不織布新書21春(7)
2021年03月18日 (木曜日)
〈ヤギ/ナノファイバーマスクが好評/非衣料分野開拓方針に一役〉
ヤギでは、ナノファイバー使いのメンブレン(薄膜)、「ナノクセラ」のマスク「エアクイーン」の販売が拡大している。3次元繊維構造体「エンカ」といった資材商材も徐々に採用を増やす。
エアクイーンは、新型コロナウイルス禍で同商品が持つ高通気性やウイルス遮断力、着け心地の良さ、高いフィット性などが複数のネット通販サイトで評判になり、売れ行きを伸ばす。テレビ番組に取り上げられるなど好評で、取り扱うドラッグストアが急増。医療従事者にも寄贈し高い評価を得た。今後はネット通販や小売店などへの卸販売とともに、医療機関への直接販売にも力を入れる。
ナノクセラは今年1月、米国のハイテク技術見本市「CES」のオンライン展にも出品した。世界中のメーカーから同商品サイトへのアクセスが殺到し、現在はそのフォロー対応やオンライン商談を続けている。今後も「商品価値がきちんと伝わる分野に訴求していく」とし、社内連携も図りながら展示会出展など提案を積極化する。
3次元繊維構造体のエンカは昨年、初めて人工芝の排水材として採用され、敷設を終えた。従来の排水材よりも機能が高く、作業性にも優れる点が評価されたと言う。他の人工芝メーカーにも提案しており好反応を得ている。
〈ダイニック/家電フィルター関連順調/抗ウイルス品なども提案〉
ダイニックは、自動車内装材とカーペット・インテリアなどを軸に不織布事業を展開している。新型コロナウイルス感染症の拡大でイベント中止が相次いだことなどからカーペットは厳しい状況となった。一方で家電フィルターなどは伸長しており、拡大している分野・用途の需要を取り込んでいく。
2020年度の同社不織布販売では、展示会・イベント用ニードルパンチカーペットが苦戦した。東京五輪・パラリンピックで首都圏の大規模展示会場が使えない状況だったところに、新型コロナ禍による展示会やイベントの中止が重なった。5、6月は厳しかった自動車関連は比較的早い段階で回復を見せた。
順調に推移したのは家電フィルター関連で、前年と比べて大幅な伸びを示した。
特に加湿器用フィルターの拡大が顕著だった。新型コロナ感染防止対策や、外出自粛に伴うイエナカ時間の増加が加湿器需要を下支えした。同社は90年代から家電フィルターを手掛け、品質などが認められた。
家電フィルター分野を21年度も伸ばすとし、新規ユーザーへの働き掛けも続ける。抗菌・防カビに加え、抗ウイルスタイプの提案も進めている。インクジェットプリントで意匠性を高めた商品の提案も強化。自動車内装材だけでなく、文具やインテリア関連への展開にも力を入れる。
〈ヤマシンフィルタ/マスク以外にも広げる/独自ナノファイバーで〉
建設機械用油圧フィルター大手のヤマシンフィルタは、独自開発の合成高分子系ナノファイバー「ヤマシンナノフィルタ」の用途を広げる。マスクでは医療用の本格化を見込むほか、エアフィルターの展開も予定。中期的にはマスク以外の医療資材や、自動車資材の開発・販売にも取り組む。
ヤマシンナノフィルタはメルトブロー不織布(MB)方式によるナノファイバーで、100ナノメートル~10マイクロメートルまで用途に合わせて繊度を細かく設計できるのが特徴。さらにMBとして広幅に当たる2メートル幅の製造設備を持つ。
マスクは加工機を導入し、2020年5月に自社ブランドで家庭用マスクを発売した。米国の防じんマスクの「N95」規格と同等のフィルター性と漏れ量を実現し、呼吸のしやすさやなど快適性にも優れる。
医療用マスクの本格化も予定する。3月末には日本の防じんマスク規格「DS2」認定も取得予定だ。井岡周久取締役専務執行役員は「マスクは量産化体制の遅れもあって、20年度(20年3月期)売上高は10億円にとどまる見通し。その面で21年度が本格化初年度」と事業拡大に意欲を示す。
ヤマシンナノフィルタの生分解性ポリマーの活用や中空タイプなど新商品開発にも取り組む。こうした新商品の投入と、さまざまな特徴を生かした用途開拓を行い「次世代の材料として活用の幅を広げていきたい」考えだ。
〈三菱ケミカル/「XAI」の量産急ぐ/吸音材がターゲット〉
三菱ケミカルはこの間、超極細タイプのアクリル短繊維「XAI(サイ)」で自動車関連資材用途に参入するための開発、ユーザー開拓を精力的に進めてきた。吸音材向けの販売を「早ければ2022年度後半から立ち上げたい」としている。
サイは0・1デシテックス(3マイクロメートル)の超極細アクリル。レギュラーアクリル並みの耐薬品性、耐熱性を持つほか、優れた吸音性も発揮する。
元々、ショートカットファイバーをオイルフィルターやセパレーター向けに販売してきたが、吸音性能を生かせる用途として自動車用吸音材に注目。2017年の「人とくるまのテクノロジー展」に初めて出展して以降、開発、販促を本格化させた。
展示会では優れた吸音性能が注目されたと言い、国内外で開かれた自動車関連の展示会へも継続的に出展するとともに、フェルトメーカーとの共同開発に取り組んできた。
主にエンジンルームと車室との境目に使われるダッシュインシュレーター、床下に搭載されるフロアインシュレーターをターゲットとする開発に取り組んでいる。搭載される部位や客先からのニーズに応じてサイを5~数10%混入しフェルトを形成する。
走行時に大きな音を発生させない電気自動車が今後、普及するに伴い、同社は「車室内の音環境を向上させようとするニーズが高まる」と見通している。
