2021 秋季総合特集(7)/トップインタビュー/三菱ケミカル/国内が軸で大きな影響見られず/モールディングマテリアルズディビジョンアルミナ・繊維セクター繊維ユニット長 大坪 正博 氏

2021年10月25日 (月曜日)

 三菱ケミカルホールディングスグループでは、2025年度(26年3月期)を最終とする5カ年の中期経営計画が進行している。最初の2年をステップ1と位置付けており、アクリル繊維やトリアセテート繊維などを展開する三菱ケミカルのフィルムズ&モールディングマテリアルズドメインモールディングマテリアルズディビジョンアルミナ・繊維セクターも収益力の回復や事業基盤の強化などに取り組む。足元を固めながら、「サステイナビリティーを意識した素材の提案で今後の成長」(大坪正博繊維ユニット長)につなげる。

  ――日本を含むアジアの生産体制はこれからどのような変化を見せるのでしょうか。

 三菱ケミカルはアクリルやトリアセテート、ポリプロピレン、溶融繊維を販売しています。このうちアクリルは原綿の販売が主体です。中国で紡績して日本で販売するケースもありますが一部です。トリアセテートは北陸を中心とする産地企業との連携によるメード・イン・ジャパンの商品を国内で展開するというオペレーションになっています。溶融繊維に関しては国内で生産して国内で販売しています。

 新型コロナウイルスの感染症によって世界は大きく揺れました。中国は比較的早い回復を見せましたが、ASEAN地域は21年度に入ってからも影響が残り、縫製工場などが止まっているという話が伝わってきます。三菱ケミカルの繊維ビジネスは先ほどお話ししたように日本国内を軸とした形態を取っていますので、生産体制といった観点では、現段階では大きな影響は出ていません。

  ――北陸産地の企業との連携の話が出ました。産地の状況はいかがですか。

 20年度は厳しかったと思うのですが、各社がその厳しさを乗り越えています。産地の底力を改めて実感しました。20年度の後半からはトリアセテート長繊維「ソアロン」の需要も中国を中心に戻り、販売に動きが出てきました。それによって織物工場にも活気が出てきました。一気にというわけにはいかないかもしれませんが、着実に前に進んでいくのではないでしょうか。

  ――21年度上半期の三菱ケミカルの繊維の状況は。

 20年度の数字を上回る水準で推移しています。19年度のレベルには至っていませんが、回復基調にあると思っています。ただ、アクリロニトリルやナフサをはじめとする原料の価格が高騰しています。20年度にコスト削減などの足場固めをきちんと行い、現在もコスト削減に取り組んでいますが、自助努力の範囲を超える部分については、値上げの実施をお願いしたいと考えています。

 素材別の状況を見ますと、アクリルは中国市場向けを軸に回復を見せています。マイクロタイプの「ミヤビ」や芯鞘構造の「コアブリッド」など、強い商品を持っているのが奏功しています。アリババグループのネット通販サイト「Tモール(天猫)」との協業も順調です。インドや東南アジア向けも復調しつつあります。トリアセテートは中国と日本で需要が戻っており、10月以降の欧米市場向けがポイントになるとみています。

  ――21年度は下半期に入っています。事業環境をどのように捉えていますか。

 緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が9月30日に解除され、ワクチンの接種率も向上しています。ウイズコロナの時代と言えるかもしれません。働き方や日常の生活も新型コロナ前とは大きく変わっており、ウイズコロナ時代における生活者の動きが経済動向に影響を与えると考えています。個人的には人々の活動は活発化し、これによって経済は良い方向に進むと予想しています。

 海外に目を移すと、国や地域で差はありますが、ワクチンの接種率は上がっています。経済は良い方向に向かうでしょう。懸念は中国市場向けの販売動向です。中国は世界に先駆けて回復しましたが、米中関係をはじめとするさまざまな問題があり、しっかりとウオッチしていかないといけません。

  ――下半期以降の基本方針と販売戦略は。

 品質やコストは当然ですが、サステイナビリティーやトレーサビリティーを意識したモノを素材として訴求していくことが不可欠になります。既に取り組みを始めていますが、その代表がソアロンです。当社初のアパレルブランド「エイジ・サン・マル・ニー・ロク」(age3026)を立ち上げましたが、地球規模での環境課題を一人一人の意識から解決していきたいという思いを込めています。

 アクリル繊維については、われわれの原綿がどのようなところで使用されているのかという観点に加え、廃棄物の回収などにも目を向けないといけません。トレーサビリティーやサーキュラーエコノミー(循環型経済)の考え方です。溶融繊維は複合が少ないので、リサイクルなどを進めていかなければならないでしょう。環境問題への取り組みをいかに表現し、伝えていくのかだと思います。

  ――海外販売拡大や資材分野の深耕は。

 海外では中国を重要な市場と位置付けており、アクリルとソアロンともに拡販に引き続き力を入れます。アクリルはミヤビやコアブリッドなど、評価の高い素材の提案を強化します。ソアロンは中国に加えて、欧米や中東でも伸ばしていきたいと思っています。ウェブ展示会の開催や現地エージェントの活用による情報取集などを行っています。

 資材は、0・1デシテックスの極細アクリル「XAI」(サイ)などの展開を強化します。サイは自動車関連で訴求を図ってきましたが、吸音性能は壁材でも生かせるので、これからは建材関係への提案も検討しています。アクリルの資材用途への販売は、新型コロナ禍でも落ち込みが小さかった昨年と比べても増えており、電池部材やフィルター、ワイピング材といった分野で積極的に伸ばしていきます。

〈私のターニングポイント/中国の紡績工場に赴任〉

 30代の頃に中国の紡績工場(青島菱東紡織)に赴任した大坪さん。「日本とは全く異なる文化の中で工場長として現場運営を経験したことがターニングポイントになった」と話す。中でも言葉が通じなかったことが大きかった。最初、スタッフとはあいさつ程度しか交わさなかったが、しばらくするうちに顔を見るだけで心情がつかめるように。「言葉が通じなかった分、個々人のことをよく知ろうと思うようになった結果」と言う。今回のインタビュー中、こちらの心が読まれていたかも。

〈略歴〉

 おおつぼ・まさひろ 1993年三菱レイヨン入社。2017年三菱ケミカル豊橋事業所溶融繊維製造部長、19年高機能成形材料部門繊維本部繊維素材事業部アクリル繊維グループマネージャー、20年高機能成形材料部門繊維本部繊維事業部長、21年フィルムズ&モールディングマテリアルズドメインモールディングマテリアルズディビジョンアルミナ・繊維セクター繊維ユニット長。