特集 スクールユニフォーム(5)/大手3社トップインタビュー「ウイズコロナ」に向けて

2020年10月23日 (金曜日)

 学生服業界は、昨年5月にトンボが瀧本(大阪府東大阪市)を子会社化し、大手“3強”時代の幕が開けた。制服モデルチェンジ(MC)校やスポーツの新規採用校の獲得は大手各社とも堅調だが、新型コロナウイルス禍に加え、コストアップの影響で減益基調が続いている。工場や物流関係での生産効率化に加え、本格的な値上げの実施など“ウイズコロナ”に向けた取り組みを進めつつある。

〈トンボ 社長 近藤 知之 氏/3部門設置で組織改革〉

 ――2020年6月期連結決算は売上高398億円(前期382億円=瀧本との合算)の計画でした。

 新型コロナ禍で買い替え需要などが減少し、売上高は384億5千万円となりました。それでも、昨年に瀧本を子会社化したことでスクールをはじめ主力3部門とも前期実績を上回り、5期連続で過去最高を更新しました。

 大都市圏を中心に制服MCを獲得し、福岡で性的少数者(LGBTQ=Qはクエスチョンで自身の性自認や性的指向が定まっていない人)の方々に配慮した制服の採用が進むなどして成果を得ました。

 一方、最終利益は物流費や人件費、原材料費の高騰、不良在庫の処分で3期連続の減少となりました。全社でコスト削減にも努めましたが、不良在庫の増加が利益を圧迫していることから今後の対策が必要です。

 ――コストアップが引き続き業界全体に影響しています。

 工場関係での効率化やコスト削減に向けて、茨城県笠間市で新たな物流センターの立ち上げを計画しています。6月に着工し、来年7月に竣工予定でしたが、新型コロナ禍で1年の延期を決めました。状況によってはさらなる延期も想定されます。

 利益の確保に向けて、8月からスクールとスポーツで値上げを発表しました。定番品は既にコストアップ分を価格に転嫁していますが、別注品は交渉中です。契約期間のあるもの以外は1年以内に実施したいと思います。

 ――子会社化した瀧本との連携は。

 前期は瀧本単体の決算が赤字だったため、今期は黒字化を達成したいと思います。2年後をめどにトンボ本体とシステムを統合し、生産体制や工場の共有、海外工場への同時発注など生産・物流面の連携を進めます。販売面では当面、切磋琢磨して拡販します。

 ――来入学商戦にも新型コロナ禍の影響が見られそうです。

 現状の売り上げは前年同期比増収で推移していますが、学校での採寸や販売は今春に続き厳しい状況になりそうです。市場では感染防止にもつながるネット通販に動きが見られますが、当社も独自にウェブシステムでの採寸や販売を推進していきます。

 ――今期は3カ年中期経営計画の2年目です。

 最終年度の22年6月期に、売上高400億円の達成を目指します。新型コロナ禍で組織改革が遅れながらも、9月から「EC事業部」「海外業務部」「デザイナー室」を設置し、刷新を進めています。厳しい経済環境でも利益重視の経営を目指し、社員一人一人が基本を大切にして結果を出していきます。

〈菅公学生服 社長 尾﨑 茂 氏/深みある教育活動で存在感を〉

  ――2020年7月期連結決算は売上高370億円(前期357億円)でした。

 前期はスクールとスポーツで計画通りに着地し、増収となりました。新型コロナ禍の影響で一部夏物などの納入に影響が出ましたが、MCについては前年並みの勝率を確保しています。スポーツも「カンコープレミアム」など自社ブランドの採用が堅調に推移しました。

  ――業界でコストアップが深刻化しています。

 前期は、徹底したコスト削減によって増益となりました。工場では人工知能(AI)やモノをインターネットにつなげるIoTも活用していて、生産の自動化は難しいですが、事務作業などでは自動化や省力化につながっています。

 昨年末、宮崎県都城市や前橋市で大規模な物流センターを立ち上げました。こちらの運用も着実に進めていきたいですね。

  ――値上げへの対応も本格化してきました。

 あらゆるものの原価が上昇しています。当社も各地で交渉を進めていて、納品までにかかる日数や運賃などについて説明しています。上昇分を値上げしなければ利益が取れなくなってきていますので、慎重に対応していきたいと思います。

  ――市場では新たな採寸システムの検討が進みつつあります。

 当社も、デジタル技術を活用したスマート採寸のシステムを完成させています。今春も数校に導入したところ、一定の評価を得ました。20~30年前に取り組んだ時は技術の面で時期尚早でしたが、現在は第5世代移動通信システム(5G)など通信回線が発達し、導入が容易になってきています。社内でも営業社員含めて勉強会を実施し、理解を深めています。今後も段階的に導入を進めていきたいと思います。

  ――教育ソリューション事業の進捗(しんちょく)をお願いします。

 キャリア教育、人材育成、学校魅力化、働き方改革、この4項目の案件が多いです。会員制交流サイト(SNS)や動画配信サイトで多角的にアピールしたことで、案件が着実に増えています。非認知能力の向上に向けた教育活動を継続していますが、深みのある内容や社会に向けたインパクト(のある提案)を含めて学校に対する存在感が高まっています。

