春季総合特集Ⅱ(8)/トップインタビュー/大和紡績/実態に合わせたサプライチェーンを/社長 有地 邦彦 氏/研究開発のスピードを上げる

2022年04月22日 (金曜日)

 新型コロナウイルス禍を経て、市場と消費の構造、消費者のライフスタイルが大きく変化した。大和紡績の有地邦彦社長は「実態に合わせたサプライチェーンを作る必要がある」と指摘する。ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)へのコミットメントも問われる中、商品だけでなく生産工程の改革も欠かせない。同社も研究開発のスピードを一段と上げ、独自性のある原料や加工技術の活用で、新たな市場環境への対応に取り組む。

  ――世界的にウイズコロナによる経済正常化の動きが加速しています。その中で日本の繊維産業が成長するために何が必要でしょうか。

 ウイズコロナとなっても、新型コロナ禍前の状態に市場や消費構造は戻らないでしょう。消費者のライフスタイルも変化しています。例えば衣料品の販売が店頭からインターネット通販などECへと広がるなどです。ESG重視の観点から、無駄を極力排したモノ作りや販売が求められるようになり、B2Cを志向する流れが強まりました。こうした市場や消費の構造変化の実態に合わせたサプライチェーンを作る必要があります。特に無駄なものを作らないことが一段と求められるようになっています。そのためにはQR(クイック・レスポンス)対応が従来以上に重要になります。市場のニーズは多様化していますから、ターゲットを細かく設定し、効率的でクイックな生産と供給が求められます。そのためにITの活用などで生産体制も改革する必要があるでしょう。

 ESGやSDGsが重視される中で、特に環境配慮への取り組みが一段と問われるようになりました。環境配慮型商品の開発や販売だけでなく、生産工程での環境負荷低減の取り組みも求められます。そのためには社内での事業運営のやり方を変えてでも対応する必要がありますし、社内外との協業も重要になるでしょう。

  ――2021年度(22年3月期)を振り返ると。

 上半期は、新型コロナ禍が続く中で、なんとかしのいでいたのですが、下半期に入ると状況が一段と厳しくなりました。原燃料価格が想定以上に高騰し、利益面を圧迫しました。価格転嫁も進めていますが、どうしてもタイミングにズレが生じています。このため売上高はそれほど悪くないのですが、利益面は防戦一方でした。ただ、そうした中でもレーヨン部門のように早くから差別化品の開発や用途開拓に取り組んでいた事業は、コストアップも乗り越えることができています。

 一方、合繊部門は不織布など汎用的な商品のウエートが高い上に、紙おむつや化粧雑貨などのインバウンド需要も新型コロナ禍でなくなってしまいました。在庫を積み上げることも避けているので、どうしても工場の稼働率が下がり、利益率も低下してしまいます。産業資材事業はフィルターなどの需要が旺盛ですが、21年から出雲工場(島根県出雲市)に生産を集約する中で、製造ラインの立ち上げに時間がかかってしまいました。

 製品・テキスタイル部門は、外出自粛や店舗の営業時間短縮の影響が大きく、アパレルの調達も絞られているため厳しい状況です。ただ、インドネシアで生産するインナー製品の対米輸出は想定以上に回復しました。やはり米国はいち早く消費が回復しつつあります。このためインドネシアの縫製子会社も新型コロナ禍の下ながら順調に生産を維持できました。中国の縫製子会社もブランド向けOEMに特化することでなんとか受注を確保しています。ただ、東南アジア、中国ともに物流が停滞し、コンテナ不足も深刻化しています。これが引き続き懸念材料になっています。

  ――22年度が始まりました。

 経営環境は非常に厳しいものがあります。新型コロナ禍に加えて、ロシアによるウクライナ侵攻といった想定外の事態も起こっています。今後、エネルギー価格などがさらに高騰する可能性も出てきました。こういう状況下では、各種経営指標なども駆使しながら、事業の現状をしっかりと管理することが大切になります。原燃料高騰によるコストアップを販売価格に転嫁することが重要になりますが、そのためにも研究開発のスピードを上げて、汎用でない商品を出す速度を上げていかなければなりません。顧客からのニーズをいち早くくみ上げて、それを実現できるかにかかっています。これまでも独自性のある原綿や加工技術を打ち出す戦略を推進してきました。これを強化し、不織布とテキスタイルの両方で活用するなど事業間の協業を進めます。やはり、商品を通じて人々の生活を豊かにしているということを、もっと打ち出していきたいと思います。

 海外事業については、サプライチェーンの中でモノ作りをしている部分と、各拠点で地産地消的なビジネスのものがあります。これらと大和紡績本体との連携をさらに強めます。例えばインドネシアの縫製子会社で日本向けも生産する。あるいは海外の原綿を使った域内オペレーションなどです。

 SDGsの実現に向けた取り組みもますます重要になりました。特に二酸化炭素排出量の削減に取り組まなければなりません。そのためには工場でのエネルギー転換などのための投資も実施します。そうした投資を実行するためにも、しっかりと事業で利益を確保していくことが欠かせません。それと、ガバナンスの強化にも重点的に取り組んでいます。4月から営業系のシステムも大規模に更新し、透明度を高めました。繊維産業はどうしても属人的なビジネスになりやすいという課題があります。そこでシステムも使いながら情報の共有化を進めています。そうすることが従業員にとって働きやすい職場環境を作ることにもつながるでしょう。そのほかにも、女性管理職の登用なども積極的に進めていこうと考えています。

〈春を感じる時/ついつい親御さんの気持ちを想像〉

 「春といえば、卒業式や入学式など新しい生活に向けての『旅立ちの季節』というイメージがある」という有地さん。街で新入社員らしき初々しいスーツ姿の若者を見掛けると、やはり春を実感する。「去年、今年と2人の息子が社会人になったのでなおさら」だとか。自社の新入社員に対しても、ついつい親御さんの気持ちを想像してしまい、「なんだか心配になって、これまで以上に親身に接してしまう」と笑う。元々、紳士的な物腰の有地さんだが、ますます優しい社長になりそう。

〈略歴〉

 ありち・くにひこ 1987年大和紡績(現・ダイワボウホールディングス)入社。2017年ダイワボウホールディングス執行役員経営企画室長兼大和紡績取締役、18年ダイワボウホールディングス取締役兼常務執行役員、19年ダイワボウホールディングス専務兼大和紡績監査役、21年4月から大和紡績社長。