2020年秋季総合特集Ⅴ(8)/トップインタビュー 双日ファッション/当社モデルは新時代に適合する/社長 由本 宏二 氏/下半期はより一層厳しくなる

2020年10月30日 (金曜日)

 双日ファッションの2021年3月期上半期は、前年同期比減収減益だった。切り売り向け生地販売がマスク特需もあり堅調だったが、業界の基調と同じくアパレル向け生地販売は新型コロナウイルス禍を受けて大苦戦を強いられた。今後、来るべき変化への対応力を引き上げるが、変化させないものもある。現状と今後を聞いた。

  ――新型コロナ禍を契機に日本の繊維産業はどのように変化していくと考えますか。

 新型コロナ禍によって、元々繊維業界が抱えていた問題がクローズアップされています。大量生産・大量廃棄というビジネスモデルです。これを是正しようという動きは新型コロナが収束して以降も続くでしょう。

 必要なものを必要な時に必要なだけ作る、買う、という時代になっていくと思います。大量生産でコストを抑えるというビジネスモデルがなくなるとは思いませんが、余剰に作って供給して、残ったら廃棄するというビジネスモデルが減っていくのは間違いないでしょう。

 当社は生地を備蓄販売しており、少量から小口で供給する体制を整えています。新しい時代に適合したビジネスモデルだと自信を持っています。売り上げを作るために何でもかんでも備蓄するというわけではありません。売れるものをしっかりと持つということです。これは誰にでもできるビジネスモデルではありません。当社には長年にわたって培ってきたノウハウがありますし、今後の新しいビジネスモデルはプロとして力量の発揮しどころだと考えています。

 仕入れ先への発注を抑えるという方針も持っていません。もちろん販売の増減によって左右される要素ではありますが、私を筆頭に当社では、お世話になっている仕入れ先に「どれだけ発注ができているか」を常にチェックする意識と体制ができています。

  ――今上半期(2020年4~9月)の業績は。

 売り上げ、利益ともに前年同期比減少しましたが、出荷数量はほぼ横ばいでした。切り売り向けは新型コロナ禍のマスク特需もあって拡大しましたが、最大販路である一般アパレル向けが落ち込みました。減収幅で最も大きかったのは輸出です。4、5月は最悪の状況でした。手芸・切り売り向けや資材向けは国内と同様に堅調ですが、アパレル向けは今も苦戦しています。

  ――中国法人の商況はいかがですか。

 第1四半期(20年1~3月)は新型コロナの影響で大きく業績も落ち込みました。4月からはほぼ前年並みに戻っていますが、第1四半期の落ち込みは補填(ほてん)できていません。9月に出展したインターテキスタイル上海展は過去最多の入場者数となるなど盛況でしたので、今後の盛り返しに期待しています。中国内販はもっと伸ばせるし、中長期で必ず伸ばさなければいけない事業だと捉えています。

  ――下半期の事業環境見通しを。

 当社は綿素材を主力にしており、メインシーズンは春夏です。21春夏は20春夏で流通在庫が大量に滞留したため、良い要素がありません。21春夏の苦戦は避けられないと思います。当社の期で言いますと下半期ですね。まだ需要は続いているものの、切り売り市場がピーク時に比べると落ち着いてきていることも、下半期を楽観視できない理由の一つです。とはいえ、家庭用ミシンが売れたこととも関係して、巣ごもり消費が根付く可能性はあるとみています。その需要を取り込めるよう、開発、提案を強めていきます。

  ――今後の重点戦略は。

 “全方位外交”に変化はありません。さまざまな分野、業界に生地を売っていくという意味です。その上で、最大販路であるアパレル向けをまずは反転させたい。企画スケジュール、数量、生産背景などあらゆることが変化していきそうです。こうした変化を敏感に察知し、備蓄販売という当社の機能をアピールする。上半期のマスク特需も、変化を察知して社員が迅速に動いてくれたから獲得できたわけです。アパレル業界でも同じようなことができるはず。消費の回復を祈りつつ、その時々のベストを尽くしていきます。

〈私の新常態/当たり前を維持するために〉

 「何が起こるか分からないということを改めて感じた」と由本さん。もちろん新型コロナ禍のことを指す。新型コロナ禍では人の命が奪われ、消えた企業も。その中で会社、家族、友人らとの時間を「一日一日大切にしないと」と改めて心に誓う。当たり前のことが当たり前でなくなるのが厄災。「当たり前のことを維持するのは実は大変なこと」と気付いた。備蓄販売など双日ファッションの機能を維持するために、より一層努力する。

〈略歴〉

 ゆもと・こうじ 旧ニチメン時代含め双日で一貫して繊維事業を担当。中国、インドネシア駐在、繊維事業部テキスタイル課長などを経て、2010年4月に双日ファッションに出向、同年7月社長。専務、副社長を経て17年7月から現職。