特集 スクールユニフォーム(5)/大手3社トップインタビュー 大手“3強”時代の幕開けへ
2019年09月30日 (月曜日)
学生服製造卸の大手は、トンボが瀧本を子会社化したことで4社から3社になった。3社は制服モデルチェンジ(MC)校の獲得やスポーツの新規採用校の拡大で売り上げを伸ばすものの、さまざまなコストアップ要因で減益基調が続く。生産や物流の効率化を進めながら利益の改善を図るとともに、少子化で市場が縮小する中でも次の成長に向けて新たな戦略を描く。
〈トンボ 社長 近藤 知之 氏/切磋琢磨でシェア広げる〉
――2019年6月期連結決算は売上高295億円(前期284億円)を計画していました。
スクール、スポーツ、ヘルスケアの3事業いずれも売り上げが伸び、前期比で増収になりそうですが、計画には若干届かないかもしれません。利益面は働き方改革関連法に基づいたアルバイトやパートの人員確保に加え、物流施設のLED化への設備投資などが要因で減益になりそうです。
――業界全体でさまざまなコストアップが深刻化しています。
制服モデルチェンジ(MC)で価格競争が激しくなる中、付加価値を高めた仕様による提案を強めています。しかし、それ以上に工場関係でのコストが上がり、特に物流コストの上昇が激しくなっています。
現在、玉野本社工場(岡山県玉野市)と紅陽台物流センター(同)で約27万人分のアソート対応をしています。個人向け刺しゅうや裾上げなどの対応が難しくなりつつあることから、茨城県笠間市に土地を取得し、新物流センターの立ち上げを計画しています。
――関東市場で売上高100億円を計画していました。
これまでも当社の関東市場における制服のシェアは高いのですが、新物流センターの完成によってもっと高めていきます。
新物流センターの総工事費は土地取得も含め、25億~26億円になる見通しで、21年7月までの完成を目指しています。東京本社の物件については、岡山で行っていたアソート業務を1、2年かけて新物流センターへ完全に移管する予定です。
――5月31日に日鉄物産から瀧本の株式を取得し、子会社化しました。
根底の大きな要因として背景にモノ作りがあります。両社とも協力工場を活用する機会が少なくない中、瀧本とプラットホームで生産キャパシティーを共有し、効率的な生産を考えていきます。
販売の前線では競合相手として切磋琢磨(せっさたくま)しながら市場でシェアを広げていこうと考えています。瀧本は「スクールタイガー」といった有力なブランドを持ち、伝統もある。そのブランド力を生かしたいと思っています。
――今期は3カ年の新中期経営計画の初年度となります。
子会社化した瀧本の売り上げを含め、最終年度の22年6月期にはグループ全体で売上高400億円を計画しています。売り上げ拡大から利益重視への方針転換は当社だけでなく瀧本にも当てはまります。連携していける部分は連携し、利益重視のマネジメントを進めていきます。
〈菅公学生服 社長 尾﨑 茂 氏/教育を支える仕組み作る〉
――2019年7月期連結決算は売上高350億円(前期348億円)を想定しています。
今年の入学商戦で制服モデルチェンジ(MC)校の獲得が順調に進み、前期比で増収になりそうです。教育ソリューション事業の取り組みが広がり、MC校では良い学校と出会う機会に恵まれるようになってきました。
都市部だけでなく地方でも安定して生徒を集めている人気校のMCを獲得する事例も出てきています。地方は人口が減っているとはいえ、MCの提案をおろそかにすることは許されません。メーカーとしてしっかり対応していきます。
スポーツは「カンコープレミアム」が約60校で採用されるなど、自社ブランドの販売拡大で長年目標としてきた売上高100億円を達成しそうです。ライセンスブランドの「リーボック」も斬新なブランドイメージへの転換で採用が増えています。「アディダス」は採用校が2桁%増と堅調に伸びています。
――貴社に限らず業界全体がさまざまなコストアップで利益の伸び悩む状況が続いています。
物流の効率化を進めており、全国に散らばっていた拠点を5カ所に集約していきます。今年10月には前橋市、12月には宮崎県都城市に物流センターを新設します。
売り上げ拡大で生産面も追い付いていません。来年の入学商戦に向けたMC校の獲得やスポーツの販売も堅調で、販売計画と連携しながら生産枠の管理をしていますが、根本的に(生産)能力が足りていない。基幹工場を軸に人工知能(AI)とモノのインターネット(IoT)を取り入れ、さまざまな仕組みを一新することも検討しています。今年中にも素案を出し生産改革を進めていきます。
――投資額は10億円ぐらいを想定しているのでしょうか。
それ以上になる可能性があります。減価償却によってしばらく利益が出ないかもしれませんね。
――8月に教育ソリューション事業の本格展開に向けて新会社「カンコーマナボネクト」を設立しました。
