特集 環境(4)/有力繊維企業の環境戦略

2021年06月25日 (金曜日)

〈漂着ペットが原料の繊維/回収活動の輪を全国に広げる/豊島〉

 豊島はこのほど、海岸に漂着したペットボトルなどを原料にして糸に生まれ変わらせた繊維ブランド「UpDRIFT」(アップドリフト)を立ち上げた。シチズン時計の腕時計のバンドに採用されたのを皮切りに、多様な製品に向けて提案していく。

 アップドリフトの原料には、海岸の美化活動などで回収したペットボトルを使用する。ペットボトルは、分別した上で粉砕しフレーク状に変える。そのフレークを洗浄した後でペレットに加工し、溶解して糸にする。

 リサイクルした糸で作る生地を使用し、環境に配慮した商品を企画・開発する。豊島は自らごみを回収して資源化し、衣料などの製品に生まれ変わらせるまでの一連の工程を担う。第1弾は素材として採用されたが、今後はアップドリフトを使った衣料の製品化の提案を広めていく。既にマリンブランドなどから引き合いが来ており、著名人のオリジナルグッズの製作も進んでいるという。

 豊島は2019年から、日本環境設計と協力して地方自治体や地域団体、企業と連携してビーチクリーンアップ活動を行っていた。21年からは海、川、森の美化を図る活動「グリーン・アンド・ブルー・チャレンジ」として、豊島が各方面と協力しながら取り組んでいく。清掃で回収したペットボトルなどのごみを原料にリサイクルし、アパレル製品に使うサイクルの構築を目指す。

 21年は3月に沖縄・石垣島、4月にも神奈川県の湘南地域の海岸で清掃活動を行った。7月には、日本旅行が中学生を対象にした研修旅行に盛り込んだビーチクリーンをサポートする予定。全国で環境保護活動の大きなうねりを生み出しながら、アップドリフトをその象徴的なブランドとして育てていく。

〈オーガニックブランド浸透へ/反毛100%の再生綿も/ヤギ〉

 ヤギは環境配慮商材として、昨年立ち上げたオーガニックコットンの総称ブランド「ユナ・イト  オーガニック」の拡販に臨んでいる。糸、生地、製品のそれぞれで商標登録を済ませており、ブランド立ち上げから約1年間を経て日本国内のラベル発行枚数が1万枚を超えるなど好評を博す。7月からは再生綿のブランド「ユナ・イト リサイクル」も投入する。

 10月に開かれる東京ビッグサイトで開かれる「国際サステナブルファッションエキスポ」にユナ・イト オーガニックを出品し、大々的に訴求する。その展示テーマは①糸の多番手展開②生機提案③製品展開――。

 糸は現在、インド産を軸にトルコ産も加えたオーガニック綿花を使用し、20番単糸から100番双糸まで約30品番を備蓄展開。別注にも対応する。糸販売は播州など産地企業向けが先行している。

 生機提案では糸でも取得するオーガニックコットンの国際基準「GOTS」認証付きのものを用意。10品番を備蓄販売する体制を整えた。染め生地備蓄はせず別注で対応する。製品では同認証付きの生地を用いてインドで一貫生産したトートバッグやタオルなどをそろえる。

 タオル製品はグループのツバメタオル(大阪府泉佐野市)でも生産し、B2Bの独自ウェブサイトで6月末から販売する。

 オーガニックに続く「もう一つの軸を探していた」ところ、再生綿に行き着いた。海外の協力縫製工場で発生する裁断くずを再利用する反毛100%の綿糸で、主要番手をそろえて備蓄販売する。まずは糸から展開を始め、生地、製品へと広げる。既にタオルやルームウエアなどサンプル製品も作った。7月からユナ・イト リサイクルというブランドを冠して投入する。

〈「エコブルー」で新展開/環境配慮の象徴ブランドに/蝶理〉

 蝶理は商社として、サステイナブル素材の開発、拡販にいち早く取り組んできた。その象徴にまで育てたのが、再生ポリエステル糸のブランドとして販売してきた「エコブルー」だ。今後はナイロンなどにも範囲を広げてシリーズ化を進める。

