2020年秋季総合特集Ⅳ(3)/トップインタビュー 東レインターナショナル/地産地消の重要性が増す/社長 沓澤 徹 氏/中経の方針と施策を着実に

2020年10月29日 (木曜日)

 東レインターナショナルは、2021年3月期が初年度の中期経営課題に取り組んでいる。最終年度にグループで売上収益1兆円への到達を目標にするが、中国市場やASEAN地域などでの伸長に期待をかける。沓澤徹社長は新型コロナウイルス禍で「地産地消が重要なポイントになった」と強調し、中経で掲げた方針と施策を着実に進める。

  ――新型コロナとの共存の中で、日本の繊維産業はどのように変化しますか。

 まずグローバルの観点から話をすると、これまで以上に地産地消が重要視されてくるのではないでしょうか。現地に進出しながら販売先・取り組み先を探していくというビジネスを推進しないと状況は厳しくなっていきます。こうした施策は以前から多くの企業が取り組んできましたが、加速していかないと取り残されると実感しています。

 日本の繊維産業に目を移すと、高機能や高いスペックが求められる用途を中心に、日本企業ならではの品質管理の優位性などを生かしていくことが重要だと思います。そのような意味では産業資材や繊維資材分野の拡充はポイントと言えそうです。サステイナビリティーの流れも変わることはありませんので、リサイクルやバイオ素材提案に取り組むことが肝要です。

  ――地産地消の“場所”は中国になりますか。

 中国市場は引き続き成長していきますが、リスクも残っています。新型コロナとの共存、もしくは収束後でも米中貿易摩擦という問題がその最大のリスクと言えます。それらを考えるとチャイナプラスワンは不可欠であり、やはりASEAN地域から目をそらせません。マレーシア、タイ、インドネシアは成長を続け、ベトナムをはじめとする新たな候補も控えています。

 次がインドやバングラデシュでしょう。バングラデシュについては、まだ製造拠点としての位置付けが強いですが、インドは市場としても有望です。東レインターナショナルも同国に拠点を持ち、事業を行ってきました。新型コロナ禍がなかったとすれば、さまざまな事業で形が見えるようになっていたと思います。

  ――そうした状況下でチャンスはありますか。

 新型コロナ禍で厳しい状況ではありますが、新しい需要も生まれています。われわれはあまり手掛けていませんが、マスクがそうですし、防護服関係もそうでしょう。在宅勤務の増加で、ビジネスカジュアルウエアの市場が拡大することも考えられます。トータルで見れば繊維はまだ成長産業であり、地産地消をうまく組み込めれば好機は幾つも出てきます。

  ――経済環境はどのように捉えていますか。

 20年の7~9月が一番の底だと考えています。10月以降は明るい兆しが見え始め、徐々に回復が進み、22年3月期にはかなりの水準に戻ると予想しています。今はしっかりと脇を固め、次につなげるための取り組みが必要です。

  ――21年3月期が初年度の中期経営課題を推進しています。

 中経では三つの基本方針と四つの重点施策を掲げました。基本方針の一つは、東レ各事業本部と連携した成長分野、成長国・地域でのグローバルな事業拡大です。そのほか、国内・海外一体運営の深化・高度化の追求、一貫型事業の強化と拡大に取り組みます。重点施策は、重点顧客との取り組み強化、顧客起点のソリューション提案強化、サプライチェーンの深化と延伸、体質強化と効率経営の追求です。

 これらを着実に推し進めることで最終の23年3月期に東レインターナショナルグループで売上収益1兆円を目指します。リスクの話をしましたが、中国の潜在力には期待をかけています。東麗国際貿易〈中国〉を基点に、スポーツをはじめとする機能性を生かせる衣料品や産業資材分野で提案を強めます。

 中国以外ではベトナムやバングラデシュでサプライチェーンの高度化を図っていきたいと考えており、生地製造業などとの連携を深めます。現状は主に日本のスポーツアパレル向けの製品を生産していますが、これからは海外スポーツアパレル向けの製品も増やしたいと考えています。そのほか、トルコからの輸出も増やしていきます。

〈私の新常態/時間を決めてめりはり〉

 社長就任前は香港に赴任していた沓澤さん。日本に戻ったのは6月で、PCR検査も受けた。判定は陰性だったが、その後もウイークリーマンションでの生活を余儀なくされ、当然出社はできず、リモート会議などを行った。現在もリモートで各拠点をつなぎ、出張はできなくてもコミュニケーションはばっちり。時間を決めるので「会議にもめりはりができた」と話す。

〈略歴〉

 くつざわ・とおる 1982年東レ入社、2011年東レマイクロファイバー事業部門長、16年東レインターナショナル取締役、19年6月東レ常任理事、同年7月トーレ・インダストリーズ〈香港〉社長などを経て、20年6月に東レインターナショナル社長に就いた。