2020年秋季総合特集Ⅴ(5)/トップインタビュー 瀧定大阪/本物のサステが台頭する/社長兼 スタイレム会長 瀧 隆太 氏/変化をチャンスと捉える

2020年10月30日 (金曜日)

 国内服地最大手のスタイレムも新型コロナウイルス禍に苦しんでいる。上半期(2020年2~7月)売上高は生地、製品ともに大きく落ち込んだ。そんな中、瀧隆太会長は「サステイナビリティーの意識が一気に高まる」と先を読む。環境に配慮した素材はもとより、廃棄など「無駄をなくす」ことが重要と言う。この傾向が「長い目で見ればビジネスチャンスになる」と力強い。展望を聞いた。

  ――新型コロナ禍が世界を変えようとしています。日本の繊維産業にはどのような変化が起こるのでしょうか。

 確実に言えるのは、サステイナビリティーの意識が一気に高まるということです。今年1月に今の世の中を想像できた人はいません。でも、新型コロナによって日常生活や価値観が大きく変わった。東日本大震災の際にも言われたことですが、本当に大切なこととは何なのかを皆が真剣に考えたのではないでしょうか。それが、サステイナビリティーの意識が一気に高まる理由です。

 当社が2016年に立ち上げた婦人服ブランドに「リト」というものがあります。先日開催された「楽天ファッションウィーク」で新作コレクションを発表しましたが、コンセプトはサステイナビリティーです。現状、繊維業界のサステイナビリティーと言えば、素材を軸にした打ち出しがほとんどです。これはこれで意義のあることですし当社も各種素材を取りそろえています。

 リトが今回コンセプトにしたのは、「長く着られる」というもの。一般的にコレクションというものは毎回新しい切り口や製品を発表するわけですが、リトではあえて昨シーズンに発表したものと新作とのコーディネートを提案しました。シーズンやトレンドが終わればすぐに廃棄するようなファッションには持続可能性がない。そう考えています。

 当社の強みである生地の備蓄機能もアパレルの適量生産を支えるサービスであり、サステイナビリティーに貢献するものだと言えます。もちろん、ニーズを察知して新しいものを打ち出していくという従来の作業は今後も続けますが、これからは無駄をなくすということにもっと脚光を当てたい。それが本当のサステイナビリティーだと思いますし、そうした価値観をビジネスに落とし込んでいくことが当社の使命の一つです。

  ――瀧定大阪がスタイレムを吸収合併した上で、来年2月から社名をスタイレム瀧定大阪に変更すると発表しました。

 グループ経営体制から元の形に戻します。グループ経営には自立化といったプラスの側面もありますが、遠心力が働いてしまい、力が分散されるというマイナスの面もあります。今は一体運営が適していると判断したということです。

  ――上半期(20年2~7月)の貴社事業はいかがでしたか。

 生地、製品ともに減収です。生地のほうがより減収幅が大きい傾向です。雑貨製品やマスク地販売は伸びましたが、本業を補填(ほてん)できる規模ではありません。

 海外事業も欧米のロックダウン(都市封鎖)の影響で苦戦しましたが、中国は回復基調です。2月、3月はさすがに落ち込みましたが、その後は回復基調に乗り、単月ベースでは前年を上回る月もあります。インターテキスタイル上海、同深センや個展でも今後の拡販に向けて非常に大きな手応えを得ています。

  ――今後の事業環境をどうみますか。

 非常に厳しいとみています。小売り、アパレルの川下の売り上げが落ち、その後、川中、川上へと同じ傾向が出ています。元の状態には戻らないでしょうから、新たな取り組み、ビジネスモデルを作っていく必要性を強く感じています。

 繊維産業は供給過剰に代表されるように以前からさまざまな課題を突き付けられていました。新型コロナによって旧来の手法や価値観が強制的にリセットされたと言えます。サプライチェーンの最適化が急務ですし、先述した無駄をなくすという本物のサステイナビリティーの追求を含め、この状況をチャンスにしていきたいですね。

〈私の新常態/ようやくの自宅時間〉

 社員にテレワークを推奨する立場もあり、自身も積極的に在宅勤務をこなす瀧さん。「自宅で過ごす時間が増えたことは個人的にはうれしい」。4年前に引っ越した今の家だが、社業が忙しすぎて家で過ごす時間がほとんど取れなかったためだ。会食が減ったことで仕事や事業環境のことを集中して考える時間も増えた。サステイナビリティー対応やデジタル化が急激に必要不可欠になった。「もう問題の先送りはできない」と気を引き締める。

〈略歴〉

 たき・りゅうた 1999年ソニー入社。2007年瀧定大阪入社。08年4月から瀧定大阪社長。18年4月から兼スタイレム会長。