特集 スクールユニフォーム(5)/学生服メーカー大手3社トップインタビュー/生産効率化やデジタル化進む/トンボ/菅公学生服/明石SUC

2021年10月22日 (金曜日)

 学生服業界では、昨春のような全国的な休校がなかったことから、大手3社は増収基調を堅持する。性的少数者(LGBTQ)への配慮などで急増する制服モデルチェンジ(MC)の獲得、原材料費などの価格転嫁も貢献。利益面も増加が見え始めたが、以前からの価格競争や別注対応の細分化の影響もあり、一段の確保が課題になる。各社の生産効率化やデジタルによる省力化が進む。

〈トンボ/社長 近藤 知之 氏/LGBTQの制服で高い完成度〉

  ――2021年6月期連結決算は売上高401億6千万円(前期384億円)でした。

 3大都市圏中心にスクールで150校、スポーツで280校の新規採用校を獲得し、中期3カ年計画で目標としていた400億円を1年前倒しで達成しました。主力3部門で前期実績を超え、6期連続の増収となりました。他社との競争激化、人件費高騰など影響を受けながらも、経費削減や子会社の瀧本の赤字脱却などで大幅増益、4期ぶりの最終増益も達成しています。

  ――リモート採寸は。

 人工知能(AI)を活用した採寸サービス「ハカルンジャー」、自社サイト「トンボスクールモール」で採寸から販売まで一貫した提案も奏功しました。来春は前期の倍、100校2万5千人のリモート採寸を実施します。販売店向けの採寸システムや体育着専用のシステムも開発しています。

  ――性的少数者(LGBTQ)への配慮で制服ブレザー化が活発です。

 LGBTQの人々に配慮した制服は、当社も新規採用校のうち7割を占めています。近畿や東海地域の中学校で自治体単位の統一型標準服の採用が目立ち、制服の選択制も増えています。男女兼用ジャケットや、スラックスとスカートの同一柄など、スタイルによるデザインの差がつかない制服が主流になりつつあります。

 スラックス多様化への対応のように、スクールユニフォームとして完成度の高い商品を確立しなければなりません。制服のバリエーションや考え方自体の提案も高い評価を得ていて、「ジェンダーレス制服はトンボに任せれば安心」というイメージを定着させていきます。

  ――備蓄対応は。

 生徒数・入学者数の早期把握、AIを駆使した発注予測システムを構築する予定です。3年半以上入庫や仕入れがない商品を処理するルールを徹底していきます。

  ――全体の設備投資は。

 2年間延長した、茨城県笠間市の新物流センターの建設をスタートさせます。22年4月に建築入札し、23年7月に竣工する予定です。

  ――瀧本との連携は。

 23年7月のシステム統合に向けて準備していて、生産体制や工場の共有も本格化させていきたいです。

  ――中計最終年度では売上高420億円を計画。

 スクール150校超、スポーツで120校超の新規採用を獲得していて、目標達成に向けて取り組みます。そのために、原材料などコストアップを受けた価格改定、バーチャル展示会やトンボスクールモールなどバーチャル営業を進めたい。品質をはじめ対応力を強化し、「納期重視」から「品質+納期重視」政策へと転換していきます。

〈菅公学生服/社長 尾﨑 茂 氏/地方創生につながる教育事業を〉

  ――2021年7月期連結決算は売上高386億円(前期370億円)でした。

 スクールとスポーツで新規採用校を堅調に獲得し、地道な営業の強化やカンコーブランドの認知度向上が奏功しました。人工知能(AI)を活用した「スマート採寸」も、精度の高さで制服モデルチェンジ(MC)獲得につながっています。

  ――IT関連の取り組みを強めていますね。

 スマート採寸を重点的に提案します。来春に向けては、前年以上にかなり高い比率で採用が決まってきていますね。長年蓄積してきた学校採寸のデータを活用し、精度も確実に高めたいです。

 今秋もオンライン展を開催しています。新型コロナウイルス禍を受けて、小規模なリアル展とのハイブリッド開催です。AIや、モノをインターネットにつなげるIoTも引き続き拡充します。

  ――設備投資は。

 19年に稼働を始めた宮崎県都城市と前橋市の物流センターをはじめ、全国の拠点に対し集中的に管理する体制を構築しています。来年秋には、岡山県倉敷市児島の倉庫で新たに1棟を増設する計画があります。

 フランスのレクトラ製で、受注から裁断までオンデマンド生産を自動化するシステムを今春導入し、順調に稼働しています。ある工程の人員が半分以下で済むなど、効率が格段に上がりました。

 人は縫製の付加価値向上に専念させ、その他に機械ができる業務は自動化させていきます。

  ――教育ソリューション事業の進ちょくを。

 生徒の非認知能力(数値化が難しいコミュニケーション力や共感性など)向上に向けたプログラムをはじめ、市町村や学校からの要望が増え、案件ごとに対応しています。今後も地域と連携し、地方創生につながる事業を展開します。

