シリーズ事業戦略を聞く/ニッケ/ウールで世界に快適を提供/SDGsを事業に落とし込む/取締役兼常務執行役員 衣料繊維事業本部長 川村 善朗 氏

2021年08月02日 (月曜日)

 ニッケの衣料繊維事業の2020年12月~21年5月期業績は売上高132億2400万円(前年同期比10.0%減)、営業利益10億2100万円(49.5%増)と減収ながら大幅増益となった。学生服地の価格改定などで利益率の改善が進む。衣料繊維事業本部長である川村善朗取締役兼常務執行役員は、今後も積極的な設備投資を進め、「ウールの技術で世界の人々に快適を提供することがミッション」と話す。

  ――20年12月~21年5月期業績を振り返ると。

 学生服地の価格改定で利益率が改善しました。ただ、前期に価格改定前の駆け込み需要があり、今期はその反動もあって販売数量は減少しています。一方、ビジネスユニフォーム地、一般テキスタイル、糸はいずれも新型コロナウイルス禍で市況が非常に悪い。例えば企業ユニフォーム関係では航空業界や鉄道業界向けがリピートも含めて受注激減です。なにしろ飛行機自体が飛んでいませんから。一般テキスタイルも国内のスーツ需要が減退している影響を受けています。海外向けも欧州はロックダウン(都市封鎖)で商談自体が停滞です。糸は売糸では利益が出なくなっているので、ニット製品OEMへのシフトを進めています。

 そうした中で学生服地の価格改定に踏み切ったのは、利益率を改善しなければ将来に向けた投資ができないという判断がありました。今後、デジタル化対応などで大きな投資が必要です。それによってコスト削減やサステイナブルなモノ作りが可能になります。実際、現在でもサステイナブル素材への注目は高まっています。例えば大手ラグジュアリーブランドグループであるケリングが、採用するサステイナブル素材をピックアップしていますが、当社のニュージーランドメリノウール使い「ZQウール」などが選ばれています。

  ――サステイナビリティーが“ポスト・コロナ”のキーワードだと。

 今期は3カ年中期経営計画の初年度です。衣料繊維事業として「ウールの技術で世界の人々に快適を提供する」というミッションを明確にしました。そのためにもSDGs(持続可能な開発目標)を具体的に事業内容に落とし込むことが必要です。「ウィービング・フォー・ザ・フューチャー 未来を織りなす」をテーマに掲げ、実行方針として「人々の快適な暮らしのために」「地球への思いやりにあふれたグローバルな人材の育成のために」「より安心でより安全な地球環境のために」という三つのコミットメントを掲げました。その上で「人と環境に配慮した製品開発」「トレース可能な原料調達」「トレース可能なバリューチェーンの確立」「ウール普及・啓発活動」「グローバルに活躍できる人材育成活動」「すべての子どもたちの可能性を拓く教育を支援するニッケ教育研究所」「温室効果ガスの削減」「海洋汚染の防止」「ウールリサイクルシステムの運用」という九つのアクションを定めています。これらアクションに対して具体的な数値目標も作り、さらにKPI(重要業績評価指数)による評価も検討します。例えば学生服などは非常にサステイナブルな商品と言えるでしょう。何しろ3年間着用できるのですから。学生服が割高だという批判もありますが、ニッケ教育研究所の顧問でもある甲子園大学の市川祥子先生の研究によると、私服よりも経済性に優れる可能性も示唆されています。

  ――特に期待の大きい商品や分野は。

 一つは中国での人気となっているJKファッション(制服風ファッション衣料)分野です。現在は過当競争となっていますが、専用サイトも立ち上げ、中国の会員制交流サイト(SNS)で約2万8千人のフォロワーがいますので、これを生かして生地販売だけでなく、7月から製品にも参入しました。ここでの認知度を生かして中国の制服風ファッション市場への参入を進めます。文化の違いも大きく、ハードルは高いですが、じっくりと育てていきたい。欧州への糸・生地輸出に関してはエージェントも変更して営業体制を強化しました。8月には国際見本市「インターテキスタイル上海」にも出展し、中国経由での販売拡大も狙っています。資材分野では防刃織物「P―TEX」によるケーブル保護シートなど新しい商品も開発しました。

 なによりウールのサステイナブルな特徴や機能性を消費者にもっと知ってもらう必要があります。そこで加盟する日本羊毛産業協会が中心となって3月に「国際サステナブルファッションEXPO」に出展しました。こうした取り組みを継続します。23年には国際羊毛機構(IWTO)が総会を京都で開催することも決まりましたから、これも生かしてPRします。