特集ニット(5)/素材/機器/染色加工/高付加価値を基礎から支える

2020年05月13日 (水曜日)

〈海外でも知名度高まる/新内外綿「mocT」〉

 新内外綿の製品ブランド「mocT(モクティ)」の知名度が海外でも高まっている。2018年の発売当初から、杢(もく)糸のパイオニアが作ったニット製品という話題性がメディアから注目を集め発売から2年足らずで、国内に加え米国、英国、フランス、中国、韓国、インドネシアに販路を開いた。

 最近ではパリのファッションシーンで活躍する著名な写真家と組んで、インスタグラムでモクティの着こなしの発信に力を入れている。こうした会員制交流サイト(SNS)によるアピールはまだ始まって1年も経たないが、フォロワー数は4万人を超えているという。メンズだけでも1万人を超えており、ファッション分野では珍しいことだそう。

 衣料品の売れ行きが厳しさを増す中、公式通販サイトでの販売が健闘している。特に最近、売れているのがグレーやネービーの糸の中に蛍光色のネップが入った“ネオンシリーズ”だ。遠くから生地を見ると紺やグレーの単色だが、近寄ると無数の蛍光のラインが浮かび上がる。

 モクティは、新内外綿のグレー杢糸「GR7」を使い、紡績、編み立て、縫製まで全て国内で行う。パーカ、Tシャツ、スエット、靴下など約40アイテムを展開する。

〈海外に提案を継続/吉田染工・貴志川工業〉

 丸編み用途の糸のチーズ染色を行う吉田染工(和歌山県紀の川市)は、グループ企業で、編み地など生地の染色整理加工を行う貴志川工業(同)との連携を生かした付加価値の高い独自加工、編み地の提案を継続する。

 2020年は1月に米国で開催された「ジャパン・テキスタイル・サロン・イン・NYC」、2月にイタリアで開催された「ミラノ・ウニカ」に出展。それぞれ海外バイヤーから良い反応を得られた。特にジャパン・テキスタイル・サロン・イン・NYCではラグジュアリーなイメージを高めるヌメリ感のある見た目や独特の風合いを持った加工への高い評価を得た。

 リサイクルポリエステルの採用や生分解性を持った素材などサステイナブル(持続可能な)素材への関心が全般的に高まりつつあり、同社への見本反の要望も増えている。

 出展予定だった3月の「インターテキスタイル上海アパレルファブリックス」の開催が無期延期になるなど、新型コロナウイルスの感染拡大で水を差された形だが、糸加工から編み地の加工まで、自社グループ一貫で対応できる強みを生かした開発とアピールを継続する。

 編み地だけでなく、「ホールガーメント」編み機や協力工場との連携を生かし、最終製品までを含めた受託体制の強化も図る。

〈SKレースウェイを提案/福原産業貿易〉

 福原産業貿易の2020年5月期は前年比約10%の減収となりそうだ。下半期は中国からの大型発注があるなど前半が堅調だったが、後半は新型コロナウイルス感染拡大の影響が出た。

 21年5月期は、上半期は新型コロナの影響が残るとみるものの、収束後に巻き返しを図る。「ウーブンルック」を訴求して堅調に推移するマットレス用丸編み機のほか、昨年のITMAで発表したSKレースウェイ機などに力を入れる。

 SKレースウェイ機「M2XC―A3・2RE」は編成性能、省エネ性能を向上させた次世代機で、高生産性と品質の安定を両立した点などがITMAでも高い評価を受けた。生産性は従来機より20%向上し、1250SFを実現。内部摺動装置の改良による長寿命化や摩擦熱を軽減するシリンダーの工夫などで約20%の省エネ化を実現している。

 40ゲージ級を中心にファインゲージ機にも力を入れる。裏毛など顧客からの要求水準がますます高くなる中、それぞれの要望に応じた開発を進めていく。引き続き安定したニーズがあるスペーサーニットでも顧客ニーズに応じた開発に力を入れる。

 環境配慮型のニット針「Eニードル」にも力を入れる。丸編み機の高速化、ハイゲージ化が進むほどに高い効果が期待され、SKレースウェイ機とともにサステイナブル(持続可能な)の流れに沿った商品としても提案を強化する。

〈エップヤーン/編み地製品を作りやすく〉

 横編み用リネン撚糸製造を主力とするエップヤーン(大阪府東大阪市)は、自社でストック販売する単糸を撚糸することで独自性の高い編み地製品作りをサポートする。

 フランス産リネンを国内で紡績した「サフィラン」が高価格帯のセーター用途などで高い評価を得ている。このほど、綿糸の加工で麻ライクな風合いを表現できる「ドライチュニカ」を発売するなど、取り扱う糸のバリエーションを広げている。

 同社の特徴は、さまざまな糸を撚糸で組み合わせて差別化するだけでなく、自社で保有する編み機を用いた編み地サンプルの製作により、製品ごとに最適な糸使いを短期間で把握し、先んじて提案に反映できることにある。

 今年2月には中古の靴下編み機も導入した。自社への引き合いがあったときに最適な提案をするためのサンプル製造に用いる。

 自社の直販製品ブランド「東大阪繊維研究所」も展開する。現在は糸作りの経験を生かした、「頑丈で長持ちするTシャツ」を販売する。主に東大阪市のモノ作りなどを発信するユーチューバーにTシャツを提供するなど、会員制交流サイト(SNS)を通じたアピールを継続する。靴下編み機も自社製品作りに用いる計画だ。