春季総合Ⅳ(4)/トップインタビュー/スタイレム瀧定大阪/ワクワク感取り戻す/社長 瀧 隆太 氏/トレーサビリティーを重視

2022年04月26日 (火曜日)

 スタイレム瀧定大阪の2021年1月期単体決算は、各損益が赤字に転落するなど厳しいものだった。新型コロナウイルス禍による衣料品不振が大きかったが、構造改革を断行した結果でもある。22年1月期はこの構造改革が功を奏し、黒字転換に成功した。中国市場向け生地販売も伸びており、今後も海外事業拡大を狙う。瀧隆太社長に戦略を聞いた。

  ――ウイズコロナ時代で成長するための要件とは何でしょうか。

 どこかのタイミングでコロナのことを気にしなくなる時が来るとは思いますが、予測不可能なことがいつ起きてもおかしくないということを常に想定して事業に当たるべきでしょう。

 当社事業で言えば、独自の強みを磨き続けることが大事です。独自の強みとは、ファッションの楽しさ、ワクワク感を提供するということです。新型コロナなどによって失われたファッションに対する世間の期待値を取り戻したいと考えています。企画提案力、市場を先読みする力が当社にはあると信じています。それを国内に限らず世界に発信していきたいですね。

  ――22年1月期を振り返ってください。

 グループ連結業績は、売上高が691億円で、前期比9・2%増えました。売上総利益は123億円で21・6%増、営業利益は25億300万円で約30倍に増えました。

 品目別売上高は、原料が18億円で8・2%増、生地が417億円で11・4%増、衣料製品が281億円で10・9%増、ライフスタイル製品が36億300万円で18・4%増でした。

 主要全部門で増収となりましたが、一昨年比では約20%減と、まだ新型コロナ禍前には戻っていません。

 増収に最も貢献したのは、17%増だった海外市場向け生地販売です。中でも中国市場向けは30%増と大きく伸びました。国内向け生地販売は、想定していたよりもリベンジ消費が盛り上がらず、微増にとどまりました。

 単体決算は、売上高が624億円で7・5%増、営業利益が12億5200万円で、前期の4億6600万円の赤字から黒字転換しました。経常利益も20億6100万円で、前期の5億5900万円の赤字から黒字転換し、純利益も20億7800万円で、前期の27億400万円の赤字から黒字転換しました。

  ――コストアップが深刻です。

 原材料、原燃料、物流費に加えて円安進行が激しい。コストアップ要因がひしめいているという感じです。いずれも長期化する可能性があり、苦しい情勢が続きそうです。価格転嫁も進めていきますが、自社で吸収できるものはする。それが備蓄問屋の強みでもあります。

 世界はこの30年ほど、グローバリゼーションという名の下にボーダレス化を進めてきました。もしかするとこの流れに大きく修正が入るかもしれません。さまざまな方向性が考えられますが、グローバリゼーション一本やりとは違った見方が必要だと考えています。例えば中国市場の伸びが一気に鈍化することもあるかもしれません。多様化する世界市場への対応と、リスク分散の観点が必要になってきます。とはいえ、当社の成長戦略が、国内に軸足を置きながらも海外事業にあることは変わりません。

 その一環として、前期中にインドネシアの駐在員事務所を法人化し、米国にも法人を立ち上げました。イタリア法人の機能も、日本発欧州向け拡大の拠点に変化させていきます。中国だけでなく、欧米やその他の国・地域も拡大させていきます。

  ――デジタル技術の活用とサステイナビリティーも重視されています。

 いずれも前期中にかなり進展しました。5千マークある備蓄生地をデジタルデータ化し、3Dモデリングシステムに落とし込む作業を進めました。5千マークの生地のうち、約千マークは何らかのサステイナブル要素を含んでいます。

 そして、5千マークの生地の全てでトレーサビリティーを確保しています。どんなに優れた商品でもトレーサビリティーが確保できていないようでは売れない時代ですからね。

〈春を感じる時/雨の匂いにふと……〉

 スタイレム瀧定大阪の決算は1月末。そこから決算書の作成という大仕事が始まる。4月入社の新卒社員との入社前面接が立て込み、入社式の準備、決算会見の準備を進める時期でもある。そんな多忙なタイミングと重なって、「そういえば花見などもう何年も行っていないな」と振り返る瀧さん。したがって桜で春を感じるという定番の回答は返ってこない。返ってきたのは、匂い。特に、この時期に雨が降った際の匂いにふと春を感じるそうだ。

〈略歴〉

 たき・りゅうた 1999年ソニー入社。2007年瀧定大阪入社。08年4月から瀧定大阪社長。18年4月から兼スタイレム会長。瀧定大阪とスタイレムの吸収合併・社名変更に伴い21年2月からスタイレム瀧定大阪の社長。