2022年春季総合特集(7)/トップインタビュー/帝人/SDGsの実現を早期に/社長 内川 哲茂 氏/生き残りに向けて変革を

2022年04月21日 (木曜日)

 帝人にとって2022年度(23年3月期)は中期経営計画の最終年度に当たり、先行きの明確な予想が困難な事業環境下で計画の仕上げに入る。今月1日付で就任した内川哲茂社長は「うまくいっているものとそうではないものをきちんと総括する1年」とし、次の中計は「2030年にありたい姿を実現するための3年間になる」と話す。その上で「ヘルスケアもマテリアルもITも繊維・製品も今のままでは生き残ることはできない。大きな変革が必要」とし、強いチームを作って改革を進める。

  ――ウイズコロナ時代に成長するために求められる要件とは何でしょうか。

 ウイズコロナ時代だから何かが変わるわけではありません。新型コロナウイルス禍が始まる前からSDGs(持続可能な開発目標)などについて考えないといけないといわれていましたが、それがさらに強い要請になったという印象です。企業は何か新しいことや変ったことをするのではなく、SDGsのより短い時間での実現が求められています。帝人は以前から真剣に取り組んでおり、こうした流れは追い風と考えています。

 変化もあります。地産地消やリサイクル、循環型経済(サーキュラーエコノミー)は不可欠ですが、それを米国の巨大IT企業4社が作った大きな輪の中で行うのではなく、もっと小さな輪(地域)の中での循環に変わっていくと考えています。小さな輪は幾つもでき、それぞれの輪で必要な地産地消や循環があります。それをつなげていくことで大きな輪になるのだと思います。

  ――21年度の業績を振り返ると。

 年度後半にロシアによるウクライナ侵攻があり、サプライチェーンの混乱がさらに深まりました。原燃料価格の高騰も続きましたが、顧客の理解が得られ、価格転嫁が行えました。全体的な話をすると、ヘルスケアや繊維・製品などは4~12月期決算発表時と同じ方向で進んでいます。しかし、新型コロナ禍による影響によって中計で目指していた場所・地点には到達できていません。

  ――中計は22年度が最終年度です。経済や市場の動向は。

 明確に予想することは困難だと言えます。元々は上半期の途中で市場は平準化していくと思っていたのですが、ウクライナ問題でそれが不透明になってしまいました。欧州はもちろん、世界のエネルギー問題などはすぐには解決しないのではないかと危惧しています。半導体不足や物流の混乱をはじめとする問題も残ったままになっています。為替の影響も小さくありません。

 とはいえ、エネルギーも半導体も物流も何かきっかけがあれば解決に向けて動き始める可能性はあります。さまざまなリスクに対するさまざまなシナリオを作っておき、実際に発生したリスクに一つ一つアクションを起こしていく。不透明で不確実な先行きの予想に力を使うのではなく、そのことの方がよほど重要なのではないでしょうか。

  ――どのような基本方針で22年度に当たりますか。

 中計の総括の1年になります。20、21年度の2年間で取り組んできたことの結果が見えつつあります。うまくいっているものはさらに良くなるような手を打ち、うまくいっていないものは方向性を再検討する必要があります。2年間の活動と成果をきちんとレビューした上で来年度からの次期中計を策定したいと思っています。次の中計は30年にこうありたいと思う姿を実現するための最初の3年間になるでしょう。

 うまく進展している事例を挙げると、自動車向け複合成形材料があります。17年にCSP(コンチネンタル・ストラクチュラル・プラスチックス)社を買収して以降、世界各地に拠点を構築しました。グローバルティア1サプライヤーとして自動車メーカーからの要求特性に対応し、新モデルにも採用されました。パラ系アラミド繊維も増設分がきちんと立ち上がりました。需要も順調で、成果が出ていると判断しています。

  ――営業面ではどのような施策を採りますか。

 北米の炭素繊維新工場が昨年度末に立ち上がりました。新型コロナ禍の影響から航空機向けの需要が落ちていますので、当面は成長が期待できる風力発電翼用途などに振り向けて販売していくことになります。アラミド繊維はマーケティング的には心配はしていませんが、増設を実施しましたので“しっかりと売り切る”ための施策を進めます。

 攻めていく市場は事業や分野によってさまざまです。アラミド繊維はグローバルに販売しますし、炭素繊維は風力発電翼を生産している地域が重点になります。航空機向けについては米国と欧州での展開が不可欠です。中国は新型コロナで経済の混乱が生じるかもしれませんが、消費地としての重要度は高いので、地政学的リスクを理解した上で引き続き目を向けていきます。インドは市場と生産拠点の両面で深耕を目指します。

  ――今後に描く姿とは。

 サステイナビリティーやカーボンニュートラルはCO2の排出と吸収がプラスマイナスゼロになることを目指しています。ただ、それだけでは不十分であり、将来は空気中のCO2を利用して何かを創出するなど、排出量をゼロより減らしたり、吸収を増やしたりすることが要求されます。技術的には可能ですので挑戦していきたいと考えています。

 当社の事業にはヘルスケア、マテリアル、IT、繊維・製品などがありますが、今のままではどの事業も生き残れないでしょう。変革が必要です。まずは帝人が何のために存在しているのかを考え、経営陣を含めた強いチームを作って変革を図ります。言えるのは自分たちが持っている製品・サービスを基点にするのではなく、顧客や社会が困っていることを基点にソリューションを提供していかなければならないということです。

〈春を感じる時/見上げた空……最近は〉

 「見上げた空の青さに春の訪れを知る」と話す内川さん。特に北陸地方の空と言う。北陸では秋や冬になると雲の低い日も少なくないが、春が近づくにつれて低かった雲が高くなっていく。やがて晴れ間が多くなり、その青さに春を感じる。ただ、「最近は下を向いていることも多い」のだとか。なぜかといえばマンホールふた。「趣向を凝らしたご当地マンホールふたを見るのが楽しい」と笑う。海外ではポルトガルやチェコの、国内では大阪市と姫路市のふたが印象に残っているそう。

〈略歴〉

 うちかわ・あきもと 1990年帝人入社、2017年帝人グループ執行役員マテリアル事業統轄補佐兼繊維・製品事業グループ長付、20年同複合成形材料事業本部長、21年4月帝人グループ常務執行役員兼マテリアル事業統轄、同年6月取締役常務執行役員などを経て、22年4月代表取締役社長執行役員。