不織布新書21春(3)

2021年03月18日 (木曜日)

〈旭化成/強固なビジネスモデルへ/独自ポリ乳酸SBに注力〉

 旭化成のスパンボンド事業部は2021年度(22年3月期)を「将来像を描く上で最重要な1年」(三枚堂和彦スパンボンド事業部長)と位置付け、強固なビジネスモデル構築に取り組む。その一環でポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン各スパンボンド不織布(SB)の国内生産拠点であるスパンボンド工場(滋賀県守山市)の改革も進め、競争力を高める。

 スパンボンド工場で生産する資材用SBではポリ乳酸(PLA)を原料とする「エコライズ」に力を入れる。世界的なサステイナビリティーの流れに対応したエコライズは生分解性のほか、熱プレス機による成型加工も可能。通常、PLA使いの硬くなりがちな欠点も解消し、ソフトで低目付も可能な点を訴求する。コーヒーフィルターなど飲料用や食品包装材向けが先行するが、マスク用も引き合いがある。

 衛材向けでは、タイのポリプロピレンSB製造子会社、旭化成スパンボンド〈タイランド〉(AKST)で今秋3号機(年産1万5千㌧)が立ち上がる。これによる販売増を目指す。3号機はソフト性を高めた新タイプも製造することからスペックインを進め、23年度にフル稼働させる。

 ポリプロピレンSMS(SBとメルトブローの複合不織布)を製造していた延岡エルタス工場(宮崎県延岡市)は19年9月に発生した竜巻で大きな被害を受け、昨年9月に撤収した。

〈ユニチカ/独自原反の開発相次ぐ/コロナ後にらみ成長戦略〉

 ユニチカ不織布事業部は2021年度、高機能を特徴とする独自素材の拡販を計画するとともに、新型コロナウイルス禍の後を見据えた成長戦略の策定を急ぐ。

 市場は「コロナ以前の状態には戻らない」と見ており、このほど立ち上げたアメーバ的な組織の活動を強化し、コロナ後も成長路線を維持するための戦略を策定する。

 「世代を問わず事業部内の精鋭を集めた」組織を編成しプロジェクト的な取り組みに着手。市場から求められるニーズを精査した上で成長戦略に反映させる。

 20年度は機能性を付与した独自素材の販売が滑り出している。湿潤養生シート「アクアパック」を使えばコンクリートの品質を向上させることや優れた作業性が業界に浸透し、ゼネコンからの引き合いが増えている。

 世界一太い糸で商品化したという「ディラ」はフィルター向けで、抗ウイルス、抗菌、防ダニといった六つの機能性をもたせた「ユニダイヤ」はさまざまな用途で使われ出したとしている。

 1月のオートモーティブワールドには、プラスチックのような硬い板状のスパンボンド「マリックスAX」シリーズを出展。各種モビリティー向けの外装部材、防災グッズへ売り込んでいく。

 スパンレース「コットエース」は20年度は苦戦したものの、生活資材を中心に新しい企画の話が進んでいるため、21年度は前年並みの販売量確保を目指す。

〈東洋紡/「サウンドブロックネオ」「エアリア」新開発/水平連携で相乗効果〉

 東洋紡はグループ内の水平連携を本格化させ、新規商材の開発、新規用途の掘り起こしのための取り組みに力を入れている。ポリエステルスパンボンドを軸とする「サウンドブロックネオ」「エアリア」という2新素材を開発。4月から販売を開始する。

 同社は2019年4月に不織布拡大戦略部を発足させ、20年4月に不織布事業開発部に改称。この間、呉羽テックやユウホウなどとの共同開発を通じ新規原反の創出を急いでいた。

 このほど自動車用吸音材向けに販売してきた「サウンドブロック」を改良した同ネオを開発。スパンボンドと別の不織布を貼り合わせた積層構造を持たせることで、サウンドブロックの半分の厚さで同じ吸音性を発揮する高性能を実現したという。

