特集ハイテク繊維/東レ・デュポン、帝人
2001年12月19日 (水曜日)
IT不況なんのその底力を見せ付けろ!
IT不況に端を発した米国景気の減速、長引く国内景気低迷。デフレ一辺倒に思える世界経済において、高価格のハイテク繊維が売れている。高強力、高弾性率などその素材特性が市場に認知されているからだ。まさしく、時代はハイテク繊維を求めている。
東レ・デュポン/パルプ値上げ、帝人「トワロン」販売へ
「米国、英国、日本の3工場ともフル生産が続いており、IT不況=〝ケブラー〟不況ではない」(東レ・デュポン・上妻正博ケブラー営業部長)、「時代の風を受けている。不景気なら不景気なりの需要がある」(帝人・山本安信アラミド事業部門長補佐)。IT不況による米国での光ファイバーケーブル需要の失速などもろともせず、デュポン、帝人のパラ系アラミド繊維2社の鼻息が荒い。パラ系アラミド繊維の特徴が時代に合致し始めたからだ。
「トワロン」買収で、デュポンと並ぶパラ系アラミド繊維メーカーにのし上がった帝人は03年にオランダのテイジントワロンの生産能力を年7500トン増やし、1万8500トンに拡大すると発表。続いてデュポンも「ケブラー」生産能力の15%増を明らかにしている。
両雄一歩も譲らずと言ったところだろうか。
その発表前後に市場は大きく変化する。米国におけるIT不況だ。光ファイバーケーブルの需要増で00年、玉余りから玉不足に一転したパラ系アラミド繊維にとっては牽引車だった。
パラ系アラミド繊維は光ファイバーケーブルのテンションメンバー(緊張材=光ファイバーの伸びを防ぐ)に使用。これに適した素材は「ケブラー」「トワロン」のハイモジュラスタイプしかないため、2素材に引き合いが殺到する。
それでも需要をまかない切れないことから、ハイモジュラスではない帝人「テクノーラ」やクラレ「ベクトラン」、さらにはケタ違いの高価格でパラ系アラミド繊維の2倍という高弾性率をもつ東洋紡のPBO繊維「ザイロン」にまで引き合いがあった。
その様相が一変するのは2社が増設を発表した頃。「夏ごろから一気に引き合いがなくなった」(クラレ・繊維資材事業部・中谷隆雄原料資材第一部長)、「光ファイバー向けは前半まで」(東洋紡・能島鐵之助取締役機能材第二事業部長)とパラ系アラミド繊維の玉不足を背景にした他のスーパー繊維への引き合いはパッタリ止まる。
こうした状況はデュポン、帝人とも同様とみられるが、2社とも依然、フル生産販売状態で、依然として玉不足は解消されていない。
なぜなら中国、インドなどアジアでの光ファイバー需要の増加とその他用途が底上げされているからだ。東レ・デュポンでは中国、インド向け輸出が今上期、30%も伸びた。
さらに、防弾チョッキが9月11日の米国同時多発テロ事件の勃発から世界的に需要増加の動きにある。これはITの落ち込みをカバーする上で、ひとつの材料になったが、それだけではない。
タイヤコードは軽量化や安全性の向上などからパラ系アラミド繊維の使用量が増えており、二輪車用も同様。一時期落ち込んでいたが、今では月70~80トン市場に戻っているという。各社共同で開発を進めてきた構造物補強、さらにゴム補強などもある。
2社は03年には増設を完了するが「2、3年後には需給はひっ迫する」(東レ・デュポン)、「需給失調は現実に起こることはない。今の流れから判断して十分売り切れる」(帝人)と強気の姿勢を崩さない。
その一環かもしれないが、東レ・デュポンでは米デュポンから輸入販売する「ケブラー」パルプの値上げを再度行う。すでに00年に1度、01年に2度に渡り10%アップを断行。「顧客からは商いを止めるのかと言われたが、決して撤退するのではなく、安定供給を行うため」として、来年4月、来年10月と10%ずつの値上げを表明している。
パルプは繊維をすりつぶしたもので、ブレーキパットやガスケットに混ぜて使用する。アスベスト代替素材。パラ系アラミド繊維最大の用途であるが、最も単価が安かった。需給ひっ迫を材料に採算改善を図るのが狙いのようだ。
こうした東レ・デュポンというかデュポングループの戦略に対して、来年1月から「トワロン」の販売を自社で始める帝人はどう動くのか。
同社は今月14日、「トワロン」を日本で販売していた日本アラミド有限会社(アコーディスと住友化学工業)の持ち分を取得し、帝人本体で日本における販売を引き継ぐことにした。日本アラミドから営業、技術などの人員の転籍もあるようだ。
日本アラミドの売り上げの多くを占めるパルプ。帝人の価格戦略は?。「パルプはまだ伸びる。現在の用途だけでなく、ペーパー関係でアラミドポリマーの特性が生きるのではないか」と言うにとどまった。
「トワロン」事業買収後もハッキリした変化が欧米、日本ともみられなかったとも言われるが、ようやく、日本アラミドの処遇問題も解決した。今後帝人がどのようなパルプ戦略を組むのか注目される。