 これまでの廃ペットボトルを原料としたマテリアルリサイクルのポリエステル糸は「ファースト」に分類する。近年、廃ペットボトルの回収、洗浄、粉砕、ペレット製造を手掛けるウツミリサイクルシステムズ(大阪市中央区)と提携し、リサイクルシステムの確立を進めてきた。結果、高品位チップを起点とした一貫生産体制が整った。

 10社を超える海外サプライヤーとの協業により、コスト競争力のある糸を安定的に供給できる。バージン糸とほぼ同様の品ぞろえが実現した。

 「ループ」は、さまざまな廃繊維を原料としたリユース・リサイクル。一つ目のパターンは、素材の複合くずを反毛化し、自動車向け吸音材や土木用フェルトなどに活用する。二つ目は、ナイロンくずなどをわたにし、混率30%の短繊維化を図る。これらを原料の回収状態に応じて提案する。北陸産地から段階的に取り組みを開始する。

 「オーシャン」は、廃漁網を原料としたマテリアル・ケミカルリサイクルのナイロン糸。国内の特定ルートでナイロン6の漁網を回収し、マテリアルリサイクルで長繊維化する。漁網を原料とするケミカルリサイクル設備の活用も検討する。原料ソースが明確なポスト・コンシューマー型のナイロンリサイクルを目指す。

 「アース」では、バイオベース原料のナイロン糸を開発中。次世代型原料を確保し化石燃料の代替とすることで、二酸化炭素の排出量削減につなげる。

〈レーヨンは環境配慮素材/「エコロナ」「リコビス」を柱に/ダイワボウレーヨン〉

 ダイワボウレーヨンは、レーヨンの環境配慮素材としての打ち出しを改めて強める。特に海水中での生分解性も確認した「エコロナ」、使用済み綿製品を原料に再利用する「リコビス」など環境に焦点を当てた機能レーヨンを提案の柱に据える。

 同社では国際認証も積極的に取得する。海水中で生分解性を認証する「OK・バイオディグレイタブル・マリーン」、適正管理された森林資源を使用していることを示す「森林認証(FSC)」、染色加工などの安全性に関する国際規格「エコテックス規格100」、米国農務省が再生可能資源から作られた製品を認証する「バイオベース製品認証」、食品接触の安全性認証「ISEGA」を取得している。

 今後、レギュラーレーヨンからエコロナへの置き換えを目指すと同時に、リコビスの普及に取り組む。鑑別可能なトレーサブルレーヨンの開発にも取り組み、量産化の目途も立ちつつある。さらにレーヨンでのカーボンニュートラルに向けた取り組みも進める。

 欧州連合(EU)が7月3日から使い捨てプラスチック規制を実施し、生理用品やウエットティッシュなど不織布製品も規制の対象となった。レーヨンは非プラスチックとして規制対象から除外されたことも生かし、機能レーヨンでプラスチック削減への貢献にも取り組む。

〈顔の見えるオーガニック綿/トレーサビリティーを最重視/大正紡績〉

 大正紡績(大阪府阪南市)はオーガニック綿糸のパイオニア的存在として知られる。特に最近では同社が取り組んできた“顔の見える”オーガニックコットンへの評価が高まり、取引先との信頼関係を深めている。引き続きオーガニック綿糸の販売を拡大することで存在感を発揮する。

 近年、サステイナビリティーへの要求が高まったことでオーガニック綿糸の需要も拡大した。一方で、インドでの不正認証などオーガニック綿の信頼性に対する疑念を抱かせる事件も発覚している。こうした中、大正紡績は米国などの契約農家からオーガニック綿を調達しており、トレーサビリティーを最重視した“顔の見える”オーガニック綿糸が取引先からの信頼につながっている。

 オーガニック繊維の国際認証である「グローバル・オーガニック・テキスタイル・スタンダード」(GOTS)や「OCS」、リサイクル認証「グローバル・リサイクル・スタンダード」も取得。米綿のサステイナビリティー検証システム「USコットン・トラスト・プロトコル」にも親会社であるクラボウを通じて加盟する。

