高島産地の海外販路開拓/手応え大もコロナが待った/ブランド再構築で再び臨む

2020年03月18日 (水曜日)

 滋賀県・高島綿織物産地は近年、海外市場開拓事業を推進している。国、市、日本貿易振興機構(ジェトロ)滋賀などの支援を受けながら、アジア各国で展示会出展、現地百貨店や量販店での催事販売、デザイナーとの協業・打ち合わせなどを進めて5年。順調に進んだものもあれば、うまく進んでいないものもある。安定的な商流作りへの課題は山積。産地の5年間を振り返りつつ、今後を探る。(吉田武史)

 日本古来の織物技法であるちぢみ(クレープ、楊柳)生地を特産とする高島産地。その商品特性は、シボ(生地表面の細かな凹凸)による肌離れの良さと通気性、天然のストレッチ性にある。高温多湿な日本の夏に適した生地として古くから認知され、ステテコなどのインナー、シーツなどの寝具、パジャマなどのルームウエアとして日本人に親しまれてきた。ただ、これまでは間接を含めてこの生地が輸出されることはほとんどなかった。

 産地関係者はその理由を「日本国内でそれなりにずっと需要があった」ためだと説明する。最近でこそファッション衣料に使われることも増えているが、用途が限定されていたため生地商社などが輸出用の生地として担いでこなかったということもある。

 しかし、国内需要は少子高齢化に加えて合繊織物の進化や丸編み地の浸透、ステテコ着用者の減少などを背景に減退。こうした中、5年前から高島産地の海外市場開拓が始まった。

 インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム、シンガポール、香港、台湾などに産地有志が赴き、催事販売やデザイナーとのマッチング、展示会出展などをこなした。金額の面でも情報収集の面でも一定の成果はあったものの、安定的な商流が構築できたとは言い難く、停滞感も漂った。

 この局面を変える契機になったかもしれないのが、昨年9月に出展した「インターテキスタイル上海」だ。生地見本の依頼は71社・293種類に上り、参加した織布企業からも「確かな手応えがあった」との声が挙がった。

 同展を契機に中国ブランドとの商談が進み、日本の生地商社からも「一緒に中国開拓を」と声が掛かった。海外販路開拓を産地有志の中で主導してきた立場の杉岡織布・杉岡定弘社長によれば、中国ブランドや日本の商社と幾つかの案件が進行していたが、いずれも新型コロナウイルスの影響で保留の状態と言う。産地の悲願である海外市場開拓に新型コロナが待ったをかけた格好だ。

 ジェトロの支援は3年を経て今年度(2020年3月)で終了する。産地の目は来期以降も海外に向いており、別の補助事業を受ける段取りも進んでいる。ただ、「手が回らない」というのも実情だ。産地は昨年から、地域ブランド「高島ちぢみ」のリブランディングに奔走中。国内でこれが浸透すれば、自ずと海外市場が開けるかもしれない。その際には、5年間の活動で得た生の情報や現地の最前線で動いた肌感覚が生かされるだろう。