吸汗速乾ノン・ピリング素材 「VORTEX」

2002年02月27日 (水曜日)

村田機械/繊維機械事業部 紡績機械技術部・藤原 道明氏

【開発の背景】

およそ20年前から商業生産に使用されはじめた無撚結束紡績機MJS(Murata Jet Spinner)は、その高い生産性と無撚結束糸の優れた抗ピル性が注目され、紡績から最終製品まで一貫生産しているアメリカのシーツ業界に瞬く間に広がっていった。 その後のベッドシーツ以外への展開の広がりもあって今日でもアメリカの紡績能力の20%前後を占めている。この背景には、アメリカの合繊各社がMJSに適したファイバーを開発し、デニールも1.5から0.9とファイン化することで著しく風合改善に貢献したことも見逃せない。

MJSは80年代後半からアメリカ以外の国にも広まっていったが、純綿による無撚結束糸は糸強力が低く、またMJSでは一部のコーマ糸しか紡績できないため、主に合繊と合繊綿混に用途が限ら、糸売り主体の業界形態も影響してアメリカほどの広まりは見られなかった。

日本では、一部の繊維が平行繊維を結束している無撚結束糸のユニークな糸構造に由来する吸汗速乾性に注目し、上質綿を用いて適度のシャリ感を出しながら春夏物のインナーに展開されたが、市場にはこのような明確なニーズがいまだ生まれていなく、広く普及するには至らなかった。

しかし安価な輸入品に対抗するために付加価値をどのように製品に盛り込んでいくかが日本の紡績業界にとって重要な課題となるにつれ、抗ピル性と吸汗速乾性の機能を持ったリング糸に近い純綿糸のニーズが高まっていった。

【開発技術の内容】

 1997年大阪国際繊維機械展(6th OTEMAS)に初めて参考出品したMVS(Murata Vortex Spinner)は、こうしたニーズに応えるための革新紡機であった。 延伸された繊維の先端を糸の中心に保持させ、後端を糸の表面に向かって捲付けるという糸構造にすることで、一本一本の繊維が抜け難くなり、さらに優れた抗ピル性を実現すると同時に、3ミリ以上の毛羽を極度に減らすことに成功した。

MVS糸の場合、糸の中心付近はそれぞれの繊維の一部(紡績時の先端側)が平行な状態で位置しているため、吸汗速乾性が損なわれることもない。また捲付いている繊維を増やすことで純綿糸の強力も向上し、リング糸と同じ原料で同じ番手が紡績可能となり、リング糸にきわめて近く、それでいてリング糸には無い機能を持った新しい糸の開発に成功した。

他にも機能的に優れた点を有し、①繰返し洗濯しても変化が少ない、②斜行が少ない、③耐摩耗性に優れ、④均一な外観である、などが挙げられる。

合繊、合繊綿混、純綿の38ミリまでの繊維であればNe15~Ne60の範囲で紡績が可能である。 特にセルロース系繊維にはコシが無く襟付の製品には困難なものがあるが、MVS糸を使うことで適度なしなやかさを維持し、襟付の製品を可能にしている。

このように特別な素材を使わなくても優れた機能性が得られる革新紡績糸として、MVS糸/MJS糸に対して新しく付けた名称が「VORTEX」(登録商標)である。 もちろん異形断面繊維等の特殊繊維と組み合せれば、その機能性はさらに向上する。

またMVS/MJSは、紡績工場においては精紡段階の三工程(粗紡/精紡/巻き返し)を一工程に集約することができ、品質管理の面でも、多品種少量などのQRの面でも、より対応しやすくなる。

【今後の展開】

 一般消費者にはVORTEXの名は未だ知られていない。 小売・アパレル関係者の中でもほとんど知られていないのが実状である。それは、従来機械メーカーが直接一般消費者や小売・アパレル業界にPRしてこなかったからだと反省している。

現在市場に出回っている商品の多くは色・柄・形等の見た目に重点が置かれているが、近年繊維製品の機能に重点を置いた企画が増えつつあり、見た目で買うより実績(使って良かったという使い心地など)で買う消費者が増えていくと予想される。

この様な変化に対応して、機械メーカーでもアパレル業界との協力体制が必要と考えており、靴下・タオル・ユニフォーム・Tシャツなど一部のアパレル会社の方々と商品開発の取組みをはじめており、今後さらにこの様な取組みを広げていくことで、機械メーカーとして、日本の繊維業界に多少なり貢献できることを期待している。