特集 アジアの繊維産業Ⅱ(2)/中国・ライブコマース/ブランドが正価品販売へ/新たな販売チャネルとして定着か

2020年09月11日 (金曜日)

 中国で動画生配信のネット通販「ライブコマース」が活況だ。新型コロナウイルス禍後に市場拡大が加速、アパレルなどのブランドが正価品を売る動きも出てきた。新たな販売チャネルとして定着する可能性がある。(上海支局)

 「これは海外の著名デザイナーとのコラボ製品なの。メンズだけど女の子も似合うわ」――平日の朝8時半、100平方メートルほどのスタジオで、商品のトレーナーを着た語り手(MC)の若い女性がハイテンションでしゃべり始めた。浙江省杭州市郊外の九堡では、こうしたライブコマースの中継が昼夜問わずあちこちで行われている。

 農村だった九堡はこの3年間で、中国でライブコマース産業が最も集まるエリアに様変わりした。高層ビルが立ち並び、文字通りの不夜城になっている。「MCN(マルチチャンネルネットワーク)機構」と呼ばれるライブコマースのマネージメント会社を目指し、全国からMCやその希望者が続々とやってくる。

 きっかけは、杭州に本社を置くネット通販最大手のアリババ集団が2016年、ネット通販サイト「淘宝(タオバオ)」の新機能として、ライブコマースを始めたことだった。九堡の周辺には、アパレルなどを生産する工場が多く、商品の仕入れが便利だったことから、米ナスダックに上場する如涵などのMCN大手の拠点が集まった。

 19年は中国の「ライブコマース元年」となった。1回のライブ中継で数億元を売り上げる薇¥文字(U+5A6D)や李佳琦らの超人気MCが登場、ビジネス界の著名人や芸能人もこぞってMCになり、世間の話題を集めた。海外では「TikTok」として知られる人気動画投稿アプリ「抖音(ドウイン)」や同「快手」などがライブコマースに相次いで参入したことで、消費者の間に広く浸透した。

 さらに今年は、新型コロナ禍後の“巣ごもり消費”の追い風を受け、成長が加速している。19年の市場規模は約4千億元(前年比225%増)だったが、今年は1兆元を突破すると言われている。

 ライブコマースはこれまで、MCが工場から製品を仕入れ、「淘宝ライブコマース」などのプラットフォームを通じ、自身のフォロワーに販売するケースが多かった。それが新型コロナ後は、ブランド自らがライブコマースを通じた販売に乗り出した。在庫品だけでなく、正価品を販売する動きも見られる。

 19年に設立した雲宝貝倉〈杭州〉文化伝媒は、こうした新しい流れにビジネスチャンスを見いだす。九堡の雑居ビルの一角をライブコマースのスタジオに改造、アパレルなどのブランドの顧客と契約し、各顧客に合ったフォロワーを持つMCとのマッチングから、ライブコマースの運営代行までを手掛けている。

 高級ストリートファッションブランド「ピアーヴェ37」を中国全土で約40店舗運営する仕庫〈上海〉商貿発展は、同社と組み、7月からライブコマースを始めた。楊国聡総経理は「ライブコマースは今後、重要なチャネルに化ける可能性が大きい。先行投資として着手した」と話す。

 これまで20万~30万人のフォロワーを持つ複数のMCを迎え、6回ほど中継した。毎回40万~50万元を売り上げているが、「これまで実店舗だけで、ネット通販は未経験だったわれわれにとっては苦労が多かった」と振り返る。

 特に難しかったのが、価格の引き下げと在庫調整だ。サプライチェーンの大幅な見直しを迫られた。これまで使ってきた日本製生地の採用も難しくなっている。

 雲宝貝倉〈杭州〉文化伝媒の端木雪熊COOは「ライブコマースのユーザーは若年層が中心のため、価格は抑えるべき。機会損失を避けるため、十分な在庫も必要。ライブコマースを意識したサプライチェーンの構築が成否を握る」と説明する。

 ライブコマースは現状、工場直販の価格訴求品やブランドの在庫品処分が中心で、高級品などの正価品を売るケースは少ない。ただ新型コロナ禍を経て、ブランド各社は実店舗とネット通販を融合した“新小売り”戦略を加速しており、ライブコマースへの期待も大きい。口コミを重視する中国の消費者との親和性も高く、実店舗、ネット通販に次ぐ第3の販売チャネルとして定着していく可能性がある。

