春季総合特集Ⅲ(10)/トップインタビュー/豊島/繊維にとどまらず生活全般へ/社長 豊島 半七 氏/ライフスタイル掲げ業容拡大

2022年04月25日 (月曜日)

 豊島はウイズコロナ時代の前からライフスタイル商社を掲げ、繊維にとどまらず幅広い業種や業態へ向けたビジネスを加速している。新型コロナウイルス禍による消費者の変化のほか、人口減少や多様化も同時に進んでおり、時代に合わせた柔軟な対応で今後の成長につなげる。その一環として、デジタル技術でビジネスを変革するDX戦略を重視しており、豊島半七社長は「これまで以上に提案を進めていきたい」と語る。さらに、サステイナビリティーを意識した取り組みを継続することで社会貢献も果たす。

  ――ウイズコロナ時代の中で成長するための要件は何だと思いますか。

 当社の場合ですと、新型コロナの感染拡大前から取り組んでいることですが、ライフスタイル商社を掲げさまざまな事業を進めてきましたので、今後もこの路線を継続し、さらに加速していきます。新型コロナ禍を経て消費者の生活様式は大きく変化しました。衣料品店などの売り場面積も縮小しているほか、少子高齢化による人口減少や多様化の流れもあります。そうしたことを踏まえて、繊維だけに捉われず人々の生活全般に向けた商材や提案、取り組みを推し進めることで、ライフスタイル商社へと変化を遂げていきます。それが、この時代で成長するための要件だと考えています。

  ――ロシアによるウクライナへの軍事侵攻などのビジネスへの影響はありますか。

 直接的な影響はないと思われますが、さまざまなコストが上昇する要因となるので、当社への影響としてもやはりプラスに働くことはありません。これまでの原材料やエネルギー費をはじめ、物流費などあらゆる面でのコスト高が進んでいますし、ここ最近、急激に進む円安の影響も大きいものがあります。当社は輸入の比率が高いため、これからは輸出の強化も進めたいところです。米国や欧州の景気は比較的良いので攻勢をかけていきたいです。いずれにしても、こうした不透明な状況の中では、一つ一つの商売をきちんと見直したり、お客さまとの話し込みをしたりして、丁寧な仕事をしていくことが重要になるでしょう。

  ――今期(2022年6月期)の第3四半期までの商況はいかがですか。

 繊維製品部門はオミクロン株の拡大による緊急事態宣言の発令で人の流れが滞ったことの影響を受けました。また、引き付け型の発注が多く、先がなかなか読みにくいこともあり厳しい状況でした。繊維素材部門は原材料の高騰が響きました。特に綿花相場は過去に見ないような上昇の仕方をしていますので、大変厳しい商況だったと言えます。

 一方でECや生活関連などで新規先の開拓を進めることができました。CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を通じて異業種との接点が生まれた点が寄与しました。先ほども話した通り、ライフスタイル商社を掲げる中で業種業態に関わらず事業を進めてきましたので、今後も力を入れていきます。

 以前から課題だった海外販売は中国向けでリピートが増えてきており、徐々に成果も見られ始めています。日本国内の市場と比べると海外は景気が回復していますので、チャンスと捉えさらに拡大していきます。生地や製品はもちろん、国内外で連携を図りつつビジネスを展開していきます。

 通期の業績としては、売上高は前期の横ばいを見通していますが、利益は苦戦を余儀なくされています。ただ、今期はまだ3カ月ありますので、来期での成果も見据えながら今の仕事に必死に取り組んでいくことが重要です。

  ――CVCによる取り組みはいかがですか。

 当社の弱い部分が補強できたり、新しい分野への進出の足掛かりにできたりしますので、CVCを通じた出資は重要視しています。これまでできなかった業界の話もできるようになり、東京で当社が開催する展示会では繊維関連以外の企業の関係者も来場するようになっています。

  ――合繊素材の開発にも力を入れていますが、進ちょくを含めて今後の展開を教えてください。

 当社は綿を中心とした天然繊維を主力としています。サステイナブルなトルコ産のオーガニック綿「トゥルーコットン」などを展開していますが、それだけでは今後の成長は見込めません。そのため合繊にも手を伸ばし始めていますが、ビジネスとしてはまだこれからです。既にあらゆる合繊素材がある中で、機能を複合させるなどの差別化を図っていくことが重要になるでしょう。アイデアや知恵を出し合って、糸や製品を含め素材の開発を進めていきます。

  ――4月下旬から3Dサンプル提供サービスを始めるなどDXの提案も加速しています。

 アパレルの生産や企画で迅速化や効率化を図れる点やデータ解析ができる点など、さまざまなメリットがあることを顧客に訴求していきます。新しいプラットフォームを作ることで、そこに新しいビジネスチャンスが生まれるかもしれません。DXを通じていろいろな企業とコラボレーションも進むでしょう。DXの推進は社内の合理化も目的としていますので、社外向けと社内向けの両輪で進めていきます。

  ――サステイナビリティーの重要度が高まっています。

 当社はサステイナブルに加えてトレーサブルの発信も強めてきました。例えばトゥルーコットンは綿花の生産農場から紡績までの工程を一元管理することで厳格なトレーサビリティーを実現しています。そうした点が評価されるようになり採用実績もできています。しかし、価格面が付いて回ることが多いのでそこは課題ですね。ただ、若い世代を中心にサステイナビリティーは確実に意識するようにはなっていますので、今後も継続していきます。

〈春を感じる時/青モミジの木漏れ日〉

 「この季節のモミジを見ると春を実感する」と話す豊島さん。紅葉の季節に赤く染まるモミジよりも、今の時期の青々と輝く新緑のモミジが好みだという。「太陽の光を浴びたモミジの葉から差し込む木漏れ日がとても奇麗」と続ける。奥さんと近所を散歩がてら見に行ったりもする。思わず写真に収めてしまうこともある。「桜も枝垂れ桜や河津桜など色の濃い方が好き」と語る。桜は4月上旬までが見頃だが、新緑のモミジは夏ごろまでは見られる。しばらくは満喫できそうだ。

〈略歴〉

とよしま・はんしち 1985年豊島入社、90年取締役。常務、専務を経て、2002年から現職。