  ――性的少数者(LGBTQ)への配慮が一段と広がってきました。

 来春は制服のブレザー化で、中学校を中心にMCが相当増えるとみています。当事者に配慮したモノ作りや講演会を含め、学校の教育方針に合わせて慎重で丁寧な対応を進めます。

  ――備蓄計画が難しくなりそうです。

 前期も備蓄を相当減らしましたが、2、3年かけて削減を進めます。ブレザー化の動向次第で詰め襟学生服、セーラー服などの備蓄が積み上がるおそれもありますので、状況を注視し、慎重に生産計画を立てます。

  ――22年7月期計画を。

 売上高で400億円を目指しますが、数字だけにこだわらず、当面はシステム更新や備蓄削減など経営体質の強化に努めます。

〈明石SUC/社長 河合 秀文 氏/企業指針のSDGs本格的に〉

  ――2021年12月期の進捗(しんちょく)は。

 売上高で280億円を超えるとみています。昨年決算月を5月から12月に変更し、実質1年間となる初年度の今期は、20年5月期と比較すると売上高、利益面とも増加での着地が見えてきました。今春にスクールやスポーツで堅調に新規採用校を獲得したほか、原材料などコストアップ分の価格転嫁が一定程度進んだことも寄与しています。

  ――性的少数者(LGBTQ)への対応が一段と強まっています。

 当事者への配慮で中学校を中心に制服のブレザー化が進む中、モデルチェンジ(MC)の引き合いが増加しています。東海などでは自治体単位の統一型標準服や個々の中学校のMCも増えてきました。中学校の比率が半数を超える当社としても、獲得に向けて営業を強めたいと考えています。

  ――採寸サービスの拡大が注目されています。

 スマートフォンの画像や手採寸の数値などを組み合わせてサイズを測定する、「明石インテリジェンス採寸」(AI採寸)を提案しています。学校採寸の負担を大幅に軽減したことで高く評価され、今春は100校強を獲得しました。保護者などがネット上で数値を入力し注文まで行うため、営業管理や決済業務の効率も格段に向上しました。

 AI採寸は来春に向け、さらに倍増以上の新規採用が視野に入っています。デジタルのデータ蓄積、長年の学校採寸のデータ活用に加え、6月発表した岡山大学との人工知能(AI)を活用する研究で、今後もより精度を向上させていきたいですね。

 ――SDGs(持続可能な開発目標)を今年から企業指針に掲げました。

 「環境」「命」「絆」を守る活動を強化していきます。制服の素材、包装材に関する環境活動や防災教育、性的少数者一人一人に対する心のケアや寄り添うモノ作りなどに取り組んでいきたいと考えています。

 特に「環境」では、適正在庫に向けて備蓄を削減するなど多くの取り組みを盛り込みました。その他各活動で10年にわたる数値目標を設定しましたので、一年一年見直しをしながら本格的に取り組んでいきたいですね。

  ――設備投資は。

 今年、20数年使用してきたグループウエアを一新し、クラウドで管理業務が行えるように改善しました。将来は基幹システムも入れ替える大規模な投資を予定しています。

 ――来春の見通しは。

 ブレザー化への対応で多くのMCを獲得できるとみています。その一方で詰め襟学生服などの販売には徐々に影響が出ていて、一部生産体制の変更も検討しています。

〈ニッケ調べ/22年春MC校数は400校か/92年以来30年ぶり大台に〉

 ニッケの調査によると、2022年入学商戦の制服モデルチェンジ(MC)校数は、9月末段階で中学・高校合わせて400校となりそうだ。前年から166校増え、倍近く増える見込みになる。性的少数者(LGBTQ)に配慮する流れなどによって、自治体単位で統一型標準服の採用が増加したことが一つの大きな要因。ピーク時の1992年に迫り、30年ぶりに400校を超える可能性がある。

 400校のうち、中学校は280校で7割に達する。21年春と同じくジェンダーフリー対応に向けたMCが多くなっており、中学校で名古屋79校、大阪73校、九州53校、東京48校など、多くの地域で制服の刷新が急速に進んでいる。公立中学校を中心に、詰め襟学生服・セーラー服からブレザーへの更新が急増しているようだ。

 少子化による学校統廃合や一貫校化なども変わらず影響し、女子生徒のスカートとスラックスの選択制なども増加傾向にあるとみられる。

 近年を振り返ると、直近10年はMC校数が200校を下回るケースが目立ち、17年度から減少傾向となっていた。19年度には155校と直近30年で最低を記録したが、20年度から中学校を中心に制服のブレザー化が加速し、一転して272校の高水準に達した。高校のMC校数を中学校のMC校数が上回ったのは同年度からだ。

 21年春は234校で前年から減少したものの、性的少数者への対応でMCに踏み切った学校が多く、2年連続で200校を超えた。22年春についてもこうした水準を大きく超えることが確実になりつつあり、ピーク時である92年に迫る勢いを見せている。