2020年春季総合特集Ⅰ(7)/トップインタビュー/三菱ケミカル/常務執行役員 岡田 幹士 氏/繊維で社会の課題を解決/組織を改編し体制も整う
2020年04月20日 (月曜日)
2030年のあるべき姿を目指した長期ビジョン「KAITEKIビジョン30」を策定し、その実現に向けて歩みを進めている三菱ケミカルホールディングスグループ。三菱ケミカルはその一員として、長期ビジョンに基づいて繊維事業などで取り組むべき課題を検討する。4月1日付で組織改編を実施し、成長への体制も整えた。岡田幹士常務執行役員は、10年先の未来で「社会が抱えている問題を解決するビジネスモデルを繊維事業で構築していたい」と話す。(インタビュー日は4月1日)
――10年後に三菱ケミカルがありたい姿は。
三菱ケミカルホールディングスは、今年2月に2030年のあるべき姿を目指した長期ビジョン「KAITEKIビジョン30」を策定しました。
このビジョンは2050年のあるべき社会を想定し、そこからバックキャスティングすることで30年にありたい姿、その実現のために三菱ケミカルホールディングスグループが解決すべき課題を示したものです。課題には温室効果ガス(GHG)削減、資源循環、人快適化などの六つのテーマがあります。
20年度は、このビジョンに基づいて21年度に始動する次期中期経営計画を作る年になります。長期ビジョンに従い、繊維事業として取り組むべき課題を検討します。その繊維事業では、サステイナビリティー(持続可能性)をはじめとする社会が抱えている課題を解決するビジネスモデルを構築していたいと考えています。
――19年度(20年3月期)の素材・事業別の状況は。
アクリルでは、暖冬や素材代替えで世界的に需要が低迷する中、マイクロアクリル「ミヤビ」は電子モールとの連携が奏功して中国向けが健闘し、極細繊維「サイ」はモビリティー用途での商談が進んでいます。
トリアセテート長繊維「ソアロン」は欧米や国内向けが苦戦していますが、中国向けは新型コロナウイルスの影響が顕在化するまでは比較的順調でした。ブランド力もつき、新型コロナ終息後の中国などで拡販を狙います。溶融繊維についてはカーペット向けが厳しかったのですが、建築養生などの資材用途は堅調です。20年度は独自技術を用いた製品群での建築・土木用途への拡販に力を入れます。
――足元の事業環境をどのように捉えていますか。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響が生じる前までは、苦戦した分野はあるものの、全般的に順調な推移を見せていました。しかしながら新型コロナの影響が顕在化してからは、事業環境は不透明になっています。
そのような状況の中、衣料用途は景気の変動を受けやすいので、比較的安定した需要が見込める産業用途に力を注ぎたいと思っています。
――20年度の重点ポイントを教えてください。
4月1日付で「繊維事業部」「炭素繊維事業部」「アルミナ繊維・軽金属事業部」を「繊維本部」に集約する組織改編を行いました。繊維本部は基礎素材としての繊維事業を統括する組織として、品質と性能をさらに向上させる製造技術と高効率な生産体制の確立との両立実現を担うとともに、用途のシナジー発揮を目指しています。
繊維本部を発足すると同時に、三菱ケミカルグループの建築・建材事業を三菱ケミカルインフラテックに集約しました。
同社が持っている顧客ネットワークやノウハウを活用して、建築・建材用途向けワンストップショップ化を図り、拡販につなげていきます。
そのほか当社では、国内の営業体制の見直しを実施し、東日本支社などを設立しました。これによって「ターゲット分野ごとに営業の組織をまとめ、グループの総合力を生かして市場ニーズや顧客の要望に応じた幅広いソリューションを提案し、新たな価値を提供する」体制を整えました。
これまでは「繊維」というカテゴリーで進めていた営業活動を、需要分野で取り組める体制に移行したということです。
自動車向け吸音材のサイであればモビリティー、建築資材ならば三菱ケミカルインフラテックの担当分野がそれぞれの顧客に対して提案を強めることが可能になり、顧客満足度を高められると考えています。
――環境やサステイナビリティーへの対応はいかがですか。
国際非政府組織(NGO)の森林管理協議会による「FSC―COC」森林認証に加え、ブルーサイン認証を取得したソアロンは、欧米を中心としたエコやサステイナビリティーへの関心の強まりを受け、環境意識の高い層での採用が広がっています。
既に取得している原糸での認証に加えて、テキスタイルに至るまでの認証取得を、サプライチェーンのパートナー各社と連携して進めていきます。ただし、認証を取得しても管理要求は年を追うごとに厳しくなっているので確実な対応を行っていきたいと思っています。
――そのほかでは、どのような課題に取り組みますか。
環境関連では海洋プラスチック問題が挙げられます。繊維製品の家庭洗濯で発生する繊維くずについて、日本化学繊維協会が洗濯機を用いた繊維くずの定量化法をISO標準化できないか検討しています。業界一丸となって実態把握に努め、客観性を持って国や社会全体の理解と協力を呼び掛けていきます。
原糸製造工程における環境対応にも目を向けています。例えば、ソアロンの製造工程では、省エネや省資源などの徹底した運転管理・条件最適化による溶剤回収工程の蒸気使用量削減やインターレースエアーの使用量削減、規格外製品の再原料化、紙管再利用、廃棄物削減などに継続的に取り組んでいます。
〈10年前の私にひと言/オンとオフ、そして妻〉
10年前の自分に「休めるときは休め。オンとオフを使い分けろ」という言葉を送る岡田さん。当時はダイアケミカルで石化事業の国内営業を担当した。2008年にエチレンプラントの火災事故、11年には東日本大震災が発生し、対顧客という点で営業が非常に重要な役割を担うことを知る。正確な情報の提供が大切であることを学び、新型コロナの問題でも正確でタイムリーな情報公開が不可欠と説く。10年前の自分に「妻の言うことは聞け」ともうひと言。いろいろなことを学んだ岡田さんだった。
〈略歴〉
おかだ・かんじ 1981年三菱化成工業入社、96年三菱化学機能化学品カンパニー中間体事業部、2010年ダイアケミカル代表取締役社長、12年三菱樹脂理事、17年三菱ケミカル常務執行役員などを経て、20年4月同社常務執行役員高機能成形材料部門長兼繊維本部長兼機能成形材本部長