 エアリアは抗ウイルス性能を発揮するポリマーを原反表面に反応固着させた安全・衛生素材。産業資材や工業資材向け。防護衣料向けの開発にも取り組んでいる。

 重金属イオン吸着シート「コスモフレッシュNANO」では、今年1月から京都大学との共同研究をスタートさせており、土木向けの施工・設計マニュアルを作成し、今後の普及・浸透につなげたい考え。

 コスモフレッシュナノを使えば土木工事の際に発生した残土から流出する有害な重金属イオンなどを含んだ水を吸着し土壌汚染を防止することができる。

〈小津産業/製造商社の機能を強化/30年5月期に200億円へ〉

 小津産業(東京都中央区)は、不織布の製造機能を持つ商社としての存在感を高める。子会社のディプロ(愛媛県四国中央市)に建設した新工場の稼働を昨年2月に開始したほか、今年に入って家庭紙・日用雑貨販売子会社の株式80%を譲渡した。不織布事業の成長に集中し、2030年5月期の売上高目標200億円に向けて進む。

 ディプロはウエットティッシュなどの不織布製品の製造・販売を行う。28億円を投じて最新の防爆設備などを導入し、高濃度アルコール製品の生産ができるようになった。陽圧管理によって化粧品や医薬部外品などの高付加価値製品をよりクリーンな環境で生産することを可能にした。

 除菌・消毒製品の生産に加え、コンシューマー分野で拡大が期待できるフェースマスク製造設備も設置した。そのほか、東京大学との産学連携で開発した放射性セシウム除染布「五大力」を新規事業として提案を進め、シビアアクシデント対策商品として採用されている。これらは海外展開にも力を入れる。

 同社不織布事業の20年5月期売上高は135億円。自前での成長に加え、M&A(企業の合併・買収)を視野に入れながら、これからの10年間で65億円の増収を狙う計画。不織布分野は伸び代があるとし、到達は可能と強調する。営業利益率については10%の確保を目指す。

〈フロイデンベルグ・スパンウェブ・ジャパン/効率生産を徹底/100%使いエコを本格販売〉

 フロイデンベルグ・スパンウェブ・ジャパンは2021年度から新しい中期3カ年計画をスタートさせる。中計では、日本でのシェア維持を強化するとともに、東南アジアに進出した日系シューズメーカーへの販促を強化し拡販を目指す。

 20年度にドイツ本社が台湾工場で、これまでの年産2万トンを同3万1千トンへと増強する設備投資を実施しており、5月から新設備を稼動させた。

 新型コロナ禍でアジアのスパンボンド市況は4月まで低迷を続けていたが、それ以降、中国の復調に支えられ市況も回復。台湾工場もフル稼動に転換したという。

 21年度は、切り換えロスの低減などで効率生産を実現し「アウトプットの最大化を図る」ことを最重点方針に掲げている。

 同社はPET再生ポリエステルによる豊富な商品ラインを自社の強みに位置付けており、70%混を主にカーペット向けに、80%混を主にシューズ向けに販売している。

 既に100%使いの原反を完成させており、国内外の顧客への提案・紹介に力を入れ、21年度から100%使いの販売を本格化させる。

 本社が英ロー&ボナー社を買収したことでポリエステル・ナイロンのスパンボンド「コルバック」が戦列に加わったため、コルバックによる新規用途の掘り起こしも重視している。

〈三井化学/地産地消が重点施策の一つ/タイは高付加価値品強化〉

 三井化学は、地元生産品を地元で消費する地産地消を、2021年度の方針の一つに掲げる。子会社のサンレックス工業(三重県四日市市)と名古屋工場で国内需要を取り込み、タイのミツイ・ハイジーン・マテリアルズ〈タイランド〉(MHM)は生産品目を高付加価値不織布に切り替えていく。