  ――来入学商戦に向けたMC獲得の見通しをお願いします。

 この数年、大手3社のシェアは変わりません。獲得校が多い地域もあれば、喪失校が多い地域もあります。新型コロナ禍で商談などが遅れていますが、大手3社が市場をけん引する形は変わらないと思います。

〈明石SUC 社長 河合 秀文 氏/“倉敷発、地球品質。”推進〉

  ――2020年5月期連結決算は売上高269億円(前期267億円)となりました。

 今入学商戦はMC校数が過去最高となり、100件を大きく超えました。500人や千人規模のマンモス校の獲得もあり、生徒数の増加が目立ちました。ただ、店頭販売を含むなどさまざまな要因があって、新規の数が売り上げに正比例しない部分もあります。

  ――新型コロナ禍への対応は。

 新型コロナ禍で、特に衣料・食品・宿泊に影響が出ていると聞きます。節約志向が強まっていますが、高い品質の衣料を製造するためには一定のコストが必要になることを改めて訴える良い機会でもあります。

  ――新型コロナ禍は来春まで続きそうです。

 営業活動は引き続き制限されますが、商談や採寸などをどうしていくか、学校と打ち合わせを進めています。IT技術を活用したリモート採寸など、さまざまな取り組みを検討しています。

 供給網の維持が課題になりそうです。経済の低迷で、地方の百貨店などでは学生服の販売をやめるところも出てきました。当社も1月に北海道函館市で直営店を立ち上げていますが、販売店とともにどう進んでいくかを考えることがメーカーに求められていると思います。

  ――コストアップへの対応も喫緊の課題です。

 店頭商品では既に値上げを進めています。学校物件はこれからですが、案件ごとに制服の価格改定をお願いしていきます。値上げが完了するには、3年ほどかかると見ています。

  ――来入学商戦の見通しを。

 新型コロナの影響を受け、過去最多だった今入学商戦ほどではありませんが、中学校を中心に堅調に採用を獲得しています。一方、スポーツと、介護など企業向けユニフォームは新型コロナ禍で商談が滞っているので苦戦気味です。

 売り上げの維持拡大も大切ですが、今後は利益の確保に向けて取り組みを強めたいと思います。

  ――新たな取り組みを教えてください。

 来年からSDGs(持続可能な開発目標)を新たな企業指針とし、取り組みを強化します。スローガンは「倉敷発、地球品質。」で、制服のモノ作りを通じて子供たちの成長に寄り添いながら「環境」「命」「絆」を守る活動を展開します。

 それぞれ地球資源を大切にする事業、防災関係の事業、国際協力など健やかな社会を作るための事業を推進します。社内委員会でPDCAを行っていますが、10年間で進捗(しんちょく)を確認し、より良いものにしていきます。

〈LGBTに配慮の流れ強まる/制服モノ作りや心のケアに対応〉

 性的少数者(LGBT)の人々に配慮する社会的な流れが強まっている。単一の学校だけでなく、地域単位でジェンダーレス制服を採用する動きが目立つ。学生服業界にも心のケアや制服のモノ作りの面で対応が求められており、各社はそれぞれの取り組みを進めている。

 近年、SDGs(持続可能な開発目標)の中でジェンダーの平等が目標に掲げられ、制服にもLGBTの人々に配慮する動きが広がってきた。福岡市や北九州市が先行して対応しており、中学校で今春からジェンダーレス制服の採用が一気に拡大した。

 ニッケの調査によると、2020年入学商戦では福岡市だけで公立中学のMC校数の半分近くを占めるなど広がりを見せた。21年入学商戦に向けてもジェンダーレス制服の増加傾向は変わらないと見られ、全体のMC校数を押し上げている。

 トンボ、菅公学生服、明石スクールユニフォームカンパニー(明石SUC)の3社はこの間、それぞれ一定の採用を獲得してきた。「昨年より全国的に導入が進んでおり、地区別にまとめて標準型を制定するケースが増加している」(トンボの近藤社長)ことから、来春は今春以上に対応を求められるケースが増えそうだ。

 一方、当事者の「心のケア」を前提に活動するのが明石SUC。日本セクシャルマイノリティ協会とフレンドリー契約を締結し、専任スタッフ「レインボーサポーター」によるケアを進めてきたが、来年から活動を強化。多様性のサポート、LGBTの人々への対応などを、新しい企業指針に掲げるSDGsの取り組みに盛り込む。

 菅公学生服も、GID(性同一性障害)学会への出展など多様性を認め合うための活動を続けてきた。開発本部学生工学研究所では当事者への聴き取りなども実施。尾﨑社長は改めて「センシティブな問題」との認識を示しながらも、「新時代に向けた制服の在り方を考えながら取り組みたい」と話す。

 中堅のメーカーや商社は、モノ作りの面で検討を進める。兵庫や愛知など伝統的な制服文化が根強い地域でジェンダーレス制服の導入が増え、詰め襟学生服やセーラー服の販売に影響を受けている。

 「販売店へのサンプル納品を進めている。検討段階の案件も複数ある」(ジェイユウ=岡山市)、「福岡市で詰め襟学生服の受注が減少したので、対応を考える」(松商=岡山県倉敷市)、「併売の地域があるなら1、2年前後に参入したい」(マルトク=倉敷市)などの声が上がっている。