繊維街道 私の道中記/朝日ファスナー 社長 福本 毅 氏(4)/見向きもされなかったのがうそのように
2020年10月29日 (木曜日)
ウォルディスは長い歴史を誇るものの、日本での知名度は低かった。
独自のファスナーを作るためにウォルディスの商標権を取得したのですが、実際に作って販売業者に持っていても誰からも相手にされませんでした。
当時、アメリカから輸入した古着を販売する小売業者が出始めていました。ビンテージファッションが芽生え始めていたのです。そのタイミングでウォルディスを立ち上げたのですが、「こんな訳の分からないファスナーはいらない」と言われる始末。でも、必ず受け入れられると確信していました。
そして1999年、福本はその確信が正しかったことを知る。東京ビッグサイトで開かれた展示会「ジャパンクリエーション」に初めて出展。ウォルディスを大々的に打ち出し多くの来場者を集めた。
ウォルディスを目当てに多くの人が当社のブースに訪れました。販売業者に見向きもされなかったのがうそのように、本当に人気急上昇という感じでした。展示会をきっかけに、それまで20社ぐらいしかなかった取引先は一気に100社以上に増えました。販売方法も、ディーラーを通さず、ユーザーへ直販する形に切り替えました。
今振り返ると「こだわりのファスナーと言えばウォルディス」という印象を与えることができたのが大きかったのだと思います。当時、ファスナーメーカーのほとんどが姿を消しており、大手しか残っていませんでした。しかし、ウォルディスの人気上昇とともに、アパレルやファッション関係者に「国内にはまだ、こだわったモノ作りをする朝日ファスナーがあるじゃないか」と知らしめることができました。
ウォルディスはその後も同社の看板商品として存在し続ける。福本は2016年、次の一手を打つ。レディース向けのファスナー「ラコニー」を独自開発し、発売した。
ウォルディスはメンズ向けのため、手薄だったレディース向けのファスナーにも力を入れようとラコニーを開発しました。艶やかな光沢によるエレガンスさが最大の特徴で、高級感を出すためスライダー部分にはあえてブランド名を入れていません。
ハイゾーンのアパレルや雑貨に採用されるなど実績もできつつあります。あるブランドでは100万円のバッグにラコニーを使っています。しかし、ウォルディスの知名度に比べたらまだまだ発展途上です。ウォルディスと肩を並べられるようなブランドに育て上げていきます。
ウォルディスとラコニー。この二つのブランドを軸に福本は中国市場への開拓を目指すことを決める。19年、「インターテキスタイル上海」に初出展するが、そこである女性と出会う。そして事態は大きく進展する。
(文中敬称略)