〈アンビック/成長軌道復帰の年に/中国で高機能フィルター生産へ〉
ニッケグループのフェルト・不織布製造会社、アンビック(兵庫県姫路市)は2021年11月期を新型コロナウイルス禍から回復し、成長軌道に復帰する年度と位置付ける。そのために中国での高機能フィルター生産・販売への道筋を付けるほか、自動車用途で海外市場の開拓に力を入れる。
同社の20年11月期業績は新型コロナ禍の影響で4~6月に全分野で受注が大幅に落ち込んだが、7月以降は主力の不織布「ヒメロン」が自動車向けで回復基調となった。楽器向けフェルトも8月ごろから回復に向かう。このため通期で売上高は約20%減少したものの、利益の落ち込みはそれよりも少なかった。植原盛樹社長は「これまで取り組んできた事業構造改革の成果が出ている」と話す。
21年11月期は再び成長軌道に乗ることを目指す。その一つがポリテトラフルオロエチレン繊維を使ったフィルターバグ(ろ過布)「アドミレックス」の中国生産・販売。昨年12月から中国で工場建設が始まり、22年1月には稼働を予定する。ごみ焼却場向けに市場開拓に取り組む。
ヒメロンは自動車向けでニッケグループの産業資材商社、エミー(大阪市中央区)と連携し、北米など海外市場の開拓を進める。開発事業として樹脂など繊維以外の材料を活用した商品開発にも取り組む。
〈倉敷繊維加工/重金属捕集シート開発/強みの加工技術で用途開拓〉
クラボウグループの不織布製造卸、倉敷繊維加工(大阪市中央区)は強みである加工技術を生かして用途開拓を加速させている。このほど住友大阪セメント(東京都千代田区)と重金属吸着シーツ「マジカルフィックスシート」を共同開発した。
マジカルフィックスシートは、重金属イオンの吸着・不溶化性能に優れる住友大阪セメントの機能材「マジカルフィックス」を倉敷繊維加工の加工技術で不織布に担持させたシート。工事現場で発生する採掘くず・残土の仮置き場の下に敷設することで、溶出する重金属イオンをシート内に捕集・固定化する。雨水などを通して重金属イオンが周辺土壌に流出し、汚染することを防ぐ。
新型コロナウイルス禍に対応する新商品にも取り組む。その一つが抗ウイルス加工剤「イータック」を付与したマスク用不織布原反と製品。特に製品は自社工場に製造設備を導入し、昨年10月から生産を開始した。自社サイトなどを通じてB2Bでの販売を進める。
2020年度(21年3月期)は新型コロナ禍の影響で衣料用芯地が不振もフィルター分野は空気清浄機向け、自動車キャビンフィルター向けともに好調に推移する。こちらも抗ウイルス加工への引き合いは多い。こうした流れを受けて、引き続きフィルター分野に力を入れ、さらに加工技術を生かした新商品で用途開拓に取り組む。
〈タピルス/新型コロナ禍でも順調/商品力向上へR&D強化〉
タピルス(東京都港区)は、メルトブロー不織布(MB)を製造・販売している。新型コロナウイルス禍でマスク用需要が高まったほか、イエナカ時間の拡大でコーヒーフィルターやワイパーなどの家庭用品用途も伸びた。液体およびエアフィルター用やリチウム一次電池用セパレーター向けも順調だった。
新型コロナ禍が続く中で、2021年もマスクの需要は大きく落ちないと予想する。昨年はマスクの需給が世界的に逼迫(ひっぱく)したため、特に前半はマスクに集中したが、今年はフィルターやリチウム1次電池用セパレーターを含めてバランスを取り、多くの分野で供給責任を果たす。
日本とタイの2拠点はフル操業だが、MBは日本国内でも新規に参入する企業が出てくるなど、競争は激しい。その中で存在感を発揮するには商品力をこれまで以上に高めることが不可欠と強調。商品力強化のポイントとなる研究開発の人員も増やしている。
商品力強化の一環として展開品種を増やす。現在は0・3マイクロメートルという極細のポリプロピレン(PP)を使った製品、40マイクロメートルの極太繊維径の製品、耐熱性や耐薬品性に優れるポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂を使ったMBなどをラインアップ。0・3マイクロメートル以下のPPを使ったMBの開発を目指し試作中である。
〈金井重要工業/研磨材加工品を本格化/21年度からの新中計で〉
金井重要工業(大阪市北区)は2021年度(22年3月期)からの新中期3カ年計画の最終年度に不織布売上高で20年度比数%増を目指す。そのために、プリント配線基板用研磨材の加工品販売の本格化に全力を挙げる。
同社は自動車内装材、エアフィルター、たわしなどの生活資材、研磨材向けを主力に、ケミカルボンド不織布(CB)、サーマルボンド不織布、ニードルパンチ不織布などを製造販売する。
研磨材は研磨粒子加工を施したCBを供給するが、ホイール状の加工品の開発にも取り組んできた。原料選定から不織布製造、製品加工まで一貫で行うのが特徴だ。「需要家ごとの微妙な要求性能に合わせることに手間取ったが、新中計中で更に開発を進めながら、マーケティング活動を強化する」(安達隆久取締役不織布事業部長)ことで、本格販売に結び付ける考え。その一環で、19年に続き国際電子回路産業展「JPCAショー2021」(5月26~28日、東京ビッグサイト)に出展し、加工品の改良版を訴求する。
20年度は自動車内装材が前期比1桁%減収もエアフィルターはほぼ横ばい、たわしなど生活資材は1桁%増収で着地する見通し。21年度からの新中計では既存用途は大きな変動はないとして、加工品販売など新規事業で上積みを狙う。同時にエアフィルターなどは海外市場の開拓も視野に入れる。