〈新世界大丸百貨のライブコマース/化粧品などの販売伸ばす〉

 新型コロナウイルスの感染拡大で2、3月に開店休業を強いられた中国の百貨店が目を付けたのが、ライブコマースだった。J・フロントリテイリングが運営支援する高級百貨店、上海新世界大丸百貨も3月7、8日に初めて、化粧品のライブコマースを実施した。延べ12万人の視聴者を集め、取引額は200万元を超えた。

 4月に行ったライブコマースには、化粧品を中心に貴金属、時計、婦人靴など、同店に出店する50ブランド以上が参加。平日は19~21時、週末は15~21時に、1ブランド当たり30分~1時間中継した。化粧品がけん引し、取引額は約450万元となった。

 同店のライブコマースの強みは、視聴者の質の高さだ。視聴者は同店で買い物をしたことがある会員で、1人当たりの平均購入金額は1千元と、一般的なライブコマースを大きく上回る。

 実店舗の来店客数が回復し始めたことや、食品などの単価の安い商品の取り扱いを始めたことで、ライブコマースの取引額は5月以降、徐々に減っている。

 一方、ライブコマースの購入商品の引き渡しを実店舗にし、来店時に別の商品を提案して成果を上げるブランドがあるなど、実店舗との相乗効果も見られる。そのため、今後もリアルとオンラインを融合した“新小売り”戦略の一つとして、取り組んでいく。

〈動画で生地プロモーション/双日奔時代〈上海〉〉

 双日ファッションの中国法人、双日奔時代〈上海〉は7月から、SNS「微信(ウィーチャット)」公式アカウントのフォロワーをターゲットに、動画を使った生地のプロモーションに取り組んでいる。営業スタッフがMC(語り手)を務め、毎回2分弱、生地の機能性や風合いを紹介、ネット通販サイト「微信商城」の店舗に誘導している。

 この取り組みを始めたきっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大だった。「顧客のブランドがライブコマースに次々に乗り出し、当社でも活用できないかと考えた」(山脇文博総経理)。これまで週1回、計6回配信したが、紹介した生地の発注がやや増えるなど、効果が出始めている。

 同社のネット対応は早かった。2017年に「微信」公式アカウントを始め、微信商城上で生地の発注と支払いができるようにした。毎回出展する「インターテキスタイル上海アパレルファブリックス」などの展示会を通じ、フォロワーを増やしてきた。現在は、地場ブランドのデザイナーや生地購買担当者ら約1万人がフォロワーになっている。

〈インタビュー/ネット専業高級レディース「茉莉雅集」創業者 江 莉 氏/“新小売り”で若年層開拓へ〉

 ネット通販専業の高級レディース大手「茉莉雅集(モリ・ツリー)」が、新型コロナウイルス感染拡大後も好業績を続けている。来年には実店舗を出店し、若年層の顧客の開拓を加速する。創業者でデザインディレクターの江莉氏に、足元の商況や今後の計画、日系サプライヤーとの協業について聞いた。(上海支局)

  ――新型コロナ禍の影響は。

 1~7月売上高は前年同期に比べ、40~50%増えました。ここ数年の成長率を維持しました。新型コロナ禍の影響はほとんど感じていません。

  ――好調を維持できている要因は。

 一つは、安定した顧客を持っていることです。フォロワー数は累計219万人で、うちアクティブな顧客は30万人ほど。トレンドを反映した高品質の商品をいち早く投入することで、ファンを囲い込んでいます。

 品質は特に重要です。この3年で消費のアップグレードが進み、顧客の品質要求が高まっているからです。

  ――高品質をどう実現していますか。

 日本向けの生産背景や、日系サプライヤーの生地を使うことで実現しています。2007年にブランドを立ち上げた時点から、日本の百貨店アパレルの製品を生産する縫製工場とおつき合いしてきました。生地や副資材は、日本製や日系企業が中国で生産するものをメインに使っています。

 こうしたサプライヤーとは長く取り組んでおり、信頼関係を築いています。

  ――生地は生地商社の備蓄品が多いのですか。

 バイオーダーが8割、備蓄品が2割です。定番品はバイオーダーで、トレンドを反映した生地は備蓄品を使っています。追加生産に迅速に対応するため、バイオーダー生地は自社で備蓄します。

  ――ライブコマースに参入するブランドが増えています。

 当社も昨年半ばに始めました。成果が徐々に出ており、今後も続けていきます。

  ――今後の計画は。

 “新小売り”を始めます。来年4月に本社を置く江蘇省常州市内でライフスタイルショップを開きます。上海や南京、杭州などの若者が集まる「文創園」(古い工場などの建物をリノベーションした文化・芸術エリア)にも、同様の店を2、3店出していく計画です。これにより、90年代、00年代生まれの若年層の開拓を進めます。