 国内不織布市場は、新型コロナウイルス禍によってマスクやアイソレーションガウン用のスパンボンド不織布などにタイト感が出た。輸入が滞ったことからマスクメーカーなどは国内での素材調達強化を図っており、その動きに応じる。それにより国内2拠点の稼働率をさらに高める。

 注力している産業材用途も着実に増えている。一層の成長のため、研究・開発の人員を増やす。

 タイについては競合他社の動きも活発化しているため、MHMで生産アイテムの高度化を図る。その一つが薄肉の中空構造を持つ柔軟高強度不織布「エアリファ」だ。まずは1ラインをフル稼働にし、早い段階で2ライン体制とする。衛材用途などに積極提案する。

 同社は中国の衛材用不織布製造・販売会社である三井化学不織布〈天津〉の売却を決め、中国の不織布製造会社、必得福無紡布に持ち分の100%を譲渡する契約を交わした。今後、三井化学グループの不織布事業は日本とタイの2拠点に資源を集中する。

〈旭・デュポンフラッシュ スパンプロダクツ/「タイベック」の新用途探索/避難用寝具などを提案〉

 旭・デュポンフラッシュスパンプロダクツが展開している「タイベック」はフラッシュ紡糸不織布だ。通気性や透湿性、耐水性、軽量、強度といった特徴を持ち、建築資材から防護服、医療用滅菌包材、グラフィック・印刷用まで幅広い分野で用いられる。その深化を図るとともに、新用途の開拓にも取り組んでいる。

 極細ポリエチレン繊維を高圧で紡糸し、動いているベルト上にクモの巣状に積層して熱と圧力で結合する。紡糸速度と結合条件を変え、紙のような風合いを持つハードタイプと布のような肌触りのソフトタイプを製造する。コーティング、ラミネーションなどとの組み合わせもできる。

 建築資材や防護服、医療用滅菌包材などが主力用途。新型コロナウイルス禍に見舞われた2020年度は、防護服向けが好調に推移したものの、建築資材向けが減少し、手術の減少で医療用滅菌包材も伸び悩んだ。21年度は防護服の伸長に期待するとともに、建築資材の回復も見込む。

 新たな用途では、緊急避難用寝具(寝袋)の提案を強めている。タイベックソフトタイプとアルミ蒸着を組み合わせた「タイベックシルバー」を使用しているため、体温を逃がしにくい。軽量で睡眠中の圧迫感も小さい。そのほかグラフィック・印刷包材の新用途探索、エコバッグとしての提案などを進める。

〈大和紡績/除菌用途を継続して強化/グループでSDGs訴求〉

 大和紡績の合繊事業本部は、スパンレース不織布(SL)の販売で、堅調に推移する除菌用途(ワイパー)に継続して力を入れるとともに、勢いを欠いているコスメティック分野の巻き返しを図る。同時に環境対応も強化し、ダイワボウレーヨンとの協業での商材提案も加速する。

 合繊事業本部の2020年度のSL販売は、新型コロナウイルス禍もあって除菌用途が堅調。制汗シートやフェースマスクをはじめとするコスメティック分野は厳しかったが、全体としては前年の販売を上回る水準で推移している。国内の工場についてもフル稼働が続いている。

 除菌市場は今後も高位安定が続くとみる。ただ安価な中国品の流入も考えられ、付加価値品の投入で差別化するとし、柄の付与で拭き取り性能を高める。巻き返しを狙うコスメティック分野については細繊度レーヨンの活用による柔らかな風合いを訴求するほか、新規顧客開拓を進める。

 環境対応ではダイワボウレーヨンとの協業深化に加え、播磨工場(兵庫県播磨町)の原綿を積極活用し、グループでSDGs(持続可能な開発目標)に取り組んでいることを広く伝える。ダイワボウレーヨンの素材では海洋分解性を持つ「e:CORONA」(エコロナ)、撥水(はっすい)レーヨン「エコリペラス」などを用いる。