 さらに未利用綿(落ち綿)使いなども多彩にランアップし、反毛による開発にも取り組む。社内でSDGs(持続可能な開発目標)に関する勉強会も実施し、従業員の意識の共有を進める。

〈生地を再び糸に“彩生”/システムの活用企業増加/新内外綿〉

 不要となった生地や繊維製品を再び糸にする、新内外綿が昨年スタートした、繊維再生システム「彩生」を活用する繊維企業が増えている。

 同社がこのシステムを事業化して1年半ほどだが、活用する顧客は国内外に拠点を持つ商社、生地メーカー、アパレルなど多岐にわたる。最近では著名な国内アパレルブランドでも、このシステムから生まれた“再生糸”を製品に使うところが出ている。

 今月22日付で就任した田邉謙太朗新社長は彩生の広まりの背景について「環境保全やSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みが企業活動に重要な意味を持つようになったこと」を挙げ「こうした中で、消費者も自分が購入する製品がどのような過程を経てできるのかに関心が出てきているのでは」と話す。

 同社の繊維のアップサイクルシステムは編み物、織物、不要となった繊維製品の在庫でも可能。新内外綿の紡績子会社、ナイガイテキスタイル(岐阜県海津市)が引き取り、反毛して紡績する。

 相手先の要望に合わせて新たなわたを混ぜ、アップサイクル糸にアレンジを加えることもできる。例えば、オーガニックコットンを入れたり、生成の反毛わたに色のついたわたを新たに入れることで、回収したものだけではできない新たな色合いや物性の糸も作れる。本来は捨てるはずの繊維を再生し、再び彩り豊かな糸にする。これが「彩生」の名称の由来でもある。

〈森林保護でキャンペーン/廃棄衣料のリサイクルも開始/レンチング〉

 レンチングは、製造する再生セルロース繊維「テンセル」が木材を原料としたサステイナブル素材であることを改めて打ち出す。そのために会員制交流サイト(SNS)を使ったキャンペーン「メーク・イット、フィール・ライト」を開始した。廃棄衣料のリサイクルにも取り組む。

 キャンペーンでは、消費者がテンセル使いウエアなどエコファッションを着用した写真や動画を「インスタグラム」や「ティックトック」に投稿し、環境負荷低減に貢献することを宣言する。これをレンチングがデジタル認証し、SNS投稿1回ごとに協力関係にあるNGOを通じて植林1本を実施する。テンセル使いウエアを消費するごとに森林資源保護に貢献できる仕組みを通じて、テンセルが管理された森林資源を原料にしていることを改めてアピールする。

 このほどスウェーデンの木材パルプ大手、ソドラと提携し、廃棄衣料から分離した綿を原料にしたパルプ「ワンスモア」も共同開発した。これを原料にレンチングが「テンセルリフィブラ」を生産する。両社の連携により、ソドラは2025年には年間2万5千トンの廃棄衣料をパルプへと処理することを計画する。

〈温室効果ガス削減に注力/数値目標掲げ達成めざす/YKK〉

 YKKは、気候イニシアティブ(JCI)が企業、自治体、団体、NGOなどに呼び掛ける、2030年の温室効果ガス排出削減目標と再生可能エネルギー電力目標の引き下げを支持する。日本政府に向けて現在の日本の削減目標(13年比26%)を45%以上にすることを求めるメッセージにも賛同した。このメッセージは4月19日に、JCIから日本政府に提出された。

 同社は50年までに「気候中立」を達成するための持続可能性目標である「YKKサステナビリティビジョン2050」を掲げる。その中で「気候」「資源」「水」「化学物質」「人権」の五つのテーマで目標を設定し、それぞれに関連する10項目のSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて取り組んでいる。

 このうち気候のテーマについては、自社やサプライチェーンで二酸化炭素(CO2)をはじめとした温室効果ガスの排出量削減を目指す姿勢を示した。30年までに、自社の燃料の燃焼などによる温室効果ガスの直接排出、自社が購入した電力・熱の使用による温室効果ガスの間接排出で50%削減(18年比)、サプライチェーン全体の温室効果ガスの間接排出を30%削減(同)することを目標にしている。