キャリア教育を中心に事業拡大を加速するとともに、専門性を持つ人材の育成も強めていきます。MCで制服を変えるだけでなく、中身を変え、学校ブランディング向上のお手伝いをしていければ。
当社には五輪出場を狙うアスリート社員もいて、今問題になっている部活動での取り組みといった幅広い支援ができる体制を構築しつつあります。地域社会や他の企業とも連携を図りながら、社会全体で人材育成の教育を支える仕組みを作っていければと考えています。
〈明石SUC 社長 河合 秀文 氏/現場の熱意、MC校獲得に〉
――明石スクールユニフォームカンパニー(明石SUC)などを含む明石グループの2019年5月期連結決算は、売上高が前期比2・1%増の267億円と伸ばした一方で、経常利益は18・6%減の9億2100万円と減らしました。
今年の入学商戦で制服のモデルチェンジ(MC)や「デサント」ブランドを中心にスポーツで新規採用校が増えたことで10期連続の増収でしたが、3期連続の減益となりました。政府が最低賃金で年率3%以上の引き上げを方針として掲げ、毎年人件費が上昇する中で生産性も上げていかないとつり合いが取れなくなっています。原材料や物流などさまざまなコストアップを吸収するために生産性を上げるのは限界に近づきつつあります。
特に自家工場の採算が悪化する傾向にあります。納期に合わせてモノ作りをするのではなく、日々の目標を設定する意識改革もしていかなければいけません。多品種小ロット短納期の流れが強まっており、採算が取れる原価の見方と実際にかかったコストでずれが生じ始めてきました。原価管理の見直しも進め、利益を確保できる体制の構築を進める必要があります。
――来年の入学商戦に向けての進捗(しんちょく)は。
MC校の獲得についてはここ10年で件数、生徒数とも最も多く、獲得校数が今年の入学商戦の1・5倍以上になっています。
――堅調な要因は。
現場(担当者)の熱意が学校に伝わり獲得につながってきました。特に私学は理事長の判断で制服が変わることが多いですが、担当者が現場の先生としっかり関係を構築できており、「ぜひ明石さんとやりたい」と後押ししてもらえ、結果的にMCにつながるケースが増えてきました。都市部だけでなく地方もMC校の獲得が増えつつあり、生徒数も大きく伸びそうです。
――防災教育の「明石SUCセーフティプロジェクト」も広がりを見せます。
新しい学校との関係構築にもつながっています。昨年、小学校向けの防災教材を投入しました。既に中高向けの教材も開発しており、教材を通じてこれまで疎遠だった学校との関係構築につながっていけばと思います。
――スポーツでは新ブランド「アスリッシュ」を投入しました。
今までにないテイストのウエアで、引き合いも増えつつあります。
――20年5月期は売上高272億円を計画しています。
売り上げは達成できると思いますが、きっちり利益が残るようにしていければと思っています。
〈菅公学生服/ジェンダーフリーの潮流強まる/女子高生の4人に1人選択制希望〉
菅公学生服が、このほど全国の女子高生600人を対象にスラックス制服についてインターネットリサーチを実施したところ、女子高生の4人に1人はスカートとスラックスの選択制を希望していることが分かった。近年は性的少数者(LGBT)の子供へのジェンダーフリーの観点から全国の学校でスラックスを採用する動きが増加、その影響もありそうだ。
女子制服はこれまでセーラー服やスーツ、ブレザーにチェック柄のスカートの組み合わせが多く見られるスタイルだったが、ブレザーにスラックスというパンツスタイルを採用する学校も増加傾向にある。スラックスは元々防寒や動きやすさの面から採用されてきたが、最近ではLGBTへの対応で、スカートとスラックスを生徒自身が選べる学校も増えてきた。
全国の女子高生を対象にスラックス制服に関する意識を調べたところ、女子制服で、スカートとスラックスを選択し着用できる学校があることを知っている女子高生は6割を超えた。女子制服のパンツスタイル(スラックス)については「自由で良い」「動きやすそう」「暖かそう」「格好いい」「かわいい」といった肯定的な回答が多く見られる一方で「違和感がある」「かわいくない」「女子高生らしくない」といった否定的な意見もあった(グラフ参照)。
その要因として、女子高校生が着たい制服のタイプは「スカート」(70・3%)、「スカートとスラックスのどちらも着たい」(25・2%)、「スラックス」(4・5%)と意見が分かれ、個人の嗜好(しこう)によって、パンツスタイル(スラックス)についても賛否両論がある。
調査結果はスカート派が圧倒的に多く、スラックス派は少数だったが、どちらも着用したいという回答も25・2%あり、女子高生の4人に1人がスカートとスラックスの選択制を望む結果となった。学校制服は、みんなが全く同じものを着るという時代から、その学校らしさを表現しながら、制服を着る生徒自身(本人)を第一に考えた制服を着るという時代にシフトしつつあるようだ。