変わる商社の意識/プロダクトアウトは終焉?/「世のため人のための事業」へ

2020年09月17日 (木曜日)

 伊藤忠商事が「か、け、ふ(稼ぐ、削る、防ぐ)」の再徹底を2020年度の単年度方針に掲げ、岡藤正広代表取締役会長CEOが、「今は『稼ぐ』よりも『防ぐ』や『削る』に重点を置いた低重心経営に徹するべきで、足元を固め、今後に備える」と語るように、拡大志向一辺倒だった総合・専門商社の意識に変化が見られる。難局を乗り切るためのヒントは「デジタル」「マーケットイン」あたりにありそうだ。

(吉田武史)

 主要商社繊維事業の20年4~6月期は、同事業の数字を発表した5社全てが減収だった。新型コロナウイルス禍の影響は回避できず、その後も、分野による凹凸はあるものの総じて回復には至っていない。

 新型コロナ禍以前から商社繊維事業の業績は低迷傾向にあった。国内衣料品不振や世界経済の先行き不透明感がその要因であり、新型コロナ禍が追い打ちを掛けた格好だ。

 各社が活路を見いだすキーワードの一つがデジタル事業。ヤギ、日鉄物産、三菱商事ファッション、三井物産アイ・ファッション(MIF)などが3次元(3D)の技術を服作りに活用する提案に本腰を入れており、展示会などで打ち出しを強めている。

 伊藤忠は、電子商取引(EC)プラットフォーム「学校生活」を8月に立ち上げ、21年度以降の入学生を対象に学生服、学習用品の販売を開始。オンライン試着サービス「バーチャサイズ」を搭載することで、自宅にいながら体形に合うサイズを選んで注文することもできるシステムを構築した。

 新型コロナ禍の影響やデジタル技術活用による消費者との接点拡大を背景に、プロダクトアウトの終焉(しゅうえん)、マーケットイン発想への転換も進む。伊藤忠の岡藤CEOは、「『私はこの商品を売ります』という時代は終わった。売り場全体を見渡し、その流れを予測してさまざまな商材に対応しなければ、もう物は売れない時代だ」と時代の変化を指摘する。

 以前の商社には、「売る」という意識が強く存在し、同業他社や社内のライバルとの熾烈な営業争いに勝ち抜くことが営業マンの第一義だった。個人の趣味嗜好(しこう)が細分化され、繊維製品の大量廃棄問題がクローズアップされる中で、「売る」ことよりも「(ニーズを)探る」ことが重視され始めた。

 蝶理の吉田裕志取締役上席執行役員繊維本部長は、「ものが良くても高ければ売れない。ニーズを取り込んで顧客にとって使いやすい会社を目指す」と話し、ヤギの馬渡武継取締役営業第一本部長は「世のため人のためになる事業を生み出そうとしているし、そうでないと生き残ることはできない」と話した。