春季総合Ⅳ(6)/トップインタビュー/双日ファッション/必要とされる会社へ、機能追求/社長 由本 宏二 氏/輸出拡大に本腰入れる

2022年04月26日 (火曜日)

 双日ファッション(大阪市中央区)の2022年3月期は、前期比減収減益で、指標として重視する出荷数量も減少した。アパレル向けは回復したものの、コロナ特需の消滅を補填するには至らなかった。ただ、中国市場向けや米国向けが伸びるなど好材料もある。市場変化に対応しつつ、追求する生地の備蓄機能は国内でも海外でも不変。今期は輸出拡大を狙う。

  ――ウイズコロナ時代の成長の要件とは何でしょうか。

 これは新型コロナウイルスの有無に関わらず肝に銘じていることですが、必要な時に必要なだけ必要なものを必要なところに供給するという当社の使命を磨き続けることです。世の中に必要とされない企業は生き残れません。自社の存在意義や存在価値はどこにあるのかを常に考え、行動することが成長への要件です。当社で言えば、適時、適品を適価、適量でニーズのあるところに供給していく。この機能を強化するのみです。

  ――22年3月期を振り返ってください。

 21年3月期は、新型コロナ禍で生まれたマスク地などの特需を取り込み、減収ながらも出荷数量は維持できました。緊急事態宣言などで店頭が閉まり、アパレル向けが苦戦したことは言うまでもありません。

 22年3月期の第1四半期は特需がほぼなくなった半面、アパレル向けが回復し、売り上げ、数量ともに伸びました。しかし第2四半期以降は度重なる緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などを背景に再び市況が悪化。結果、通期では減収減益となりました。アパレル向けは前期比で伸ばせたのですが、特需の消滅を補完するまでには至りませんでした。残念ながら出荷数量も減少しました。

  ――中国市場向けはいかがでしたか。

 業績面で唯一明るかったのが、上海法人です。現在は都市封鎖によって先が見えない状況ですが、昨年は市場自体に元気があったこと、当社が追求する小口、短納期機能が評価されたことで内販が大きく伸びました。以前よりも中国市場向けを意識した商品企画に力を入れていることも奏功しています。内販比率は7~8割まで上がりました。販路としてはEC系アパレルが好調でした。EC系は売れたらすぐに少量を追加する世界。その中で当社の機能が認知されてきたということだとみています。

  ――輸出は。

 中国向けも米国向けも伸び、新型コロナ禍前の水準まで戻すことができました。

  ――今期の重点課題を。

 まずは輸出拡大です。前期からのいい流れを継続させたい。その一環として、7月にイタリアで開かれる服地見本市「ミラノ・ウニカ」(MU)のジャパンコーナーへのエントリーを初めて行いました。新型コロナ禍やウクライナ情勢が気掛かりではありますが、開催されるとなれば、ここを一つのきっかけとし、欧州向けの拡大に臨みます。

 以前、パリの服地見本市「テックス・ワールド」に数回出展したことがあります。しかしなかなか実績には結び付かなかった。エージェントも交えた個別営業に切り替えて提案を続けていましたが、MUの評判を聞き、出てみる価値があると判断しました。

 中国向け、米国向け、ASEAN向けなども引き続き強化します。日本のマーケットは成長の段階にはありません。日本ではシェア拡大と各商品カテゴリーの販路拡大に力を注ぎつつ、成長市場である海外のさらなる拡大を目指します。

 ただ、海外ブランドから大口の別注をもらってくるというようなビジネスモデルは考えていません。別注を全くしないわけではありませんが、こだわるのはあくまで当社の機能。オリジナルの商品を小口、短納期で供給するという機能を海外でも発信して理解を深めてもらい、便利に使ってもらいたい。発信のためにはデジタル活用も必須だと考えています。

  ――人材も重要になります。

 語学はもちろんですが、社員には「目線を一つ上げよう」とハッパを掛けています。目線が上がると見える景色が変わってくる。変化を見逃してはいけない。そこにビジネスチャンスがあるわけですからね。

〈春を感じる時/若かりし日の初心思い出す〉

 日本で春と言えば、入園、入学、入社といった門出の季節。由本さんはこの時期の雰囲気が自身の気持ちを「フレッシュにさせる」と話す。暖かい気候、明るい陽射しの中で、ダボダボの制服を着る新入生、スーツをまだ着こなせていない新入社員を見ると、夢に向かって一生懸命進もうとしていた若かりし日の自分を思い出す。今はトップとして社員に、変化に敏感であれと説いている。春を機に初心を思い出し、自身も気を引き締める。

〈略歴〉

 ゆもと・こうじ 旧ニチメン時代含め双日で一貫して繊維事業を担当。中国、インドネシア駐在、繊維事業部テキスタイル課長などを経て、2010年4月に双日ファッションに出向、同年7月社長。専務、副社長を経て17年7月から現職。