。

 基本性能はほぼナイロン6と同じです。ナイロン6に比べ優れているのは寸法安定性ですが、吸放湿性能がやや低いため、インナーなどには向いていない素材です。あえて欠点を挙げるなら、価格が高いということでしょうか。これは今後のコストダウンと大量生産で解消できるとみています。

 当社は愛知工場と石川工場でナイロン長繊維を生産しています。開発品を主体とする生産体系が特徴の愛知工場で「エコディア」N510を生産しています。バイオ素材のありがたいところは既存の設備を活用できることです。11㌥¥文字(G3-1005)(T)や22Tの細繊度糸による軽量極薄織物をアウトドアを中心に企画提案しています。

  ――1月14日から16日まで幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催された「トウキョウアウトドアショー2022」に出展しました。

 多くの方が興味を持って見てくれました。プレコンシューマーによる再生ナイロンはいろいろなアイテムに使われていますが、100%バイオ原料によるナイロンというのは今のところ希少な存在です。その点で注目を集めているのだと思います。国内では、アウトドア系のブランドに向けた販売が先行する見通しです。

  ――22年度のスポーツ市況をどうみていますか。

 欧米のアウトドアブランド向けの輸出は引き続き好調を維持しています。それと、中国のスポーツ市場がかなりの盛り上がりを見せており、22年度は対中輸出を大きく伸ばそうと考えています。

 国内では、「&+」がだいぶ浸透してきました。異形糸やマイクロファイバーなどもラインアップしているため、スポーツでの採用が着実に増えてきています。

〈「エコディア」が注目集める/アウトドア分野から強い引き合い〉

 東レは植物由来の原料で開発した「エコディア」シリーズによる商品開発、企画提案に力を入れている。2022年度はスポーツやアウトドア向けを中心にシリーズ全体で大幅な増販を見込んでいる。

 最初に開発したのがポリエステルの「エコディア」PET。植物由来のエチレングリコールと石油由来のテレフタル酸を原料としており、全体の約30%をバイオ原料が占める。

 植物由来の再生資源を粗原料とする合成繊維として当時、世界で初めてタイプⅠ環境ラベル(エコマーク)の対象商品に認定された。

 既にバイオ原料100%によるポリエステルを開発しており、「20年代のどこかで量産をスタートさせたい」との意欲を示す。

 その後、ナイロンでも相次いでバイオタイプをラインアップし戦列を増強している。

 「エコディア」N610は原料の約60%にトウゴマ由来のセバシン酸を使用。続いて、トウゴマ由来のセバシン酸とトウモロコシ由来のペンタメチレジアミンを原料とする「エコディア」N510を事業化した。

 マテリアルリサイクルで生産する再生ナイロンは既に出回っているが、バイオナイロンというのは珍しく、環境先進国の欧州や海外アウトドアブランドから特に注目を集めているという。

 「エコディア」N510は100%バイオ素材でありながら従来のナイロン6と同等の強度、耐熱性があり、一般の繊維素材と同様に糸を細くすることで軽量化を図れるほか異形断面糸にすることで機能性を持たせることができる。

 東レは23秋冬からスポーツ・アウトドア向けを中心に薄地織物、カットソー素材を投入。24秋冬からファイバーでの販売にも乗り出し、植物由来繊維の拡販を目指す。