東洋紡/ダイニーマ ザイロン
2002年02月13日 (水曜日)
増設で新たなステージへ/ともに年1000トン目標
高強力ポリエチレン繊維「ダイニーマ」、PBO繊維「ザイロン」。東洋紡は今、この高機能繊維素材への傾斜を強めている。どこでも誰でも作れない2素材は長年培った高分子技術、紡糸技術があるからこそ生まれた。そして、着実な拡大を遂げてきたが、その規模はまだまだ小さい。ニッチの高機能素材とはいえ、現状では「トゥー・スモール。少なくとも年1000トンは必要」と能島鐵之助機能材第二事業部長は事業拡大に意欲を見せる。すでに、両素材とも1000トンを目標に増設計画が進行中で、「ダイニーマ」「ザイロン」の新たな挑戦が始まった。もう小型繊維とは呼ばせない。
ダイニーマ/水に浮く高強力繊維
高強力ポリエチレン繊維。この繊維を生産するのは全世界で3社しかない。東洋紡と提携するオランダのDSM、米国のハネウェルパフォーマンスファイバーズだ。
東洋紡とDSMが共通ブランドとして展開する「ダイニーマ」の事業化に最初から携わったのが能島氏。86年。プリント輸出担当から同繊維の事業化を検討するKKSプロジェクトのメンバーに選ばれた。2年間で事業化するかどうかを決める話だったらしい。メンバーに選ばれた当時、能島氏は「事業化は無理」との判断をしていたという。
なぜなら、同繊維は決定的な弱点があった。ひとつは耐熱性がないこと。これは高強力繊維としては致命的とも言えたが「産業用とは異なる分野、釣り糸に向くことが判った」。これが同社に「ダイニーマ」事業化を踏み切らせた1つの要因だ。
「重量的には小さくても採算は乗る。投資額も少ないので、量を追わなくとも良い」。そう判断し、89年にダイニーマ事業開発部を設置。DSM社との折半出資により生産子会社「日本ダイニーマ」を設立し、91年から大津市堅田の総合研究所内で生産を開始する。
その試験プラントは年産80トン、商業生産開始時は同200トン、その後98年にようやく2倍増の同400トンに持ち込んだ。そして、次は1000トンを目標に掲げている。
「ボクシングで言えばフライ級、事業構造もシンプル」と言う「ダイニーマ」。耐熱性がないなどの弱点はあるものの、逆に軽量(比重0・97)という他の高機能性繊維にはない特長を持っていた。これは同一径による自重切断長はスチールの約8倍。しかも、低伸度。これが釣り糸に求められる特長に合致した。ロープ、ネットなども同様だ。
例えば、タグロープ用では港湾用などで「ダイニーマ」への引き合いは強まっており、こうしたロープ、ネットでは製品での輸出にも問い合せがある。
その高強力ポリエチレン繊維の市場規模はDSM、ハネウェルパフォーマンスファイバーズを含め年間3000トン弱と言われるが、東洋紡以外の2社も設備増強を進めている。
すでにDSMでは01年末、既存3ラインの能力アップを行い、三〇%増の年産2000トンに拡大。さらに同600トンの新設備を導入して同2600トン体制とした。02~03年には米国で防弾チョッキ用専用同400トンの新工場を建設する計画で、完成後、オランダ、米国合わせて同3000トン体制にする計画。さらに米国ではハネウェルハイパフォーマンスファイバーズも2倍増の同2000トンに拡大する計画を発表するなど、世界的に増設ラッシュにある。
東洋紡の「ダイニーマ」も次の増設で4ケタ台に乗せる意欲を示しており、大手2社を追随する。日本国内の独占販売に限られるだけに、大手2社との差はあるものの、用途開拓という面では負けていない。
「ロープ、ネット、防護材、補強分野など大型マーケットも見え始めている」と能島取締役は豪語する。同社では増設の際、常に新しい技術を盛り込んできた。次の増設でも、さらに20%の強度アップなどを掲げている。
「日本でもコスト要求ばかりでなく、ユーザーがブレークスルーのため、コスト以外を求め始めている。それが将来的に輸入品などの参入障壁にもなる」と語る。
ファイバーのレベルアップだけではない。応用技術の開発も進んでいる。そのひとつがFRC(セメント補強材)だ。道路や橋りょうの補強材として使用するもので、接着性の改善も進んでおり、施工マニュアル策定にもめどが付きつつあるという。
