“ファイバー戦略”でSDGs追求/トップインタビュー/大和紡績 社長 斉藤 清一 氏

2020年09月01日 (火曜日)

 ダイワボウホールディングスは今年4月、関係会社5社を中間持株会社の大和紡績に統合し、繊維事業の中核事業会社として新たなスタートを切った。大和紡績の斉藤清一社長は「これまで実行してきた“ファイバー戦略”を基盤に、SDGs(持続可能な開発目標)を徹底的に追求する」と話す。新型コロナウイルス禍によって事業環境も激変した。“ウィズコロナ”時代に適応した新たなビジネスモデルの創出に取り組む。

――2020年度(21年3月期)は大和紡績として再出発したわけですが、新型コロナ禍の中で波乱のスタートとなりました

 第1四半期(4~6月)までは、なんとか踏ん張りました。各事業とも新型コロナ禍による需要減退の影響を受けていますが、一部で新しい需要も生まれているからです。例えば合繊事業はインバウンド需要の消失や輸出停滞の悪影響がある一方で衛生材料や除菌製品向けが伸びています。昨年度から工場の生産性と稼働率を高める取り組みを進めた効果も出ています。販売量の減少を向上した生産効率、生産キャパシティーの対応力で補っています。

 産業資材事業は新型コロナ禍の影響で建設工事のストップなどがあって重布や建材が低迷しましたがフィルターなどは5G(第5世代移動通信システム)に向けたセンサー関連用途が底堅く推移しました。製品・テキスタイル事業はやはり新型コロナによる小売店の休業などの影響で衣料品分野が急激に悪化していますが、一方で抗ウイルス機能マスクや除菌剤など機能製品の販売が拡大しました。抗ウイルス加工への引き合いも急増しています。新型コロナ禍によって既存のビジネスが打撃を受けましたが、これまで取り組んできた衛生関連や機能商品でカバーしている形です。

 ただ、新型コロナ禍による輸出の停滞、サプライチェーンの寸断の影響は今後も続くでしょう。従来のような対面営業ができずリモート業務中心になっていることも無視できません。この対応は、もはや“働き方改革”といった悠長なものではなく、すぐに実践していかなければならない課題になっています。

――今後の事業戦略はどのようになっていくのでしょうか

 大和紡績は4月から5社が統合してダイワボウホールディングスの繊維事業中核会社として再出発しました。メーカーとしてこれまで独自性のある加工や素材を活用するという“ファイバー戦略”を推進してきましたが、これに加えてSDGsを徹底的に追求するという基本戦略は変わりません。当社が商品を供給している取引先企業もSDGsやESG(環境・社会・ガバナンス)重視の姿勢を強めています。このため今後、SDGsやESGに対する取り組みがおろそかな企業は社会的に信認されなくなるでしょう。各事業を統一したフィロソフィーで取り組みます。優先順位も明確にした上で具体的な数値目標も掲げ、ウェブなどを通じた発信にも力を入れます。

 特に重視するのは二酸化炭素排出削減など環境負荷低減です。新型コロナの問題は短期で収束するとは思えません。“ウィズコロナ”時代は衛生関連の需要だけではなく、生活空間全体の環境改善を求める声が高まるのではないでしょうか。そこで商品だけでなく二酸化炭素排出削減や廃棄処分の方法まで含めた対策を盛り込んだ生産プロセス革新に取り組みます。

 例えば製品・テキスタイル事業は、サステイナブルな農法で生産された米綿「コットンUSA」の活用や、海水中も含めた生分解性を確認しているダイワボウレーヨンのレーヨン短繊維の活用を進めます。産業資材事業もフィルターなどで再生原料や生分解性原料の活用を拡大します。もちろん抗ウイルス加工・素材も事業横断で活用を進め、商品開発と提案に取り組みます。生活空間、住空間全体の環境を改善し、さらに衛生を高めることで感染症のリスクを抑えるための開発に取り組みます。

 “ウィズコロナ”時代は、こうした開発や取り組みをスピーディーに実現することも重要です。そのため製造スパンの短縮につながるプロセス革新にも取り組みます。それによって社会のニーズに合う商品を開発し、機能に対するエビデンスが確認でき次第、速やかに市場に投入することを目指します。

――新型コロナ禍によって“働き方”やビジネスモデルも変わるのでしょうか

 今回、新型コロナ禍によって在宅勤務やリモートワークに取り組まざるを得なくなったわけですが、これによって業務の中で効率化すべき部分が実感として明確になった面があります。あとは、これを効率化することで生産性がどれだけ高まるかが問われることになります。そのためには、やるべきところに投資し、不要な仕事はやめることで従業員に無理をさせない働き方を実現しなければなりません。ポイントは“常識を疑ってみる”ことでしょう。既成概念や先入観にとらわれずに考え、実行することが重要です。

 一方、ビジネスモデルでは国内消費の重要性が見直されるのではないでしょうか。新型コロナ禍によって国際的な物流や人の往来が制限され、サプライチェーンも寸断される中で、海外生産のリスクや輸出の難しさが浮き彫りになった面があります。もちろん海外生産・海外販売を軽視するという意味ではありません。これは今後も重点的に取り組むべき事業です。ただ、それに加えて国内生産、国内消費の重要性も増すと感じます。そういったバランスを考えることが今後はますます大切になるでしょう。

〈新ロゴマークを制定/「紡ぐ」の意味を突き詰める〉

 大和紡績はこのほど、新ロゴマークを制定した。今年4月から5事業会社を統合し、新生・大和紡績がスタートしたことに加え、21年4月1日で「大和紡績」の商号の使用開始から80周年を迎える。これを機に原点に立ち返りながらも未来志向のロゴマークを制定した。

 新ロゴマークは、色に「洗練」と「寛容」を象徴する深みのある紫を採用。英文社名の頭文字であるDをモチーフにした五つのパーツを回転するように配置することで、繊維を通じて価値創造を世界に広げる推進力を象徴する。タグライン「ツムグにひとミライ」は、祖業である紡績につながる言葉「紡ぐ」に「縁を紡ぐ」「言葉を紡ぐ」など「たくさんのモノの中から選び、つないで新たなカタチにする」という意味を持たせた。新たなスタートを迎え、今一度「紡ぐ」の意味を突き詰め、お客さま本位のモノ作りに挑戦するという思いを込めた。