 この温室効果ガスの削減目標が、国際的な団体「SBT イニシアチブ」から、気候変動による世界の平均気温上昇を産業革命前と比較し1・5℃未満に抑えるという「1・5度目標」の認定を取得した。

 大谷裕明社長はサステイナビリティーに関して「最も尊いステークホルダーは自然と環境だと考えている。YKK精神〝善の巡環〟のもと、本業を通じた持続可能な社会への貢献により一層取り組んでいく」という方針を打ち出す。

〈環境に配慮した中国新工場/社会課題の解決に力を注ぐ/JUKI〉

 JUKIは2020年11月、中国・河北省廊坊の経済技術開発区に建設した新工場の操業を始めた。

 同工場は、組み立てから梱包(こんぽう)までの工程の流れに沿ったラインが構築され、一連の工程に合わせた無駄のないレイアウトになっている。搬送時間の短縮や仕掛かり台数の削減を実現した。AGV(自動搬送装置)による塗装から組み立てへの塗装完成品の供給、部品倉庫からの組み立てへの部品供給で無人化を図った。

 塗装工程でも上塗り塗装をロボット化した。下塗り塗装については、有機溶剤シーラーを環境に優しい水溶性シーラーに変更し、有機溶剤に含まれるVOCsの排出量を1台当たり12・5グラム、全体で40%を削減した。この取り組みにより、LNGガス使用量の削減にもつながった。生産性向上と使用エネルギーの抑制という二つの大きな課題を同時に克服した。

 さらに、天然ガスの利用、既存設備の改造、低NOx型ボイラーの採用、汚水処理能力(質)の大幅な向上など、環境負荷低減に関する多様な設備を導入した。環境に配慮した生産活動を推進する次世代型の工場を目指す。

 中国新工場のこうした取り組みは、JUKIが掲げる「SDGs(持続可能な開発目標)経営」の重点課題の一つである「環境負荷の低減」に該当する。

 同社は20年4月にSDGs推進室を設け、社会課題の解決をビジネスチャンスと捉えて事業領域の拡大に努める方針を打ち出す。

 ステークホルダーと自社の重要度を軸に分類したマテリアリティマップをまとめた。環境負荷の低減のほか、雇用機会の創出、さまざまな人材の社会参画推進、衣料廃棄ロス削減の実現、電子産業の生産性向上による技術革新支援、労働安全衛生の確保を重点課題として絞り込んだ。

〈2050年にカーボンニュートラル/「クルー21プロジェクト」を推進/ミズノ〉

 ミズノは企業活動が地球環境にもたらす影響を認識し、1991年から経営と一体となった地球環境保全活動「クルー21プロジェクト」に取り組んできた。

 現在はSDGs(持続可能な開発目標)17項目のうち、環境を最重点課題に位置付け、次いで健康への寄与、人間性の尊重を重視する取り組みに力を入れている。

 当面、温室効果ガスを30%削減することを目標に掲げており、そのために生産工程における「製造工程を抜本的に見直していく」。

 さらに、生産工場で使用するエネルギーを再生可能エネルギーへと切り替えていき、最終的には2050年にカーボンニュートラルの実現を目指している。

 環境配慮型素材への転換にも積極的に取り組んでいる。

 佐川急便には07年から18年までの12年間で約213万着のユニフォームを供給してきた。この取り組みでは、500ミリリットルのペットボトル約1000万本から再生したポリエステルでユニフォームを商品化した。

 サプライヤー契約を結ぶ国内の競技連盟、協会、選手に提供するユニフォームに21年モデルからダイバーシティコンセプトを導入するとともに、ウエアにペットボトル再生ポリエステルを導入している。

 シューズでもエコ化を進めている。フラッグシップ商品の「ウエーブライダー24」に植物由来原料から作られたウエーブプレートを搭載した。

 一般向けに店頭やネット経由で販売するウエアでも今後、「エコ素材の採用を加速したい」としており、21年に完成させる新研究開発拠点を駆使し、耐久性、機能性を担保しながら環境への負荷を低減するための素材開発に重点化する。