また、二次電池セパレーター補強用の開発も進んでいおり、超伝導部材への期待がかかる。「ダイニーマ」の極低温で伸長するという特性は他にない。これを生かし、現在リニアモーターカーなどでテストが続けられている。
欠点はあるが、それをカバーしうる特長を生かした「ダイニーマ」の収益率は高い。後はその額を拡大できるかどうか。同社の取り組みを見る限り、ニッチ素材といえども収益を増やせる可能性は十二分にありそうだ。
ザイロン/世界で唯一の素材
世界で唯一の高機能繊維「ザイロン」。PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維と呼ばれる「ザイロン」は高強度、高弾性率、耐熱性、難燃性何れにおいても既存のスーパー繊維を上回る〝超〟高機能繊維だ。
その高機能性はパラ系アラミド繊維と比較すると良く分かる。強度、弾性率は2倍以上、破断伸度1・5倍、LOI値(限界酸素指数)3倍以上、耐熱性1・2倍もある。
「ザイロン」は米空軍がポリマー研究をスタート、それをダウケミカルが基本特権を取得。その後、東洋紡がダウとの共同開発に着手し、繊維化にこぎつけた。
共同開発のスタートは91年、総勢30人の大所帯からなるPBOプロジェクトを発足させた。東洋紡の同繊維に対する意気込みを感じさせた。95年にはつるが工場に年産5トンパイロットプラント、96年には10トン、同20トンと能力アップさせたが、サンプルワークも有償で行っている、その価格が1キロ当たり1~2万円というケタ違いだ。
それが「ザイロン」の弱点でもあるが、それでも売れる。機能と価格がバランスしていると判断されているからだろう。そして、同社はついに30億円を投じて、年産400トンの重合設備と、同200トンの長繊維紡糸設備を導入することになる。
98年に稼働を開始した同設備は現在、フル稼働中にあるが、それでも需要に応えきれない状態で「玉はひっ迫しており、可及的速やかに増設を行なう」計画だ。
ただ、「ダイニーマ」同様どのようなテクノロジーを組み入れるかが課題とする。このため、現段階では既存設備の能力アップで、50%増の年産300トンにしながら、増設の具体的な内容を詰める意向だが、「1000トンが目標」であることには変りはなく「ポテンシャルから判断すると、10年後には3000トンは十分可能」と能島取締役の鼻息は荒い。
「ザイロン」は現在、70%を米国向け輸出している。昨今は9月11日の米国同時多発テロによって、各国で防弾チョッキの需要が増えており、パラ系アラミド繊維を上回る機能性をもつ「ザイロン」への引き合いも強まっているようだ。それだけではない。難燃性、耐熱性を生かした消防服、さらにヨットセールなどに使われている。
国内は耐熱性を生かし、アルミ押し出し成型用ローラーに使用するニードルパンチ不織布の原料にも使われるほか、高弾性率を生かしてテニスラケット、さらに、衣料用ではライダースーツ、さらに、
こうした海外を中心とする既存用途の需要増だけでは年間1000トンは売り切れない。そこで、同社は「ダイニーマ」同様、複合材料をターゲットのひとつに掲げる。プラスチック、ゴム補強、セメント補強などだが、そのためには現在の防弾チョッキや耐熱フェルトのように「素材の持ち味だけでは限界がある。二次展開、応用技術の開発がポイント」として、接着性の改善、耐候性の向上などに取り組んでいる。
また、全世界をマーケットにするため、欧州、米国に「ザイロン」専任担当者も配し、自ら情報収集から商品開発、用途開拓に取り組むが、商社との連携も重要視している。
高機能繊維では商社の役割が疑問視されるが「当社がフォロー仕切れないアジアなどグローバルなネットワークをもつ商社の力が必要になる」との評価だ。
高くても売れる用途を開拓してきた「ダイニーマ」「ザイロン」だが、現在、計画中の増設で新たなステージに入るだろう。しかし、営業、技術、研究開発が三位一体で市場を創造するスタンスは変わらない。