繊維街道 私の道中記/朝日ファスナー 社長 福本 毅 氏(5)/常に先を見据えた行動

2020年10月30日 (金曜日)

  朝日ファスナーは2019年9月、「インターテキスタイル上海」に初出展した。日本での成長が期待できない中、中国市場の開拓を狙った。展示会中に起きたある出来事がきっかけとなり、足掛かりを得ることになる。

 海外販売のノウハウを当社は既に培っていましたし、中国でもウォルディスが人気だということも耳に入っていました。日本と比較すると中国のアパレル市場は巨大で勢いがありましたので進出を決めました。

 出展してみるとやはりウォルディスへの人気は高く、多くの来場者が当社のブースに押し寄せました。ただ、自分たちだけでなんとかなるだろうと思い、通訳を手配していなかった。身振り手振りで説明していましたが、なかなかうまくいきません。四苦八苦していると、それを見かねたある中国人女性が通訳を買って出てくれました。

 来場者への対応が一息ついた頃に彼女から、中国での販売を手伝いたいので、上海に連絡事務所を作りませんかと切り出されました。驚きました。不安も頭をよぎりましたが、話しているうちに、信頼できると思うようになりました。彼女の会社は縫製業を手掛けており、日本の大手繊維商社ともつながりがあるという。この機会を逃してはいけない。これを次へのステップにつなげたいと思い始めました。そこで食事に誘い、お酒を飲みながらコミュニケーションを深めました。

 その後彼女は、研修を兼ねて来日し、当社の東京展示会も手伝ってくれました。そして、同展の展示物を上海に持ち帰り、ショールームと事務所を昨年11月に開設しました。

  「自分は運が良かっただけ」と話す福本。しかし、その運を引き寄せたのは福本自身。常に先を見据え、勇気を振り絞って行動してきたからこそ、人との出会いがあり進むべき道が照らされたのだろう。

 国内のファスナー市場は縮小し、今ではメーカーは数少ない。当社にも昭和から平成にかけてさまざまな波が襲いましたが、常に5年先、10年先を見据えながら先手を打って動いてきたことが生き残れた最大の理由でしょう。

 今後も堅実でキラリと光り続けるモノ作りを続け、次の時代に向かってまい進していきます。ファッションに応じてファスナーをどのように変えていくかを考えながら、その時代に合わせたファスナーを作ります。新型コロナウイルス感染拡大で商況は厳しい面もありますが、真っ直ぐ前を向いて歩みを進めたい。

  福本にとってファスナーとは何か。それを問うと、力強い口調でこんな答えが返ってきた。

 衣料品のファスナーは絶対欠かせないもの。開けて閉めるというただの付属品ではなく、ファッションの一部だと言えます。その色やデザインは時代の変遷とともに変化を遂げてきました。以前は金属製しかありませんでしたが、樹脂製も登場し、多様な広がりを見せています。ファッション性、機能性から見ても、これから先、ファスナー以上のものが出てくることはないでしょう。

(この項おわり、文中敬称略)